第77話「アスベル」
後宮の廊下。
甘い香りが漂っていた。
酒と香油、そして女達の匂い。
コルド達は物音を立てないように歩いていた。
コルド「……行くぞ!」
扉の奥からは笑い声と音楽が聞こえてくる。
ドアノブが回される。
扉が開いた。
部屋の中央。
豪奢な椅子。そこに一人の男が座っていた。
王配アスベル。
銀色の眼帯。
黒い装束。
その周囲には女達が床に倒れるように眠っていた。
酒瓶が転がり、甘い香りが漂っている。
アスタ「……」
コルド「……」
全員の動きが止まる。
奇妙だった。あまりにも静かすぎた。
先程まで賑やかな音が聞こえていたはずなのに。
音がない。
アスベルは、最初からそこに座っていたかのようだった。
そしてゆっくり顔を上げた。
アスベル「来たか」
その瞬間だった。
窓が割れた。
黒い影が一斉に飛び込む。
ミスティ「敵襲です!!」
ルークレストとその部下達だった。
一瞬だった。
影が動く。
次の瞬間、コルド達の体は床に叩きつけられていた。
ミスティの剣は弾かれ、アイミスの杖は蹴り飛ばされ
シンシアの魔法は封じられ、アスタも押さえ込まれる。
そして、全員が縄で縛られた。
すべて数秒だった。
ルークレストが笑う。
ルークレスト「はははは!」
コルド「ここまでとは……!」
ルークレスト「宰相様よぉ」
ルークレスト「ずいぶんと物騒な訪問だな」
コルドはアスベルを見る。
アスベルは、椅子に座ったまま微動だにしていない。
ルークレスト「旦那ぁ!」
ルークレスト「どうする?殺すか?」
アスベルは静かに言う。
アスベル「そのままでいい」
沈黙。
アスタが言う。
アスタ「……アスベル」
アスベルはアスタを見る。
そして小さく笑った。
アスベル「久しぶりですね。兄さん。」
コルドが低く言う。
コルド「……最初から」
コルド「気づいていたのか」
アスベル「当たり前だ」
コルド「……」
ルークレストが笑う。
ルークレスト「まあ俺の組織の情報網を舐めんなってことだな?」
アスベルは未だに座っている。
アスベル「地方巡視」
アスベル「よくやってくれた。」
アスタ「……」
アスベル「おかげでこっちは楽させてもらったよ」
ミスティ「アスベル様!なぜ…こんなことを!」
アスベルは答えない。
コルドを見る。
アスベル「コルド」
コルドは黙っている。
アスベル「包囲網だったか?」
アスベル「見事な手腕だよ。」
アスベル「本当は公爵家を動かそうと思っていたが、やられたよ」
コルド「……」
アスベル
「東」
アスベル
「南」
アスベル
「西」
アスベル
「全部動かない。」
コルドの瞳がわずかに揺れた。
アスベルは静かに言う。
コルド「俺は…お前のことを…!」
アスベル「さて、おしゃべりは終わりだ。」
沈黙。
ルークレストが肩を回す。
アスベルは座ったままゆっくり手を上げた。
アスベル「まずはコルド。貴様からだ。」
魔力が集まる。
青白い光。
アスタ「……!」
ミスティ「コルド様!」
アイミス「やめてーーー!」
コルドは黙っていた。
アスベル「終わりだ」
そして、手を振り下ろす。
――かと思われた。
しかし振り下ろされずアスベルの指が鳴った。
パチン
その瞬間。
世界が歪んだ。
景色が揺れる。
酒瓶が消える。
床の女達が消える。
壁が変わる。
次の瞬間。
部屋は整然とした綺麗な部屋になっていた。
沈黙。
コルド達は縛られておらず、扉の前に立っていた。
床にはルークレスト達が縛られて転がっていた。
目は虚ろ。
ルークレスト「……あ……」
ルークレスト「……王配……様……」
意味のない言葉を呟いている。
アイミス「……これは」
シンシア「幻影魔法……」
ミスティ「最初から……?」
アスベルは静かに言う。
アスベル「ようやく終幕だな」
アスベルはゆっくりとコルドを見る。
アスベルは椅子に座ったまま、ゆっくり息を吐いた。
そして、息を切らしていた。
沈黙。
コルドはただアスベルを見ていた。
王配アスベル。
その男の本当の姿を初めて見た気がした。
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いよいよクライマックスです。




