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1.異世界転生完了

「うぅ…」

(背中が痛い…)

 まるで何かに打ち付けられたかのような、背中全体に広がる痛みでマリアは目を覚ました。背中の痛みを堪えながら、ゆっくりと起き上がる。

(家の近くに瞬間移動したのかな!?)

 視界に広がるのは、マリアの自宅付近にある、幼い頃から見慣れている小さな公園だった。よく遊んだブランコや滑り台、砂場がある。

 固い木の感触から、どうやらマリアは公園に1つしかない、ピンクのペンキが塗られた木のベンチに瞬間移動したようだ。背中の痛みは、瞬間移動の際にベンチに着地失敗して、背中から落下して打ちつけたからだろう。

(早く家に帰って、お母さん作ったの温かいご飯を食べたいな)

 今朝、マリアの母は彼女の好きなクリームシチューを作ると言っていた。彼女はそれを頼りに部活の厳しい練習メニューをこなしてきた。

(もうお腹ペコペコ…)

 グゥ~~~っと、胃が空腹を訴え、早く食べ物が欲しいと強請っている。

(早く家に帰ろう)

 マリアはベンチから立ち上がり、家に帰るべく、公園の出入り口へ向かった。

「ちょっと君!」

「はい?」

 公園を出たその直後、警察官に呼び止められた。しかし、彼はおかしい。

(なんて格好!)

 警察官の制服は濃いピンク色だった。まさに“全身ピンクマン”と言いたくなるくらい、彼はピンク色に包まれている。

「何でしょうか?」

「私はこういう者だ」

 彼は刑事ドラマによく出てくるシーンのように、刑事が持っているアレをマリアに見せた。

『花村警察署 非リア充対策課 篁 幸司』

(非リア充対策課!?)

 ―非リア充対策課、そんな課は警察に無いはずだ。これは夢の中なんだ。

 マリアは自ら頬を引っ張った。

「…ぃたい」

 頬の痛みがこれは現実なのだと彼女に告げた。

「君、説明しなくてもわかると思うけど、15才以上の女性は夜間に配偶者もしくは彼氏の同伴無しで外出してはならないってわかってるよね?」

(はぁ!?)

 マリアにとって警察官の言葉は初耳だった。親からそんなことを教えられたことは無い。

(こいつ、ピンクマンなだけあって、頭の中おかしい!)

「…と言うことで、君には少し署まできてもらうよ」

 マリアは警察官に腕を掴まれた。

「嫌だ、離せっ!!!」

「抵抗するんじゃないよ?」

 彼女は必死に彼の手を振り解こうとした。しかし、彼の力に適うはずもなく、体力の浪費と化してしまう。

(家に帰りたい!)

 ―助けて………っ!!!

 マリアは助けを祈った。

 その直後。

「俺の“彼女”に手を出さないでくれるかな」

 ドスのきいた、低い声がマリアと警察官の耳に入った。

「誰だ?もしかして君がこの子の彼女だと言うのかい?」

「そうだけど?」

 マリアの目線の先には彼女と同年代の男子がいた。そんな彼の整った顔立ちにマリアは思わず見とれてしまった。

 スッとした鼻筋に、くっきりとした二重目蓋に、ちょっぴりつり上がった目、そこに黒曜石でも嵌め込んだような漆黒の瞳。それを引き立たせるきめ細かく透けてしまいそうなくらい白い肌、薄く紅をひいたような唇。顔のパーツがその白い肌にバランスよく配置されている。

 髪は瞳と同じく混じり気のない漆黒で、整った顔立ちに似合うよう、上手にセットされている。

 頭部はバッチリ決まっているが、体格もそれに負けていない。身長はマリアの頭1個ぶんくらい高い。運動部なのか自主的なトレーニングによって鍛えられたのか、程良く引き締まった筋肉が、彼の着こなすシックなブレザーからわずかにうつっている。

 そんな彼は、少女マンガという二次元の世界から、現実という三次元にそのまま連れて来られたようなイケメンだった。

 それに信じられないのは、そのイケメンがマリアの彼氏だと言っていることだ。彼女には彼氏どころか、片思いしたことすらない。

「ね、マリア?」

(八神、じゃなくて、マリア!?)

 ホストが見せるような、極上の爽やかキラースマイルを彼が振り撒いた。思わずメロメロになりそうになるが、なんとか意識を目の前に集中させる。

 冷静にマリアはイケメンの名前すら知らない。しかし彼は彼女の名前を知っていた。彼女は全く訳がわからなくなっていた。

「俺さ、昨日マリアの部活帰りに告白しただろ。それをまだ夢だったと言い張るのか。…それとも異世界のマリアと入れ替わったのか」

 イケメンはマリアの態度に苛立っているようだ。その低い声音と口調からきいてとれる。

「…て言うか、あんた誰!?」

「…そんなに俺がマリアに告白したこと、夢だと思っているみたいだな。俺は(ハナダ) (レン)

(そんなヤツ知らんわっ!!!)

「やはりコレは異世界だ。ん?異世界?」 ―異世界転生。

 5文字の漢字がマリアの脳内を過ぎる。「まぁ…、君の彼女だったんだね。縹 漣、か。くれぐれも彼女に寂しい思いをさせないようにな」

「え?」

 ピンクの警察官は脱兎の如く去って行った。そして、夜の寒い公園に残されたのはマリアと漣、2人だけだった。

「これは…どういう、こ、と…?」

 非リア充の取り締まるピンクの警察官に、マリアの自分の彼氏だと言い張るイケメン‐縹 漣。2人の言っていることは全て夢だ。

 それを確かめるべく、マリアは漣に今の首相をきいてみることにした。「縹君だっけ?」

「そうだけど」

「今の首相ってさ、」

「安●首相だろ。そんなの小学生でも知ってるさ」

(よかった…)

 どうやらここは現実のようだ。

 漣の解答にマリアは安堵した。

「ア●ノミクスって…」

「何ソレ?」

 ―バリィーーーーーンっ!!!

 マリアの中で何かが大きな音を立てて崩壊した。

「ちょっ…、あんた非常識すぎるわ!ア●ノミクスを知」

「ア●ノミクスなんか知らんわ。彼が行っているのは日本リア充政策。日本の少子化を食い止めるのにはまず男女のペアを作るべきという声が多数あがり、非リア充対策に関する法律が2014年12月10日から施行されたっていうのは、文字の書けない幼稚園児でもしってるが?」

「嘘つけーーーっ!!!」

 どうやらマリアにとっての“常識”は、通用しないようだ。


『全世界のリア充ども、爆発しろーーーっ!!!』


 ―そう叫んだのに。

「ぃ、嫌あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 女子高生の悲鳴が雲1つ無い星空に響き渡る。彼女はその悲鳴による酸欠と部活の激しい練習メニューによる空腹によって意識を手放した。

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