3.歩み始め。
「まずはそのカラダに、教え込むしかないかな」
「どういうこと…?」
(まさか、襲われる!?)
逃げ道は完全に閉ざされていて、なすすべはない。全ては漣次第。
(怖いよーっ!!!)
マリアは目を固く閉じ、全身に力をいれて、固まった。
―………。
(いいい今、おでこに、き、ききき――――ーーーっ!!?)
マリアの額の中心に、そっと漣の唇が羽のようにフワリとかるく触れた。
「…今日はこれだけにしておいてあげる。あまり慣れていないようだからね」
漣はすぐに身を引いた。
(過度にビビってた自分はバカだった…。最初から刺激的なコトなんてするはずないよねー)
マリアはホッと胸を撫で下ろした。
しかし、胸の高鳴りはおさまってはくれなかった。
「本当はもうちょっとしたかったけど」
(…こいつは欲求不満なのか)
「…何したかったの」
マリアは恐る恐る漣に訊いてみた。
「ん~。手つなぎたかった。段階踏んでいったほうが良いと思ったけど、押し倒してしまったから、少しハイレベルなコトにした。」
(この…破廉恥野郎がっ!!!)
漣は何の躊躇もなく答えた。
凡人なら出会ってすぐの異性を、何らかの違反を犯した者でなければ、押し倒すなんてしないはずだし、するにしてもかなりの勇気と相当の覚悟がいるはずだ。額への接吻もそう。貴族がお近づきのしるしに手の甲にするのなら、まだわかる。マリアは、貴族でもその末裔でもない、何処にでも居るような非リア充だった(?)女子高生。
―でも、これが漣のモノだという刻印をつけるための行為で、リア充の始まりだというのなら?
そうとなれば話は別なのかもしれない。
「寂しい時はいつでも言いなよ?」
あまく優しい漣の言葉。マリアにとっては優しすぎて、空っぽだった彼女の何かを満たしていく。
(…この優しさに縋っていいのかな)
出会って間もない、目の前にいる美青年はマリアを自分の彼女だと言う。今も信じられないが、ちょっぴり強引で、優しくて―――。
―ほろり。
「マリアっ!?」
「………ぅ」
(縹君…。どうして、私なんかに………?)
マリアの胸のうちから溢れる思い。それは熱い雫と化し、彼女の頬を伝っていく。
「ぁ…っ」
「泣くなよ。可愛いからって…」
ちゅっ、と音をたてて、漣に涙を吸われる。
「…寂しさなんて、俺が忘れさせてやるよ」
―フワリ。
「…んんっ!!?」
(唇が…っ)
(非リア充なのに…っ!!!)
それは自分には全く縁が無いと思っていた行為。
唇の柔らかく熱い感触。指先ではない。漣の顔が至近距離にあることからしてこれは―――。
(初恋なんてまだだったのに)
(非リア充だったのに)
―なんか目を開いてるのは、ぎこちない…。
マリアはゆっくりと目を閉じた。そして漣に全てを委ねる。
「…ぅん………。………っ!?」
濡れた肉塊が彼女の唇をそっと割り開き、口の中にそっと潜り込む。
「…もっと口開けて。うまく入らないじゃないか」
(だったら…、舌入れてこないで…っ)
マリアは漣の舌を頑なに拒んだ。接吻どころか、異性との至近距離にすら慣れていない彼女のカラダは、警報を発するばかりだ。
「…嫌なの?」
漣との接吻からやっと解放された。