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リュウセンの冒険者

コミック二話掲載記念

 その日、リュウセンの公的冒険者ギルドは、ある意味において異様な雰囲気に包まれることとなった。

 異様なというのは、いつもと違ったと言い換えても間違えではない。

 なにしろ、ギルド内に美人二人が入ってきたのに、誰一人として声をかけようとする者がいなかったのだ。

 いつもであれば必ず一人は動くはずなのに、である。

 その美人たちが誰もが知っている者であればそんなことは起こらないのだが、その二人の美人は少なくともリュウセンの冒険者ギルドでは初めて見る顔だった。

 それにも拘わらず動く者が一人もいなかったのは、明らかにその美人たちにその場にいた冒険者が気圧されたからである。

 ただし、その事実に気付いていたのはその場にいた者たちの中でもごく一部だけであった。

 そしてその一部の者たちは、紛れもなくギルド内では強者として知られる者ばかりであった。

 

「よう、アーク。いつものお前なら声をかけたはずだがどうしたんだ? 調子が出なかったか?」

 美人二人の背中を見送ったアークは、肩を叩かれながらそう揶揄われて内心でため息をついていた。

 アークは自分が女好きであることは認めているし、周囲にもそのことが知られている。

 女好きを隠すつもりもないのでそれは構わないとさえアークは考えているのだが、それとこれとは話が別だ。

「なにを言っているのですか。そう思うのであれば、あなたが声をかければよかったのではありませんか、デニス?」

「俺がか? はは。そいつは勘弁だ。お前と違って俺は身の程をわきまえているからな」

 肩を竦めながらそう返してきたデニスに、アークはチッと舌打ちをして見せた。

 勿論、わざと分かり易く見せているのだ。

 

 それでもなお、にやけたままの顔でこちらを見てくるデニスに、アークは不機嫌な顔を隠さないまま言った。

「……私だって命は惜しいですからね。あなたも魔物の尾は自ら進んで踏みたくはないでしょう?」

「おう。随分とあっさりと認めるんだな」

 デニスはそう言いながら少しだけ驚いた表情でアークを見た。

「当たり前です。あれは、誰がどう言おうと意見を変えるような者たちではありません。下手に手を出せば噛みつかれて終わりです」

「ははは。いや、笑い事ではないな。俺も同感だ」

 アークの言葉に少しだけ笑い返したデニスだったが、すぐに真顔になって頷いた。

 基本的にはデニスもアークと同意見なのだ。

 すなわち、あの美人二人には手を出せばこちらが手ひどくやられるだけだと。

 

 リュウセンの公的冒険者ギルドの中では強者に数えられる二人の会話に、その場にいたほかの冒険者の注目が集まっていた。

 アークとデニスは、そのことをきちんと理解したうえで先ほどのような話をしているのだ。

 二人の会話には、ギルド内に余計なトラブルを持ち込むなよという意味が多分に含まれている。

 勿論、いかにアークとデニスが高ランクといえども、いうことを聞くかどうかはそれぞれの冒険者の判断による。

 二人の会話を聞いている者たちの一部には、苦々しくそれを見ている者がいるのも事実であった。

 さらにいえば、アークとデニスが高ランク冒険者の一員であるのは確かだが、だからといって一番であるというわけではない。

 リュウセンの町には二人の実力を超える者がまだまだ存在しているので、アークとデニスの言葉を話半分に聞く者もいる。

 結果として、この日ギルドに訪れた美人二人についての話は、中途半端な状態で広まって行くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 アークとデニスの会話は、リュウセンの冒険者に中途半端にしか伝わらなかったが、それがすぐに美人二人への迷惑行為へと繋がったわけではない。

 次にギルドに来た時にはという想いを抱く者も少なくなかったが、結局多くの者が突撃するという事態には至らなかった。

 その理由は簡単で、アークとデニスよりもランクの高いより影響力のある者たちが、数日にうちに考助たちの実力を認めてしまったからだ。

 それどころか、自分たちのパーティに入って貰おうと勧誘に出るところもあるくらいである。

 

 とはいえ、それらの対応を行っているのはあくまでもほとんど(・・・・)の冒険者であって、一部は自分たちの気分の赴くままに行動する者たちもいた。

「ふー。やれやれですね」

「く、くそが……」

 埃を払うように両手をポンポンと何度か合わせたアークを見て、数人の男たちが睨みながら悪態をついてきた。

 もっともそれは、地面にへばりついた状態でされていたので、まったく迫力などなかったのだが。

 

 男たちをそんな状態にしたアークは、男たちを無視して相棒であるデニスを見た。

「そちらはどう……と、聞くほどでもありませんでしたか」

「まあな。この程度であんな態度を取っていたとは、正気かといいたいが……まあ、調子に乗っているときは周りのことなど目に入らないか」

「確かにそうかもしれませんが……どうしました? 貴方がそんな愁傷なことを言うなんて」

 心底不思議そうな表情を浮かべて聞いてきたアークに、デニスは舌打ちを返した。

「お前に言われる筋合いは――おっと。いいから大人しくしてろ」

 アークに反論しようとしたデニスだったが、男たちの中で起き上がって反撃をして来ようとした者がいたことに気付いて、すぐにその男を剣を鞘に入れたまま倒してしまった。

 

 アークとデニスは、この男たちが例の美人二人に対してなにやら良からぬことを考えているという話を耳にして、こうしてわざわざそれを潰しに来たのだ。

 勿論、あの美人たちの為に無償で動いているわけではない。

 とあるギルドから本当にそれほどの実力があるのか、確認してほしいという依頼があったのだ。

 そのギルドは、もし本当に男たちに実力があるのであれば、勧誘に動こうと考えていたようだ。

 ちなみにそのギルトは、本当にそれほどの実力があると考えているわけではない。

 大言を吐くだけの可能性があるのであれば、ギルドに誘って育成をしていけばいいとも考えていたようである。

 ……結果からすれば、アークとデニスの目から見た限りでは可能性もなく、ただの口だけだったということが良くわかったのだが。

 

 あの美人たちが現れてから数日の間、アークとデニスは似たような依頼を各ギルドから受けていた。

 どれもこれも有名どころばかりなのは、さすがのふたりも笑ってしまっていた。

 とはいえ、この手の依頼もすぐに打ち止めになることは二人とも分かっている。

 有望株は既にどこかのギルドに所属していて、残っているのは今目の前にいる男たちのような者たちだけなのだ。

 とはいえ、それらのギルドが一縷の望みをかけて依頼をしているのだが、そうした者たちも残りが少なくなっていたのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 美人二人が現れてしばらくの間は、アークとデニスが行ったことと似たようなことがリュウセンの町周辺で繰り返されることとなる。

 結果として、話題の中心である美人二人(と男一人)に対するおかしな行動は激減することとなるわけだが、そのことを当人たちは気付くことなく町から離れることになるのであった。

考助達がリュウセンに来たばかりの頃の裏話でした。


コミックウォーカー様、ニコニコ静画様にて、「塔の管理をしてみよう」第二話が公開されています。

是非ともご覧ください。

よろしくお願いいたします。

m(__)m

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