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第五章 兄妹

やがて―コリ・ティカは二人の女官を連れて帰って行った。タラナと手をつないでニナはそれを見送った。三人の姿が見えなくなると―タラナはギュッとニナの手を握り締めた。「母様?」

ニナが見上げた。タラナはただ黙ってコリ・ティカの姿の消えた方をじっと見つめていた。


「…コリ・ティカ。」

呼び止められてコリ・ティカは振り向いた。

「ワスカル兄様。」そこにはワスカルが立っていた。

「父上に会って来たのか。」

「ええ。」

コリ・ティカがうなづくとワスカルは不機嫌そうに言った。

「ティティカカに行って来たのだな。…タラナに会ったのか。」

「ええ。…その子供にもね。」

「今更。」ワスカルは吐き捨てるようにに言う。

「でも…兄様の子よ。」

コリ・ティカが言う。

「…あのままにはしておけないわ。」

「…そなたは。」

ワスカルはイライラしたように言う。

「父上や叔父上が兄上にした仕打ちを忘れたのか?」

「…忘れてなどいないわ。」

コリ・ティカが静かに言う。

「今まで、ずっとね。」

「ならば尚更だ。今更兄上の子やタラナに会いに行ってどうするつもりだ。このクスコにあの二人を迎えることができるはずもあるまい。」

「…どうして?」

「コリ・ティカ!」

半ば呆れたようにワスカルは驚いた顔をする。

「王族の者はまだ忘れてなどいない。みな、忘れたふりをしているだけだ。」

「そうね。」

「…例え、クスコに戻れたとしても…受け入れられるはずがない。」

「兄様。」

「…二人そろって殺されるかもしれぬ。今度こそ。」

「兄様!」

コリ・ティカがたしなめた。ワスカルも多少バツが悪そうに黙った。

「…そんなことにはならなくてよ。」

溜め息をついてコリ・ティカが言う。「そんなことはさせないわ、私とお父様が。」

「…でも。」

ワスカルは言った。

「そなたは行くのだろう、キトーへ。」

「お兄様。」

コリ・ティカは言って真っ直ぐにワスカルを見た。

「…今はもう、お父様の嫡男はお兄様しかいない。このクスコを守れるのは…お兄様しかいないのよ。…クスコは、いいわ。結界に守られているし…王族もたくさんいる。…でもキトーは違う。」「……。」

「アタワルパ兄様にはキトーを守ってもらわなくてはいけないの。だから、私がついていなくてはいけないのよ。」

「なぜ、そなただ。」

ワスカルが言う。

「…皇女は…そなたの他にもたくさんいるのに!」

「……。」

コリ・ティカは黙って目を伏せる。

「兄上…兄上さえおられれば…。」

ワスカルが悔しそうに言った。コリ・ティカは首を振った。

「…今更、だわ。お兄様。」

「……。」

「…2年。」

コリ・ティカが言う。

「2年後よ、兄様。タラナとその子がクスコに来るのは。…すべてはそれからよ。」

「コリ・ティカ。」

ワスカルは言った。

「くれぐれも言っておくが―父上や叔父上…それにワウレが大切なのは兄上の子供ではなく王-インカ-の血を引く子供なのだと言うことを忘れてはならぬ。」

「それならばなおさら、ニナは殺されたりしないわ。」

コリ・ティカはそれだけ言うと歩き出した。ワスカルはその背を黙って見つめ唇を噛んだ。

そして、時はゆるやかにだが着実に流れて行く。花が実を結びそして雪が降りその雪が溶けて木々に新しい命が芽吹き―そんなことを2回繰り返してニナは6歳になった。

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