プロローグ
以前なろうで投稿した「白と黒の事件簿」の長編連載版となります。みんなの小説投稿サイトとのマルチ投稿となっています。一応推理小説のつもりですが謎解きよりもサスペンス要素の方が強いかもしれません。ご了承下さい。
プロローグ
太陽が燦々と輝く晴天の繁華街を、数人の少女のグループが闊歩していた。
「――そいえば。ねぇねぇ、ソラ、カレとはどこまで行ったの?」
グループの中の少女の一人が、傍らで一緒に歩いていた『ソラ』と呼ばれた少女に話しかけた。話しかけられた少女の名は『青井空』。黒髪のショートヘアーでピンクのヘアバンドを着け、まだあどけなさの残る顔をしている。スカートから時折のぞかせる足は、運動部に所属しているのだろうか、その顔とは対照的に引き締まっていた。それもそのはず、彼女は陸上部に所属して、その脚は練習の賜物である。ただし本人は陸上自体は好きだが「脚が太くなるのが最大のネック」といつもぼやいていた。
「ドコまでっって……あ、この前遊園地には行ったよ♡」
「そういうことじゃないっての!」
「そうよ! 自分だけ彼氏がいるからってぇ」
「私たちにも誰か紹介しなさいよ!」
どうやら話題は空と彼女の彼氏のことのようだ。グループの中で唯一の彼氏持ち(少女達談)の空は良くも悪くも常に話題の中心にいた。尤も他の少女に彼氏、もしくは『いい感じの男子』が現れたら矛先はそちらに向くのは目に見えているが。
はぐらかす空を、周りにいた数人の少女たちがからかった。こういった光景はいつの世も変わらず、周りの空気を明るくさせてくれる。
時刻は正午を少しまわったあたりで、街の大通り沿いに植えられた街路樹は初夏の日差しを浴びて青々と輝いていた。少女たちはここら辺では有名な私立女子高の制服を着ていた。普段は学校にいる時間だが、時期と時刻からして、おそらく面倒くさい試験が終わってこれから皆で昼食をとって何処かへ遊びにでも行こうというところだろう。繁華街に少女達の賑やかな笑い声や靴の音が響いていた。
「けど驚きだよねぇ。空が一番に彼氏ゲットするなんてさ」
「そうそう。絶対最後になると思ってた」
「私も私も」
「だよねぇ」
「もう! 皆して! どうせ私は……」
「はいはい。冗談だからそんなに怒るなって」
どうやら少女達の間では空は余りモテる部類には入っていなかったようだ。しかし少女達も、勿論空も、それがただのジョークだと言うことは理解していたし空が怒る素振り『だけ』を見せるのもいつものことだった。
そんな少女たちをビルの陰から血走った眼で覗いている一対の眼があった。
空たちの一行はあるショップに入っていった。そこは今話題のファッションショップで平日の昼間だというのに店内は多くの女性客で賑っていた。その殆どが空達と同じように学校の制服に身を包んだ少女達だった。どうやら他の学校でも今日が試験の終了日だったようだ。
「ねぇねぇ、こっちの服可愛くない?」
「あ、それ可愛い♡」
「こっちのもいいよ」
「あんたにはそれ似合わないよ」
「言ったなぁ!」
少女たちはテスト勉強や日頃の鬱憤を晴らすかのように商品を物色していった。
「ね、空、これなんて良いんじゃない?」
少女の一人が空に服を渡した。空はそれを傍あった姿見で自分の前に合わせてみた。
「う~ん……」
空はまるでファッションデザイナーにでもなったかのように唸った。そして服と自分の顔、正確にはヘアバンドを見比べると、
「……やっぱりいいや。『これ』に合わないし」
と空は着けていたヘアバンドに手を当てながら言って、勧めてくれた少女に服を返した。彼女がつけているヘアバンドは例の彼氏からのプレゼントで貰って以来空は毎日身につけている。
「ちょっと空。普通逆でしょうが」
服を返された少女が不満を言う。確かにヘアバンドはアクセサリなので普通は服に合うヘアバンドを選ぶものだ。だが前述したようにヘアバンドは彼女の宝物なのでどうしてもヘアバンド中心のファッションになってしまう。そのことをしっているので、少女が不満を言った理由も、自分のセンスを疑われたからではなくなんとなく惚気られたから少々嫉妬によるものが9割以上をしめていた。と言っても少女達にとってはもはや日常茶飯事の事だが。
「ごめん、ごめん」
空は舌を少しペロッと出しながら自分の頭をコツンと軽く叩いて謝った。
「うわ。何それ」
「古っ!」
「キモッ!」
「ちょ、ちょっとその言い方は無いでしょ!」
「あははは」
何とも華の女子高生らしくとても賑やかな買い物であった。だが彼女たちは気付いていなかった。自分たちをジッと見つめている存在を。
買い物が一段落ついて、空たちは次の予定を話し合いながらブラブラと歩いていると、赤信号の交差点に差し掛かった。彼女たちが信号待ちしていると、
――バッ――
人影が人ごみの中から勢いよく空の横を通り過ぎて行った。
「きゃっ――」
空が悲鳴を上げる間も無く、いきなり人ごみから飛び出してきたその人影は、空の鞄を引っ手繰って走って逃げた行った。
「あ、待って!」
「ち、ちょっと空!」
空が慌てて追いかける。残りの少女たちもついて行ったが、たちまちに追いつけなくなった。空が少女たちに比べ段違いに速いのだ。
(もう! 何なのよ一体!!)
空はそう思いながら犯人を追いかけて行った。空は前述した通り陸上部に所属していた。しかも中学時代は大会の上位入賞常連者で高校に入ってからも期待の新人として鍛え抜かれ、今ではエースとして陸上部を引っ張ている。そのため普段から愛用のスポーツシューズを鞄にいれており、普段通りの下校時だったらこの引っ手繰りもすぐに捕まえられただろう。しかし今日は勝手が違った。今日は試験日の最終日だったので本来なら今日から部活動が再開されるはずなのだが、陸上部の顧問は「試験明け位ゆっくりと遊べばいい」と今日の部活をなしにしていた。そのためいつも部活の時に履いている愛用の靴は持っておらず、登校用のローファーを履いていた。ゆえに空は本来の走りができず非常に歯がゆい思いで走っていた。
だがそのハンデを除いても、空の鞄を引っ手繰った人影はかなり速かった。空が懸命に走ってもその差は中々縮まらなかった。仮にいつものスポーツシューズを履いていたとしても追いつけるかどうかは五分五分と言ったところだった。
人影はビルの間の路地に入っていった。当然空も続こうとした、が空は一瞬躊躇った。この辺の路地は入り組んでいてちょっとした迷路になっていたからだ。だが空は鞄のため意を決し、路地に入っていった。だが、やはりと言うべきだろう、すでに人影の姿は無かった。しかし空は諦めなかった。しばらく路地を探索してみたが、引っ手繰り犯は見つからず、逆に空が迷子になってしまいそうだった。
「あの~……」
「きゃあ!」
背後から突然声を掛けられて空は飛び上がった。
「だ、誰ですか!?」
空はすごい剣幕で尋ねた。まあいきなり背後から、それもこんな昼間なのに薄暗い路地裏で声をかけられたら、例え声をかけてくれた人が警官だったとしてもそんな反応になってしまうだろう。だが、そこにいたのは警官でも、ましてや引っ手繰り犯でもなく、スーツを着たサラリーマン風の男性だった。
「い、いや、その……」
男性は空の剣幕に一瞬ひるんだが、こほん、と咳払いをひとつして
「僕はそこのビルに勤めている者だよ。ほら――」
と言って名刺を差し出した。どうやら本当にサラリーマンのようだ。空はそれを手にとってしばらく眺めていた。男性の名前は『灰原裕次郎言うらしい。灰原が名刺を出すときに示したビルの裏口らしきドアには『M商事』とあり、男性の名刺の肩書きも『M商事営業課』と書いてあった。M商事は全国的にも有名な大企業である。空は相手が一流企業の社員と分かって少し安心した。ほ人の心理とは不思議なもので、例え初対面の人でも所属している会社や役職が良いとどこか安心するものだ。
「なぁんだ。M商事の人でしたか。ビックリしちゃったよ。あ、私、青井空って言います」
「青井君か。で、どうしたの? 迷子?」
「ち、違います!」
空は顔を真っ赤にして否定した。高校生にもなって迷子はない。だが本当は迷子になりかけていたので灰原の指摘も満更的外れでもなかった。
「実は……」
空は事の成り行きを話した。灰原は顎に手を当てウーンと少し考えたあと、
「それは大変だね。よし、僕も一緒に探してあげよう」
「え!? いいんですか?」
「勿論。で、その男の特徴とかは?」
「それが……」
空は正直に「顔は良く見えなかった」と言った。突然引っ手繰られたので顔を見る暇はなかった。だが空は転んでもタダで起きるようなマネはしなかった。ちゃんと犯人の服装を覚えたいたのだ。ただしその服装も、黒の帽子に無地の白いシャツ、ジーンズにスニーカーと何所にでもいそうな服装なのであまり参考になりそうにはなかった。アクセサリもしてない上にこの路地裏だと物陰に隠れてすぐに着替えることができるのも拍車をかけていた。
「そうか……なに気にすることはないよ。もし着替えられても脱ぎ捨てた服でもあれば証拠として警察に持っていけば捜査してくれると思うし。それにここら辺の路地のあちこちに不良の溜まり場があるんだ。たぶん、そのどれかにいると思うよ」
「どうしてそんなこと知っているんですか?」
空は少し驚いた。一流企業のエリートがなぜこんな路地裏事情に詳しいのかと思ったからだ。
「そんなに驚くことじゃないよ。僕の住んでいるマンションがこの路地を抜けたすぐ近くにあってね、よく近道として通るんだ。その時に何回か間違ってそういうとこに入ってしまったことがあるんだよ。」
「へえ」
灰原は少し恥ずかしそう答えた。空はその話を聞いてなぜか感心したような声を上げた。
「大丈夫だったんですか?」
「うん。こう見えても学生時代柔道部にいてね。何とか大事に至らずにいるよ」
「へぇ。そうだったんですか」
空はまじまじと灰原の体を見てみた。だがスーツの上からはそんなことがわかるわけもないので、空は灰原の言うことを一応信じることにした。
「そう言う事。じゃ、行こうか」
「はい」
二人は犯人(の痕跡)捜査のため路地裏を歩き出した。
「――それにしても災難だったね」
道中灰原が空に話しかけた。
「え?」
空は一瞬聞き逃した。何時不良が襲い掛かってくるか気が気でなかったからだ。
「いや、折角の試験明けの日だって言うのにこんな目に遭うなんて災難だねって」
灰原がもう一度言った。
「そうですね……はあ」
空はため息を交えて答えた。確かによく考えてみれば、試験明けに、しかも帰宅時に一人で歩いているわけでもなく友達と遊んでる時に引っ手繰られるとは災難以外の何物でもない。
「高校生か……何年前かな」
灰原は懐かしむように言った。その脳裏には高校生の時の思い出が過っているのだろう。
「……すか?」
「え?」
空の声に灰原は我に返った。どうやら思い出に耽っていたようだ。
「どんな高校生だったんですか?」
空はもう一度聞いてみた。エリートの高校時代がどんなものだったのか興味がわいてきていたからだ。
「どんなって、ごく普通の生徒だったよ。勉強して柔道して友達と遊んで」
「何をして遊んでいたんですか?」
「色々だよ。と言っても今と違ってゲームセンターやカラオケは殆どなかったから、喫茶店で駄弁ったりボーリングに行ったり」
「ふ~ん。割と今とそんなに変わらないんですね」
空は何だか意外な感じがした。空達もカフェでおしゃべりしたりカラオケ以外にもボーリングに行ったりするのでなんとなく親近感がわいた。
「まぁ、そうだね。流行とかは違うけどやることは大体同じだね。後は……僕はバンド組んでいたな。フォークバンドだったけど」
「え!バンド!?」
空はそれこそ意外だと言わんばかりに驚いた。
「そんなに驚くことでもないよ。当時はそれが流行だったし。と言っても部活の後にしか練習できなかったけど。まあ身内で楽しむだけの活動だよ。演奏も文化祭位でしかやったことないし」
「へえ。でも意外ですね。一流企業の社員さんにそんな過去があったなんて」
「そんなことないよ。僕も高校の時の成績は悪くは無かったけどそんな良くもなかったしね。実際一生懸命勉強したのは受験の時からで、M商事に入社できたのも運が良かったからだと思うよ」
「へぇ~。でも凄いですよ!」
空は男性に少しだが尊敬の念を抱いた。
「ありがとう。ね、今度は青井君の高校生活の事を教えてよ」
「え?私のですか?」
「そんな込み入った話題じゃなくていいからさ。最近の面白かった出来事とかさ」
「最近のですか? えっと……あ、そう言えばこの間友達と遊びに行った時――」
その後も二人は雑談をしながら目的の場所に向かっていった。
しかし、暫くすると二人とも無口になった。話す話題が無くなったのもあるが、どんどん路地裏の奥の方に入ってきたため、あたりが何とも言えない雰囲気に包まれていたのも起因していた。灰原が言っていた『不良の溜まり場』が近くにあるのかもしれない。と空は感じていた。
「ん?」
空が気配を感じて立ち止まった。確認しようと辺りを見渡してみたが、そこには自分と灰原以外誰もいなかった。
「どうしたの?」
灰原が振り向いて尋ねた。
「いいえ、何でも」
「そう。ならいいんだけど。もう少ししたら路地裏を抜けるけど、それで何も出なかったら一緒に警察に行って事情を話そうか」
「すみません。お手を煩わせてしまって」
「いいよ。気にしなくて。困った時はお互い様だよ」
俯き加減に謝る空を、灰原は優しく微笑み慰めた。さらにしばらく歩き、灰原が「もうすぐ出口だよ」と言った時、
――ガバッ――
「んん!」
突然路地の隙間から手が出てきて空の口を塞いだ。空が声をあげる暇も無かった。さらに危険なことに、灰原が気づいた様子も全くない。
――ズズズ――
空の体が吸い寄せられる様に引きずりこまれていく。空は恐怖に涙を浮かべ、必死に首を左右に振って手を振り解こうともがくが、一向に振りほどける気配がない。
「ん~! んん~!」
空は灰原の方に助けを求め手を伸ばすが、灰原は気づかずにどんどんと進んでいった。その間にも、空の体はどんどんと引きずりこまれていく。
「――! ――!」
そしてとうとう、空はそのまま闇に引きずり込まれていった。
「――もうそろそろ大通りにでる……あれ?」
灰原が声を掛けて振り向いてみると、もうそこに空の姿は無かった。
――一方その頃――
「ねぇ、空、いた?」
「ううん。こっちには……そっちは?」
「こっちも駄目」
「もう! 何処まで追いかけて行ったのよ!?」
空の友人達は、彼女を見失ってから思い当たる場所を虱潰しに探してみたが見つからなかった。
「やっぱ路地に入ったんじゃない?」
「でもあそこは迷路になってるし……」
「けどこれだけ探しても見つからないし……」
彼女たちがあれこれと思案していると――
「うわぁ!」
「きゃっ!」
少女たちの一人がいきなり路地から出てきた男性とぶつかってしまった。男性は急いで走って来たらしく、息も絶え絶えでスーツの襟もとから除くワイシャツには大量の汗が滲んでいた。
「いったぁ~い」
「いたたた……、君、大丈夫かい?」
「ちょっと! 何すんのよ! このおっさん!」
「お、おっさんって、僕はまだ―」
男性は何か言いかけたが少女たちの制服を見てハッとした顔になり
「君たち、その制服……」
と呟いた。
「え? これ?」
少女が訝しげに聞いた。
「君たちひょっとして青井君の友達?」
「青井って……まさか空のこと! 空に何かあったの!?」
少女が男性を問質す。まるで彼が空に何かしたような問い方だった。
「じ、実は……」
男性、灰原は彼女たちに名刺を渡して、空と会ってからの顛末を掻い摘んで話した。話を聞くうちに少女たちの顔がみるみる強張り、不安の色を隠せなくなっていった。
「た、大変!」
「どうしよう!?」
「と、とにかく警察に……」
「でも早くしないと……」
「そうだよ! 連絡している間にも空が……」
少女たちは灰原がいるのも忘れて慌てふためいたが
「皆ちょっと待って!」
その中の一人が声をあげた。
「今ここで焦ってもしょうがないでしょ!」
「でもカナ……」
「でもじゃない!」
カナと呼ばれた少女、『小金井加奈子』が皆を一喝した。すると慌てふためいていた少女たちもいくらか落ち着きを取り戻していった。
「皆、落ち着いた?」
「う、うん」
「でもカナ、本当にどうするの?」
「そうだよ。時間ないよ?」
「う~ん……」
カナは少し思案したが、灰原の方を向くと
「あなたこの路地詳しいんですよね?」
と灰原に尋ねた。
「え? あ、ああ……さっきも言ったけどよく抜け道にしているからね」
「じゃあ、一緒に探してください」
カナはそう言うと足早に路地に向かって歩き出した。
「ええ!」
「ちょっ、カナ危ないよ!」
「そうだよ!」
「ここで警察を待っていたほうが……」
少女たちがカナの提案に異議をたてた。それも当然、友達が一人行方不明になったところにさらに友達が入るのをだまって見ていられるわけがない。
「なにも一人で行こうってわけじゃないよ。この人も一緒だし。皆ははここで警察に連絡して待ってて」
「で、でも……」
少女達はなおも引き下がらなかった。カナは「それなら」と言うと二人一組を幾つか作り手分けして探そうと提案した。確かにそれならカナと灰原だけが行くよりも効率がいい。少女達はそれで納得し早速メンバー編成をしようとしたが、
「駄目だよ! 子供だけでこんなところへ行かせる訳にはいかない! あとは警察に任せて君たちは帰りなさい」
灰原がカナの案を否定した。子供を危険な場所に連れていくことはできない。それは大人としては当然の判断だった。しかし少女達は納得しなかった。
「友達が今も酷い目にあっているかもしれないのに帰ることなんてできません」
「そうです!」
カナを筆頭に灰原へと次々に抗議の声が上がった。
「それにこれで大きな音をたてれば逃げる時間くらいは稼げるでしょ? いざとなったらこっちもあるし」
とカナは防犯ブザーと護身用の催涙スプレーを取り出してこともなしげに答えた。
「それに、私たちあなたが何と言おうと行きますからね。止めても無駄ですよ」
灰原は悩んだ末、
「……分かったよ。けど警察に連絡するのと、危ないと思ったらその場を動かず僕に連絡すること。いいね。僕の携帯の番号は名刺に書いてあるから」
と少女達の熱意と決意に折れ、一緒に行くことを了承した。
「分かりました。それじゃあメンバーだけど……」
「私行く」
「あ、私も」
「じゃあ私は……」
「私は残って待ってる」
メンバー選考は順調に進んでいった。
「OK。じゃ行こう」
カナたちは消えた空を探すため路地裏へと歩き出した。
それからどの位経っただろうか。最初のうちは、カナも時々時計を見ていたが、探すのに気が散ってしまうので何時しか見なくなっていた。それでも、もう少なくとも三十分以上は経っていた。路地の中はカナたちが思っていたよりも複雑で、途中に目印を付けておかないと帰り道さえ分らなくなってしまう程だった。カナたちは路地の中ほどまで来ていた。実際にそこが中ほどかは分からないが、少なくともカナはそう感じていた。これまででカナたちはかなり歩いたが、それでもまだ実際には倍以上の規模がある。カナは、内心焦り始めていた。幾らなんでも空と逸れてから時間が経ちすぎていた。もし、空の身に何か遭ったら。焦りはカナの脳内を負の思考で満たしていった。
「――ねぇ、いたぁ?」
「!」
探索組の少女の一人の声に、カナは負の思考を振り払った。そうだ、諦めてはいけない。カナは自分を奮い立たせた。
「――こっちにはいないよぉ。カナ、そっちは?」
「こっちも別に――」
辺りを見ていたカナは、ある一角を見た途端、途中で口を閉じて足を止めた。カナがその一角を見たのはほんの偶然だった。もし、違うほうを見ていたらきっと気づかなかっただろう。
(まさか)
カナは一瞬自分の目を疑った。それはこの前彼氏と買ったものだと言っていた。
(違う、絶対違う!)
カナはそう思いたかった。しか、しカナは見つけてしまった。
(こんな、こんな事ってあるの?……)
カナの心と身体が絶望で満たされていった。カナが見つけたのは空の宝物、ピンクに光るヘアバンド。そしてその傍には――
――♪~――
この場には不釣合いな音楽が流れてきた。カナの携帯の着信だった。
「カナ、どうしたの?」
少女の一人がカナに声をかけた。携帯が鳴っているのにカナが一向に出る気配がないからだ。しかしカナはそれに答えることなく「ある一点」を凝視していた。
「あ、あ……」
カナは声にならない声をあげて指をさした。
「え?」
少女がカナの指差す方へ眼を向けた。
「き、きゃああああああああ!!!!」
カナがヘアバンドと一緒に見つけたもの、それは光纏わぬ虚ろな眼で虚空を見つめる、変わり果てた空の姿だった。
ご意見、ご指摘、ご感想お待ちしております。