主任がゆく(千文字お題小説)PART11
お借りしたお題は「最終回」です。
松子は瀧本ななみが住之江博己と兄妹だと知り、仰天した。
「松子さんが兄の彼女なら大賛成です」
ななみはずっと大阪で育ち、学校は東京だった。
大好きな兄を追いかけての上京だったが、父親と母親の関係が最悪だったので、兄の居場所はわからず、会う事はできなかった。
それでもきょうだいがいない松子には羨ましい関係だった。
「是非、付き合ってくださいね」
別れ際に更に念を押され、松子は苦笑いして応じた。
(愛さんに応援されて、ななみちゃんにも応援されて……)
松子は感極まって涙ぐんでしまった。
(今度こそ……)
翌朝、松子はいつもより早く出勤した。
イケメン三人組と鉢合わせしないようにと思ったからだ。
(誰もいませんように)
松子は祈りながら店内に入った。ところが、
「おはようございます」
一番会いたくない本社から来た人事担当の杉本美樹がいた。
「おはようございます……」
あまりにも意外な人物の登場に松子は一瞬固まりかけた。
「どうしたんですか、足立さん? 幽霊にでも会ったような顔をして? 私がまだこちらにいたのが驚きですか?」
相変わらずの勝ち誇った物言いに松子は胃が痛くなった。
「貴女も結構な策士ですね。住之江さんに私の事を言いつけたりして……」
美樹の顔つきが変わった。元々キツい顔をしているが、鬼の形相だ。
「言いつけるだなんて……」
松子は美樹の誤解を解こうと口を開きかけたが、
「貴女にだけは絶対に渡さない。他のどの女と付き合おうと我慢できるけど、あんただけは我慢できない!」
美樹はいきなり松子に掴みかかって来た。
「やめて、杉本さん!」
かつての松子だったら一瞬にして美樹を組み伏せていただろうが、激痩せした今はそのパワーはない。
しかも、美樹には何かが取り憑いているかのようで、力が尋常ではないのだ。
松子は美樹に爪を立てられて腕を掴まれ、痛みで顔を歪ませた。
「あんたなんか、あんたなんか!」
美樹は目を血走らせ、髪を振り乱して叫んだ。松子はその執念に怯えてしまい、なす術がない。
「何をしているんだ、杉本さん!?」
そこへ住之江が入って来た。美樹はキッと住之江を見て、
「あんたが悪いのよ! 私を振って、こんな女に! 許さない!」
今度は住之江に敵意を向けた。松子は美樹に掴まれた腕を擦りながら美樹と住之江を交互に見た。
「あんた達が結ばれて最終回だなんて、絶対に認めないから!」
美樹は住之江と松子を睨みつけて店を飛び出していった。
さて、どうなりますか。