モノクロームフィルター
それは、どんな色なのだろうか。
最後まで与えられることがなかった私には想像もつかない。
やっと冬が終わり、春が訪れたと思ったら、もう初夏の気配が近づいている。
なのに夜は涼しく、そこがまだ春なのだと感じられる季節。
桜が散って、青々とした葉をつける樹木は生命を感じさせ、朝露に輝くのだ。
ああ、私の目に映り込む世界は、こんなにも色彩を失っているというのに。
この時期にしては珍しく仕事のない休日。
プラネタリウムも考えたが、癒しを求めて訪れた水族館の巨大な水槽な前で、優雅に泳ぐペンギンの群れを眺める。
人工的に作られた箱庭は、彼らが生きやすいように整備されているのだろう。
きっと彼らは、もう自然の中では生きられない。
こちらの方が、居心地も、都合もよいのだから。
私がいま隣にいる彼へしたように、その環境に依存させただけのことだ。
彼の居心地のよい空間を演出して、無意識に望んでいる言葉をかけて、作為的に私といたいと思わせるよう仕向けただけ。
だから、私のことが好きで一緒にいてくれるようになったとは思わない。
すべては嘘偽りでしかない感情なのだから。
彼が私に向けてくれる感情は、私が彼に与えたもので。
彼が私に還元してくれないことを、私は痛いほどよく知っているのだから、期待をしてはいけない。
だって、彼が私といてくれるのは、彼の無意識化の欲望を私が満たせるから。
たった、それだけの理由なのです。
もしも、私の望む言葉を以て、私の心を満たしてくれる誰かがいるのならば、このモノクロームフィルターは壊れるのだろうか。
彼の手に触れ、睦言のように指を絡ませて思った。
私の求めるものを与えて欲しいと。貪欲に。ただ、願うのだ。