第74話「包囲網」
王国南部
王都の南に位置する村の広間
そこには三人の人物が集まっていた。
西の公爵
メラ・ルクシード。
南の公爵
ユルド・ヴァレンシュタイン。
東の公爵
レクシア・サファイア。
王国を支える三つの公爵家の当主達だった。
メラは紅茶を口に運び、静かに言った。
メラ「さて、話をしましょうか」
ユルドは椅子に深く座りながら答える。
ユルド「王配殿下の件か」
レクシアは腕を組んだまま鼻で笑う。
レクシア「双子の兄アスタを王配とし、アスベルを隠居させる」
メラ「王国の安定を保つための策ね」
メラ「しかし、王配殿下の功績は著しいわ」
ユルドはゆっくり頷いた。
ユルド「民衆の支持は高い。それにカリスマ性がずば抜けている。」
レクシア「後宮に引きこもってるだけで何も迷惑なんてかけてないからね」
メラ「コルドは世継ぎが生まれないことと世継ぎ争いが起きる可能性があることを懸念していたわ」
ユルド「我が息子らしい」
メラはユルドを見た。
メラ「コルドの案は未来を見すぎだわ」
ユルドは静かに答える。
ユルド「しかし、あらかじめ手を打つのが宰相としての役目だ。止める理由がない」
ユルド「コルドは王国の未来のために動いている」
レクシアが低く言う。
レクシア「それは違うな」
部屋の空気が少し重くなる。
レクシア「アスベルが有能すぎて、自分の立場がなくなることを怖がっているのさ」
メラは視線を細めた。
レクシア「しかも、コルドはアスベルによって奴隷に一度落とされている。」
レクシア「俺だったら復讐したいと思うけどな」
ユルド「レクシア!」
レクシア「俺はアスベルを排除するのに賛成だ。あれは化け物だ。」
沈黙。
レクシアは静かに続けた。
レクシア「機会があれば排除したいと思っていた。」
メラは小さく息を吐いた。
メラ「あなたらしいわね」
そして三人を見渡す。
メラ「私は傍観するわ」
メラ「この王国の行く末を」
ユルドは頷いた。
ユルド「何もしないが一番だろうな」
レクシアも肩をすくめた。
レクシア「上手く行けば、こちらが美味しい」
こうして三公爵は合意した。
静かにアスベルへの包囲網が固まっていく。
数日後。
地方巡視。
北の旧ランドバーグ公爵領に赴いていた。
街道は歓声に包まれていた。
「王配殿下!」
「王配殿下!」
民衆は歓喜している。
銀色の眼帯。
黒い外套。
馬上の男は静かに手を上げた。
誰も疑わない。
そこにいるのは
王配アスベルだと。
アスタ(……すごいな)
どこへ行っても同じだった。
民は感謝している。
治安は安定している。
生活は豊かになっている。
すべて、アスベルの功績によるものだ。
巡視が終わり、旧ランドバーグ公爵邸に戻る。
夜になり、4人は旧ランドバーグ公爵邸の門の前に立つ。
アスタ(あまり…帰ってきたくなかったな)
アスタは執務室の椅子に座る。
部屋にはシンシア、アイミス、ミスティがいた。
アスタは椅子に座り、呟いた。
アスタ「……僕には無理だ」
三人が顔を上げる。
アスタは苦く笑った。
アスタ「アスベルはすごい」
アスタ「……本当に身に染みた。」
シンシアが首を振る。
シンシア「そんなことありません」
ミスティ「巡視は問題なく終わってます。」
アイミス「本日も立派でしたよ。」
アスタは目を伏せた。
アスタ「以前と変わらないじゃないか」
アスタ「アスベルの功績を奪う昔の自分と変わらない。」
アスタ「……僕には何も力もない。」
部屋に悲しい空気が流れる。
その時だった。
窓が割れた。
黒い影が部屋へ飛び込む。
ミスティ「敵襲だ!王配殿下を守れ!」
暗殺者だった。
黒装束の男達が一斉にアスタ達を取り囲む。
暗殺者「王配だな?」
ミスティは剣を突き出し対峙する。
暗殺者「共に逝かせてやろう」
剣が閃く。
ミスティが応戦する。
シンシアがバリアを張り、アスタを守る。
その後ろでアイミスが魔法を詠唱する。
アスタも剣を抜き、必死に応戦している。
暗殺者「遅いねぇ…」
暗殺者の蹴りがアスタに直撃した。
アスタは壁に吹き飛ばされた。
ミスティ「アスベル様!」
アイミス「喰らえ!」
アイミスの杖が光りだす。
アイミス「アイスニードル!!」
氷で出来たトゲが暗殺者達を襲う。
3人のうち2人は躱して、外に逃げていく。
1人は足に直撃し、倒れる。
倒れた暗殺者にミスティが剣を突き出す。
ミスティ「なぜ、王配殿下を狙ったのだ!」
暗殺者はミスティを見上げ、笑う。
そして、血を吐き出して絶命した。
ミスティ「口封じか…」
暗殺者の身体を調べる。
ミスティ「…これは!」
シンシアに治療されたアスタに近づく。
ミスティ「アスタ様…これを」
そこには
王配の紋章が刻まれた短剣だった。
アスタの顔が強張る。
アスタ「…アスベル。僕を殺そうとしたのか?」
誰も言葉を続けなかった。
王城。
執務室。
コルドが報告していた。
コルド
「地方巡視中、王配殿下が襲撃されました」
レイアは立ち上がる。
レイア女王「まだ裏の組織は居るのね。」
レイアはアスタの身の安全など心配してなかった。
コルド「しかしながら」
レイアは動きを止める。
だが。
コルドは続けた。
コルド「刺客の短剣に王配殿下の紋章がありました。」
コルド「王配殿下の関与が疑われます」
レイアの瞳が揺れる。
レイア「……ありえないわ!」
コルドは答えない。
レイアは窓の外を見る。
レイア「アスベル…」
その声には迷いがあった。
レイア「あなたは…いったい何をしているの?」
何かが確実に動き始めていた。
その中心には王配アスベルの影があった。
読んでくださり、ありがとうございます。
アスベルは何も語りません。




