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図書室の魔皇様  作者: 斑鳩かかづ
第一章 聖戦篇
1/21

プロローグ

 山間(やまあい)の狭い道で、滝のような豪雨の中を、六騎の騎馬が移動していた。

 全員、雨除けにフード付きの厚手の皮のマントを羽織っている。先頭を行くのは、体格などから板金鎧をまとった戦士風の男のようだ。


「ケイマン卿、大丈夫ですか!」


 先頭の男が、戦士らしい野太い声を、背後の騎馬に投げかける。その騎馬の騎手は男に比して明らかに小柄で、手綱(たづな)を握る手が紙のように真っ白になっていた。騎上でなければ、雨の冷たさでガタガタと震えているのが分かっただろう。


「大丈夫です!」


 雨音に負けじと張り上げた声は、女性と言うより少女のものだった。フードの脇から、濡れた金髪がはみ出ている。肌の色と髪の色から、おそらくは東方人と思われた。


 彼らは通称、『魔皇討伐隊(まおうとうばつたい)』と呼ばれている。

 東方三国同盟の(ゆう)、グリフ王国を出立(しゅったつ)し、大陸南部にある通称『ダナンの地』に出現したという『魔皇』なる者を討伐(とうばつ)する使命を受けた、たった六人の精鋭であった。

 すでに奥深くダナンの地に浸透(しんとう)していたが、いまだ『魔皇』なる存在には遭遇していない。そして今は、百名余もの野盗集団と激戦を繰り広げ、そしてそれらをたった六人で撃滅させた、その帰路であった。


 本来、必要の無い戦いではあったと、戦士などは思う。しかしこの部隊の指揮権は、彼が『ケイマン卿』と呼んだ少女にある。そして彼女は、近隣の村落に無法の限りを尽くしていた野盗集団を、見過ごすことが出来なかった。


 その判断は、青いし若い。しかし結果を見れば、『魔皇討伐隊』はたった六人で百名からの野盗をことごとく、一人の損害も無く討ち取り、壊滅させてしまった。

 少女は「神は(よみ)したもう」と言ったが、しかしながら神の加護はそこまでで、帰路の途中でこの豪雨に降られたのだ。山賊が略奪に使う道が平坦であるはずも無く、雨と合わせてかなりの難所と化している。


 このような狭隘(きょうあい)な場所を、さらに豪雨の中を移動するのは、あまり適切ではない。ましてや、山間の足場の悪い場所である。しかしながら雨宿りや休憩できる適当な場所も無く、彼らはやむを得ず休憩の可能な岩場まで、雨の中を行軍せざるを得なかったのだ。


 その時、不意に少女の後方、やはりもう一騎の小柄な騎手が、ふっと右側の斜面を見上げた。その瞬間には「いかん!」と声を上げる。こちらは女性の声だった。


 少女以外が、反応し手綱を引いた。正しくは、少女のみが反応が遅れたと言うべきか。

 少女の馬が二馬身ほど隊から突出した瞬間、どん! という噴出音と共に、斜面から土砂を伴って水が噴き出した。反応の送れた少女が、まともに巻き込まれて道の反対側——下りの斜面へ馬ごと押し流される。


「ケイマン卿!」


 先頭の男が手を伸ばすが、土砂に(はば)まれ届かない。『ケイマン卿』は声を上げる(いとま)も無く、一瞬にして谷底に押し流されていった。


 文字通りの鉄砲水に部隊と隘路(あいろ)を分断され、指揮官を失った『魔皇討伐隊』は、しばらく動くことが出来なかった。


    ▲▽▲▽▲▽


「なんだ、珍しいな、こんな所にヒト族が()るなんて」

「おい、川縁(かわべり)に流れ着いているのは、『居る』ってのとは違うだろう……どれ、息はあるみてぇだな。おい! 生きてるか!」

「ヒト族にしては、綺麗な娘っ子だなぁ」

「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ。ほれ、なんだっけ。そうそう、『タンカ』作って、施療院に運ぶぞ」

「ええ〜、面倒くさい」

「バーカ。魔皇陛下が俺たち森人(もりびと)にこの森の仕事をあてがってくれたのは、こういう迷い人が出たら助けるためじゃねぇか」

「でもヒト族だぜ?」

「魔皇陛下もヒト族だよ。つべこべ言わねえで手ぇ動かせ!」

「ヒト族かぁ〜、いきなり『この魔物が!』とか『毛むくじゃらの化け物が!』とか言って、暴れ出さなきゃいいけどなぁ〜」

「バカヤロウ! 俺ら獣人族(じゅうじんぞく)、特に猿人族(えんじんぞく)義理堅(ぎりがた)いのが信条だ! 大恩(たいおん)ある魔皇様に、恩返しするいい機会じゃねえか!」

「分かった分かったよ。『タンカ』の棒を切ってくるから、『タンカ』の布とその娘っ子頼むワ」

「おう、急げよ。まったくあいつは……けど、なんでこんな場所にヒト族が居るんだか。なんかあったのかねぇ……」

2016年6月26日 プロローグを追加。全編を全面改稿。

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