第1章 崖っぷちの工務店
第1章 崖っぷちの工務店
大学卒業後、桜井美咲が父の工務店を引き継いだ時、会社の状況は想像以上に深刻だった。
事務所の机に積み上げられた決算書を見ながら、美咲は言葉を失った。
三期連続の赤字。
受注件数は十年前の半分以下。
資材価格の高騰。
職人の高齢化。
銀行からの借入金も重くのしかかっていた。
地方都市の人口減少と長引く不況は、小さな工務店に容赦なく襲いかかっていた。
「このままでは一年も持たない。」
税理士の言葉は冷酷だったが、事実だった。
父は申し訳なさそうに俯いた。
「俺の代で終わらせるべきだったかもしれん。」
美咲は首を横に振った。
「まだ終わってない。」
会議室に職人たちを集めた。
平均年齢は五十五歳。
長年会社を支えてきたベテランばかりだった。
しかし、その表情には諦めが見えていた。
「皆さんにお願いがあります。」
静まり返る室内で、美咲は続けた。
「この会社をもう一度成長させたいんです。」
誰も返事をしなかった。
しばらくして棟梁の佐藤が口を開いた。
「社長。気持ちは分かるが、今は仕事がない。」
「だから変えます。」
美咲は用意していた資料を配った。
そこには再建計画が記されていた。
第一段階。
経費の見直し。
不要な設備の売却。
在庫管理の徹底。
第二段階。
リフォーム事業への参入。
高齢者向け住宅改修。
耐震補強工事。
省エネ改修工事。
第三段階。
AIとデジタル技術を活用した住宅事業の開発。
職人たちは顔を見合わせた。
「AI?」
「工務店でか?」
当然の反応だった。
しかし美咲は真剣だった。
「これからの時代は職人技だけでは生き残れません。」
「でも職人技がなくても家は建ちません。」
「だから両方必要なんです。」
その日から再建計画が始まった。
まず経費削減に着手した。
使われていない重機を売却し、事務処理をデジタル化した。
自ら営業にも回った。
住宅展示会。
地域イベント。
商工会議所。
どこへでも足を運んだ。
夜は設計図を描き、朝は現場へ向かう。
休日はなかった。
それでも成果は少しずつ現れ始めた。
高齢者向けバリアフリー工事の依頼が増えた。
古民家改修の評判が口コミで広がった。
地域の信頼が戻り始めたのである。
そして工務店再建から二年後。
会社はついに黒字へ転換した。
だが美咲は満足していなかった。
「これでは生き残れるだけ。」
彼女が目指していたのは、地域一番の工務店ではない。
日本の住宅産業を変えることだった。
そのために彼女は、ある大胆な決断を下す。
AI住宅開発プロジェクト。
後に業界を震撼させる計画が、この小さな工務店から始まろうとしていた。




