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第二章 訪問者

宙に向かって小さな手が小石を投げる。

小石は宙を舞ったあと青い湖面に落ち波紋を作る。何度かそれを繰り返したあとニナがまた小石を投げると小石はまるで生き物のように空中で円を描いて水面に落ち、さらに水面でくるくる回るとまるで水飛沫が花のように見えた。それを見てニナは満足そうに笑う。それはいつの間にか覚えたニナの一人遊びだった。誰に教えられたわけでなく―ニナは自分の能力を使って遊ぶことをできるようになっていたのだ。

目の前にはるかに広がる湖はティティカカ―彼らの一族の先祖が降り立った伝説を持つ地だ。岸から遠く離れた湖面に葦舟が何そうか浮いているのが見えた。彼の目にはその船に乗っているのが誰で何をしているのかハッキリ見えていた。再び、思い出したように彼は小石を投げた。今度は空中でくるくると回って静止してからそのまま湖面に音をたててまっすぐに落ちた。

「こんにちは。」不意に声を掛けられてニナは驚いて振り向いた。そこには一人の女性が立っていた。

「あら、驚かせてしまった?ごめんなさいね、あなたがあまり楽しそうだから。」

ニナはじっと彼女を見つめた。おそらくは母といくつも変わらないだろう。母よりは若いことはニナにもわかった。色鮮やかな衣に黄金の首飾り。身分の高い女性であろうことは彼女の背後に控えている召使らしい二人の女性からもわかった。

「…あなたは誰?」

ニナが言った。女性が微笑む。美しいな、と子供心にも思った。多分彼女を嫌う人間などありえないとすら思える、人を和ませる温かい笑顔だった。不思議なのはその瞳だった。吸い込まれるような瞳―少し翠がかった。「私は、コリ・ティカよ、あなたはニナね。」

ニナは小さくうなづいた。コリ・ティカは手を伸ばしてニナの頭に手をおいた。そしてニナの前にかがんで視線を合わせた。「…何歳?」

「…4歳。」

ニナが答えた。コリ・ティカの目が少し悲しげに曇る。

「そう。じゃああれからもう5年近くたつのね。」

そう言ったコリ・ティカの瞳が自分を通り越して誰かを見ていることに気付いて口を開く。

「何を見ているの?」

驚いた顔でコリ・ティカがニナを見る。

「あなた…“わかる”のね。」

「……」

ニナは黙ったまま上目遣いにコリ・ティカを見る。コリ・ティカは頭をもう一度なぜた。

「…あなたのお母様にお会いしたいのだけど。」

「…どこにいるかわかる?」

「うん。」

ニナは小さくうなづいた。ニナが口を開こうとするとコリ・ティカが止めた。

「ごめんなさい、私は“翔べ”ないから歩いて行きましょう。いい?」

ニナはコリ・ティカを見た。なぜこの人は自分がやろうとしていることまでわかるのだろう?コリ・ティカが笑顔で手を出す。その手を握り、ニナも一緒に歩き出した。

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