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ここはなにかが欠けている

神殿勤めのつぶやき

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/01

「はい、傷は塞がりました。お大事になさってください」


ふくらはぎを大きく切って、呻いていた石工さんに声をかける。

今日の治療はこれでようやく終わりだ。また定時を過ぎてしまった。



この町の神殿では、怪我や病で苦しむ人達が毎日やって来る。

町内には薬師の店などもあるけれど、普通の薬は即効性がない。

例えば慢性的な肩こりや肌荒れ、そんなに深くない傷とかなら、

普通は神殿ではなく薬師を頼るのだけど、突発的な大怪我とか、

薬も飲むことが出来ないような状態の人は神殿に運ばれてくる。


治癒術が使える下級神官と見習いは、わたし含めて四人だけ。

それなりに大きい町なんだけど、神殿はここ一か所しかない。

なかなか手が回らず、患者さんを待たせてしまう事もしばしば。

患者さんの家族から治療が遅いと怒鳴られる事もある。

一生懸命やってるんだけどなぁ。


ここの責任者は中級神官の男性だけど、実は治癒術が使えない。

使える神聖魔術は疲労回復の出来る《聖者の慰労》ぐらい。

見た目はやさしそうなおじさんだ。若いそうだけど。

十二歳のわたしから見ると、よく分からない。


なんでも実家が宮中伯で、内務局?の偉い人だとか聞いている。

お貴族様が箔をつけるために、子女を神官にねじ込むのだとか。

まあ事務作業はきちんとやってくれる人なので、文句はない。

「治療まかせっきりですまないねぇ」とか寂しそうに言ってる。



神殿での治療の仕事は、結構忙し目だ。


朝起きたら食事の支度を下級神官と見習いが総出でやって、

食事が終わったら、午前中の治療。午後も食事後はまた治療。


治癒術を学んでいる最中の人達は午前中、学舎で治癒術の勉強。

午後は食事の後、洗濯や薬草畑の世話や事務作業の手伝いを。


夜は食事前に神殿の整備と掃除。終わったらみんなでお祈り。

あまり蝋燭も無駄に出来ないから、すぐに就寝時間。


お給金は出るのだけど、それはお貴族様からの寄付や治療費と、

薬草畑で採れる薬草の売り上げからなのであまり高くない。

一般の人達は、治療費が格安なのだ。ご飯一食分ぐらい。


富める者からは恵みを、貧しき者達には施しを、

という方針は、すごく分かるんだけど…


平民だったわたしとしては「美味しい食事が食べられる」と聞き、

他人よりやや多めの体内魔素を買われて神殿に入ったのに、

やってる事は大変でも、食事は変わらないのは納得いかない。

貯めてるお給金、余裕が出たら何か町で食べようかな。



薬草以外に、皆が食べるために野菜も少しだけ作っているけど、

たまには卵料理とか肉料理とかが食べたい。


もう、一年ぐらい前だなぁ。お肉入った煮込み食べられたの。

お貴族様達五人の大怪我をみんなで治した時。


神殿責任者の中級神官様が、見たことのない悪い顔をして、

「今夜は奮発して美味しいものを食べましょうか」なんて言って。

なんでも昔迷惑をかけられた人達で、治療費を「ほんのちょっと」

高くさせてもらった、なんて笑ってた。

一体あの人達に何されたんだろう…。



うれしい。治癒術を習得した子が三人も増えた!


そうなると畑の仕事のほうが大変になるかな?と思ったんだけど、

「温室」という、安定して作物を育てられるものが増えたので、

町の人達から神殿に野菜類の寄付がよく届くようになった。

ごくたまーにだけど、果物もある!あまーい!おいしーい!


野菜を育てる肥料も、いいものが出回ってきたんだとか。

育てるのが薬草だけになれば、畑のほうも負担が減る。


それと同時に、卵が採れる鳥を飼う農家さんも増えたらしい。

時々だけど、寄付のおかげで前よりは卵料理を食べられる。


今度はお肉の寄付とか増えてくれないかなぁ。

この肥料はゴブ製ではありません。開発者は同一人物ですが。

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