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飛龍の召喚

 考助が、その魔道具を作ろうと思い至ったのは、シュレインのこんな一言からであった。

「せっかく飛龍に乗れるようになったのはいいのじゃが、今いる階層でしか乗れないというのは、少し寂しいの」

 シュレインたちは、考助のように簡単に召喚陣を用意して飛龍を召喚するということができない。

 そのため、他の階層に移動するには転移門を使って移動するしかないので、若干不便なのだ。

 コレットのように、世界樹のある階層まで飛龍を連れて行って乗り回すということもできるが、それだと飛龍が寂しい思いをすることになる。

 もっともそれはあくまでも人としての感覚で、飛龍は一体のみでいたとしても寂しいと思わないという可能性もあるのだが。

 

 飛龍たちの思いはともかくとして、考助はシュレインの言葉に考え込むような表情になった。

「うーん。僕みたいに、シュレインたちが飛龍を召喚できるようになればいいんだけれどね」

「ずいぶんと簡単に言うの。無機物ならともかくあれほどの生物の召喚など、そう易々と出来るものではないぞ?」

 シュレインが僅かに苦笑しながらそう言った。

 考助、コウヒ、ミツキは簡単に召喚陣を作り出して召喚を行っているが、そもそも召喚陣はそう簡単に作れるものではない。

 媒体となるような素材を用意して召喚を行えば、少しは楽に召喚できるようになるが、飛龍の召喚を行うための素材となるとそうそう気軽に使えるような素材ではないのだ。

「そうかなあ? 結構簡単にできるようになったけれど?」

 考助がコーを召喚できるようになったのは、この世界に来てすぐのことだった。

 魔法の知識さえ乏しかった考助が、すぐにできるようになったのだから簡単にできるはずだと考えたのだが、シュレインはこれにも首を左右に振った。

「コウスケの場合は、契約を結んでいたか、眷属になっているという条件があるからの。吾らはその条件がないからそう簡単にはいかんぞ?」

「それもそうか」

 コーの場合は、最初から眷属だったわけではないが、コウヒの力を借りて契約を結んでいた。

 そのために、簡単な召喚だけでべるようになっていたのも大きい。

 そうした条件がないシュレインたちが飛龍を召喚できるようになるのは、やはり難しいのだ。

 それに、そもそも契約が結べたとしてももっと根本的な問題もある。

「吾などは多少召喚陣もかじっているからいいが、特にコレットなどは一から覚えるとなると、苦労すると思うがの?」

「そうなんだよねえ」

 考助は魔法陣というものに適性があったのか、すぐに召喚陣も使うことができるようになった。

 だが、魔法陣に適性がない者も当然のようにいる。

 というよりも、考助のように魔法陣を次々と使いこなせるようになる者は、ほとんどいないのである。

 そうした事情から、結果として先のシュレインの言葉に繋がるわけだ。

「……簡易魔法陣は……ダメか。他に……」

 腕を組んでぶつぶつと呟き始めた考助を見たシュレインは、考助がいつものように集中して考え始めたことを理解した。

 この調子であれば、何か思い付くこともあるかもしれない。

 そう考えたシュレインは、考助の邪魔にならないようにその場を離れるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シュレインとの会話をしたあと、しばらくその場で考え込む様子を見せていた考助は、おもむろに研究室に閉じこもった。

 何か思いついたときの考助はいつもこんな感じなので、周囲の者たちも心配したりはしていない。

 管理層に来たばかりのフローリアは戸惑いを見せていたが、シルヴィアから説明を受けて一応納得していた。

 勿論、コウヒやミツキがいるので、食事を抜くといった不健康な生活を送ることになるわけではない。

 シュレインにとっては、何度も繰り返されている日常が数日過ぎたある日。

 考助が満面の笑みを浮かべて、研究室の半引き籠り生活から帰ってきた。

 

 考助の顔を見たシュレインが、考助に問いかけた。

「どうやらうまく言ったようじゃの」

「うん。何とかなりそうだよ」

 そう言って頷いた考助は、手に持っていたブレスレットをシュレインに差し出した。

「これが?」

「うん。飛龍との契約と召喚ができるようになる魔道具だね」

 考助の説明に、シュレインが目を見開いた。

 手に持っているブレスレットを見て契約か召喚かのどちらかができるようになる物を想像していたのだが、考助の魔道具の創作意欲はシュレインの想像を上回っていた。

 シュレインは、この短期間に両方の機能を兼ね備えて、しかもブレスレットという小さな道具にまとめるとは思っていなかったのである。

 驚くシュレインの顔を見て益々気をよくした考助は、早速とばかりに提案を行った。

「それじゃあ、上手く召喚できるようになるか、試しに行こうか!」

「何? 今からかの?」

「そのつもりだけど、何か急ぎの用事でもあった?」

 少し首を傾げて考えたシュレインは、首を左右に振った。

「いや、ないの」

「それじゃあ、さっそく行ってみよう!」

 張り切った様子でそう言った考助は、ぐいぐいとシュレインの背中を押し始めた。

「こら、ちょっと待たんか。ちゃんと行くからそう急くな。……まったく。こういうときだけ強引なのじゃな」

 シュレインの最後の言葉は、小さな呟きだったため、残念ながら考助の耳には届かなかった。

 

 

 飛龍たちのいる層に移動したシュレインは、さっそく自分の飛龍に契約から試してみることにした。

「ふむ。ここに触れればいいのじゃな?」

 考助からブレスレットの使い方を一通り聞いたあと、シュレインは再度考助に確認を取った。

「まずは契約からだからね。ちゃんと合っているよ」

 考助がそう答えるのを待ってから、シュレインは改めて飛龍に向き直り、ブレスレットに触れてみた。

 すると、ブレスレットがわずかに赤い光を発して、その光が飛龍に向かって飛んで行く。

 飛龍はそれが攻撃の光ではないとわかっているのか、おとなしく光が飛んでくるのを受け入れていた。

 ほんのわずかな間、赤い光に包まれていた飛龍だったが、すぐにいつもの通りの状態に戻る。

 それを確認した考助は、すぐに飛龍のステータスに【契約中(シュレイン)】と表示されているのを確認した。

「うん。上手くいったみたいだね」

「ほう。随分と簡単じゃの?」

「まあ、そうじゃないと意味がないからね。さあ、あとは召喚がうまくいくかどうかだね。場所を移して試してみようか!」

 こんなにあっさりと契約を終わらせただけでもシュレインにとっては驚きなのだが、考助にとってはまだ一つ目の段階だ。

 急かす考助に苦笑しながら、シュレインは飛龍たちがいる階層とは別の場所へと向かった。

 

 場所を変えて飛龍の召喚を試した結果、きちんと契約した飛龍を召喚することができた。

 今回作ったブレスレットは、シュレイン専用の物のため、別の者は使用することはできない。

 こうしてシュレインはいつでも飛龍を召喚して飛び回ることができるようになったわけだが、それを知った他の管理層メンバーが同じものを欲しがったのは、当然のことなのであった。

三巻発売記念SS!

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