第75話「進言」
夜の王都が窓の外に広がっていた。
街には灯りが並び、人々の営みが続いている。
大通りは賑わい、民衆が平和を謳歌している。
レイア女王の執務室にレイアは居た。
机の上には一枚の布が置かれている。
その上に置かれていたのは短剣。
王配の紋章が刻まれた短剣だった。
レイアはそれを見つめていた。
レイア「……ありえないわ」
小さく呟く。
その時、扉が叩かれた。
レイア「入りなさい」
扉が開く。
入ってきたのはコルドだった。
コルド「失礼します」
レイアは振り向く。
レイア「地方巡視の報告は改めて聞いたわ」
コルドは静かに頷いた。
コルド「はい」
レイア「襲撃の件もね」
レイアの視線が短剣に落ちる。
レイア「これを襲撃者が持っていたのね」
コルド「その通りです」
レイア「……誰かが仕組んだに決まってるわ」
コルドは何も言わない。
レイア「まだ裏の組織は残っているということよ」
レイア「そうでしょう?」
コルドは短剣を見つめた。
そして静かに言う。
コルド「その可能性は否定できません。」
部屋に沈黙が走る。
コルド「しかし、もう一つの可能性もあります」
レイアの眉がわずかに動く。
レイア「……言いなさい」
コルドは淡々と続ける。
コルド「王配殿下の関与です。」
空気が凍りついた。
レイア「それはないわ!」
コルド「事実だけを並べています」
レイア「あの人がそんなことをするはずないわ」
レイアの目から涙がこぼれる。
コルド「以前のアスベルなら…」
レイアは俯いてしまった。
コルドは続けた。
コルド「ですが、今の王配殿下は違います」
レイア「……」
コルド「後宮に籠り、政務を避け、女王を遠ざける」
コルドは畳み掛ける。
コルド「そして今回の襲撃です。」
コルドは動じずに無表情で淡々と話す。
コルド「これだけ揃えば、疑うのは当然です」
レイアは拳を強く握る。
レイア「あなたはアスベルを殺したいのね」
コルド「昔は……そうでした。」
レイアは息を呑む。
コルド「この5年間、アスベルと共に戦ってきました。」
コルド「私はいつしか、復讐相手から気の合う友人になってしまいました。」
コルドは一度俯むくが顔をあげた。
コルド「しかし、私は今は宰相です。」
コルド「王国を守るのが役目なのです。」
沈黙。
窓の外の灯りが揺れている。
レイアは低く言った。
レイア「あなたは」
レイア「どうしたいの?」
コルド「王国を守りたい。敵が友人だとしてもです。」
コルドは一歩前へ出た。
コルド「陛下」
コルド「もし王配殿下が本当に関与していた場合」
コルド「次に狙われるのは誰でしょう」
レイアは答えない。
コルド「女王陛下です」
レイアの呼吸が止まる。
コルド「王国のためにも」
コルド「王配殿下を政治の中心から外し、隠居させるべきです」
レイア「……」
コルド「然るべき調査をし、無罪がわかるまでは」
コルド「それだけです」
レイアは長く黙っていた。
やがて、窓の外を見つめる。
王都は変わらず賑わっている。
だがその平和が、今のレイアには遠く感じられた。
レイア「……コルド」
コルド「はい」
ゆっくりとコルドに振り向く。
レイア「あなたは本当に」
レイア「王国のためだけに動いているのね?」
コルドは表情を変えない。
コルド「それが宰相という立場ですから」
レイアは目を閉じた。
長い沈黙。
そして小さく言う。
レイア「……考える時間をちょうだい」
コルドは静かに頭を下げた。
コルド「承知しました」
そのまま部屋を出て行く。
扉が閉まる。
レイアは机の上の短剣を見つめる。
そして、かすれた声で呟いた。
レイア「アスベル……」
信じたい。
だが疑念は消えない。
そして、10日後レイア女王からコルドとアスタに対してアスベルへの排除命令が下された。
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一度こぼれた水はもう戻らない。




