巡査・頭山怛朗の活躍(第十話 「三拍子揃った女」殺人事件)
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「本音を語っていいですか? 」と、男が言った。
「勿論」と、警部補が言った。「それが松下さんを殺した犯人逮捕に役立ちます」
「彼女はある意味、三拍子そろっていました。ブス、頭が悪い、性格が歪んでいる」
「きついですね」
「“ブス”。議論の必要はないと思います。“頭が悪い”。ワードはエクセルを何度、教えても覚えませんでした。パワーポイントは論外。アクセスなんて異星の話ですよ……。彼女が話すことは他人の悪口ばかり。それも“有る事無い事”、否、彼女の場合は“無い事無い事”」
「では、なぜ、そんな彼女を社員として雇っていたんですか? 」
「彼女は社長のたった一人の姪っ子でして。社長夫婦には子どもはいません。ですから、社長は姪っ子を盲愛していました。社長も彼女の性格は分かっていて、“頼む! ”と頭を下げられたのです。社長が頭を下げたのですよ。誰も“嫌”とは言えませんでした。それに彼女の結婚相手が将来の……」
「この会社の社長? 従業員三百人の会社の社長? 」
「そう言うことです。誰も彼女を完全には無視することはできない! 」
「松下さん、近頃、変な事、言っていませんでしたか? 」突然、若い巡査が言った。誰かに似ていた。そうだ、バナナマンの日村だ……。
「何時も、変な事を言っていました」
「で、しょうけど……」
「そう言えば“カンムリでウミを見た”とか言っていました。」
「どういい言う意味ですか? 」と、警部補が言った。
「さぁ? でも最近は……」
「すみません、お宅の社員に“ウミ”が付く社員はいませんか? 」
「いますよ。海野という新入社員がいます。なかなかのイケメンで優秀です」
二週間程後、M商事の新入社員海野俊三は取調室のテーブルの向こうにいた。
「一月程前、冠山の山頂で若い男性の絞殺死体が発見されたことはご存知ですか? 」と、警部補が言った。
「それなら、新聞で……。それからテレビでも」若い男は動揺していた。
「個人的には? 」
「全然。全く知りません。なぜ、呼ばれたのか検討も付かない」
「では、なぜ、殺された男性の右手の爪の間からあなたのDNAが発見されたのか説明してもらえますか? 」
「不当だ! 人のDNAを本人のDNAを勝手に採取するなんて違法だ! 」
「あなたは、毎夜、デートしている。デートの相手は若い女性の時もあれば中年の女性の時もある。若い男性の時もある。あなたのタバコの吸殻をファミレスで採取させて頂きました。あなたが捨てたゴミをから採取したDNAは適法です」バナナマンの日村似の巡査が言った。
「……」
「あなたが付き合っている女性・男性に聞きました。“最近、海野さんに変わった事はないか? ”。皆さん、異口同音に答えられました。“一週間ほど逢ってもらえなかった!”。で、ある人はこうも言っていました。“ブスで逢っているのをみた”。その特徴が殺された杉下日登美にぴったりでした。杉下さんの写真を見せたら“この人だ! ”と証言してくれました」
「……」
「一ヶ月ほど前の土曜日、あなたは殺された男性と冠山にデートに出かけた。原因は分かりませんが二人は争いになって、あなたは男性を殺してしまう。同僚の松下日登美さんは、偶然にも松下さんはあなたは冠山で目撃した。恐らく、松下さんはあなたが男性を殺したのを直接の現場は見ていないと思いますが、“カンムリでウミを見た”と言った。“カンムリ”が冠山のことと気が付く者がいても、冠山からは絶対に“海”は見えない。で、“何時もの事”と誰も相手にしなかった。でも、彼女が言う“ウミ”は“海”ではなくあなた、“海野”だった。松下さんの話を誰も取り合わなくても、殺人者本人としてはほっておく訳にはいかなかった……」
暫くの沈黙の後、男は言った。「あの女、“私と結婚してくれ。そうすれば全てを忘れてあげる”と言った。しばらく付き合ったがとても我慢できなかった。いくら“社長の椅子付き”でも我慢ならなかった。おれは、今、少しも後悔していない。あんな女と結婚するくらいなら刑務所の方がマシだ」