モブ令嬢、へんないきものを目撃する。
王国魔法学園の入学式が終わり、教室に向かう途中の出来事です。
ピンク髪にあどけない顔立ち、小柄ながらそれを裏切るお胸を持つ、
かなり目立つ感じのご令嬢が廊下で準備運動をされていました。
わたくしの方には気づかないご様子ですが、上級生の教室に続く、
曲がり角の先の方を時刻を気にされつつ確認されている模様。
一体何をされているのかしら?
気になったので離れた場所より様子をうかがっておりましたが、
「よしっ!」と気合を入れた掛け声と共に両頬を掌で叩いたのち、
クラウチングスタートから曲がり角へ全力疾走されました。
ご令嬢が突撃する先には、上級生の男子生徒達が数名おられます。
中心にいるあのお方は確か、第二王子殿下ではありません事?
どうやら皆様気づかれていない様子。このままでは激突しますわ!
「皆様!避けてくださいませっ!」
淑女らしからぬ振る舞いかもしれませんが緊急事態です。
上級生の方々へ大声で警告をいたしました。
上級生の方々はわたくしの声に驚いてこちらをご覧になり、
殿下を含めて皆様、慌てて暴走してくるご令嬢を避けました。
「のひょえええええっ!?」
勢いが付きすぎていたのか、上級生の方々へとぶつかる事なく、
奇声を発するご令嬢は暴走収まらず通路横の花壇を突き破り、
そのまま向こう側の噴水に落ちて水しぶきを上げました。
「ご無事ですか殿下?一体あれはなんだったんだ…」
側近の方が殿下のご無事を確認されています。
本当に何をなされたかったのでしょうね、あのご令嬢は。
「ああ、今声をかけてくれた君。ありがとう。
気づかず今の誰かとぶつかっていたところだったよ」
殿下からのもったいなきお言葉です。
恐れ多くてお近づきになりたいとは思ってもおりませんが、
殿下をはじめ、皆様お怪我もなくて何よりでしたわ。
◆
二日後の午後、やや肌寒い日。
先日の噴水突撃ピンク髪のご令嬢をまたお見掛けしました。
今回もしきりに時刻を気にされつつ、壁に張り付いておられます。
厚い本を片手にどうやら何かをお待ちのご様子みたいですが。
あちらから来られるのは生徒会長をされている侯爵家のご令息。
入学式の際、在校生代表で挨拶と祝辞をされていた方ですね。
まさか本を凶器に襲撃を?先日の第二王子殿下の一件も実は?
生徒会長にお声をかけるべきかどうか迷っておりましたが。
あっ、あのご令嬢、また走り出しました。
どうしましょう、おこへ…へっ…へっ…
「へっぷちょい!」
ああ、迷っている間にくしゃみが出てしまいました。
それもかなりの大きな音で…我ながらはしたないですね。
あ。
くしゃみの音が大きすぎて皆様を驚かせてしまったようです。
ご令嬢は生徒会長へ到達前に石畳のへりに引っ掛かり地面へ激突。
生徒会長はわたくしの方をご覧になって呆気に取られています。
これは少し恥ずかしいですね。ご覧にならないで欲しい。
目が合いにっこりと生徒会長に微笑まれてしまいました。
どうしましょう、多分今わたくしの顔は赤くなっているはず。
あら、ご令嬢がいつの間にか姿を消されていますわね。
石畳に血の跡がついています。ぶつけて鼻血でも出されたのかしら。
◆
ご不浄から出てくると、またあの顔面強打鼻血のご令嬢が。
今回は傍らに猫を抱えて木に登られています。これは一体何を?
また時間を気になさっているご様子。思わず見入ってしまいます。
これら一連の襲撃計画は先生方にお伝えするべきかしら?
でもまだどなたも直接被害にはあわれていないし…。
向こうから歩いてくるのは、確か騎士団長のご子息だったかしら。
木の上から猫をけしかけて嫌がらせとか…?まさかそんな。
これは止めないといけませんわね。悪戯の度を越えています。
第一、何の罪もない猫を利用するなんてかわいそうですわ。
少しはしたないですが、スカートの裾をつまんで走ります。
「いけませんわ、およしになって!」
ああっ。
かなり上の方に登られていたご令嬢、驚いて足を滑らせて…。
革靴での木登りはさすがに難しかったご様子です。
芝生までは落ちませんでしたが、木の蔓に引っ掛かって宙づりに。
スカートの中身が全開で、まるで折り畳み傘のような光景が。
文字通り手も足も出ないまま、振り子運動を続けておられます。
騎士団長のご子息も、突然の出来事に呆然とご覧になって。
恥じらうというよりも、奇抜な前衛芸術を見たような目で。
止めるつもりが彼女にはとても悪い事をした様です。
中庭のこの即席オブジェは実によく目立ってしまって、
いつの間にか大勢の生徒達がこの場に集まって来ました。
あ、抱えられていた猫はくるりと回転して見事に着地。
「にゃー」と鳴かれて去っていきました。無事でよかった。
◆
何か掲示板に張り出されていますわね。見に参りましょう。
「男爵令嬢 オモイコミーナ・シュジンコー
この者、相次ぐ授業の無断欠席に加えて、
日常的な奇行が目に余る故、停学処分とする
王国魔法学園長」
あら、確かこのお名前はあの折り畳み傘形態のご令嬢ね。
わたくしの知らないところでも色々不思議な挙動をされていたのね。
しかも期限が書かれていませんわ。実質退学なのかしら。
さすがに学園は娯楽施設ではございませんし、仕方ないでしょう。
見ているご令嬢は現地世界の方です。
現世から度々流れてくるのかオーパーツが紛れ込んでます。
ピンク髪は、このご令嬢その他へ文句をつける前に退場。
ああ、せっかく「魔法学園」なのに魔法出なかったな。




