第72話「幻影」
レイア「ふざけないで」
レイア女王の執務室の空気には怒気が含まれていた。
対面にはコルドが立っていた。
コルドは冷静に答える。
コルド「アスベル様の評判が揺らいでおります。」
レイア「揺らいでなどいない!!」
机に腕を振り下ろす。
レイア「民は豊か!治安も安定!何が問題なの!?」
コルド「アスベル様が後宮に籠っているという噂が広がりつつあります」
レイアは吐き捨てる。
レイア「そんなもの、放っておけば消えるわ」
コルドは首を振る。
「消えません。この噂が破滅につながる可能性がある。」
執務室が静まり返る。
コルド「入ってくれ。」
執務室のドアが開かれる。
ドアの向こうにはアスタがいた。
アスベルと似た顔がレイアの機嫌を悪くする。
レイアの視線がアスタへ向く。
氷のような目。
レイア「……なぜ、あなたがここにいるの」
アスタは静かに答える。
アスタ「私がアスベル様の代わりを務めます」
その声に、レイアの眉がわずかに歪む
レイアは昔からアスタが嫌いだった。
理由は単純。
彼はいつも逃げていたからだ。
アスベルが全てを背負う横で、 安全な位置にいた男。
それがアスタだ。
レイア「コルド…説明しなさい!」
コルドははっきりと言う。
「王配の代理として、地方巡視を行ってもらいます」
レイアは立ち上がる。
レイア「馬鹿なことを言わないで!」
怒りが露わになる。
レイア「代理?」
レイア「アスベルはアスベルでしかなり得ない。」
コルドは動じない。
コルド「ただの影武者ではありません」
コルド「時間稼ぎです」
レイアはコルドを睨みつけるも、ゆっくりと椅子に座った。
レイア「私は、あの人を信じている」
その言葉に、アスタの胸がわずかに痛む。
レイアはアスタを見据える。
レイア「あなたにアスベルの代わりは無理よ」
その断言は残酷だった。
アスタは目を伏せる。
アスタ「承知の上です。」
レイアは一瞬、言葉を失う。
怒りが向けられても、反論しない。
レイアはアスタに鋭い視線を向ける。
コルドが続ける。
コルド「女王陛下」
コルド「これは王国を守るための策です」
コルド「王配殿下を守るための策でもあります」
レイアの瞳が揺れる。
レイア「守る?」
コルドは低く言う。
コルド「現状維持が一番危険です。」
コルド「まずは噂を払拭しすべきです。」
長い沈黙。
やがてレイアは背を向けた。
レイア「……好きになさい。でも、覚えておいて」
アスタを睨みつける。
レイア「私はあなたを信じていない」
アスタは深く頭を下げる。
「それで結構です」
その答えに、レイアはわずかに息を詰まらせた。
コルド「では、早速実施致します。」
コルドとアスタが部屋を出て行く。
レイアは椅子に座り、天井を見つめた。
レイア「アスベル…コルド…どうすればいいの?」
誰も答えなかった。
数日後。
地方巡視。
王配の装束、銀色の眼帯をつけたアスタが馬に乗る。
ミスティ「王配殿下だ!道を開けよ!」
民衆が頭を下げ、道を開ける。
民衆「王配殿下!」
歓声。
アスタは答えるように無表情で手をあげる。
民衆「王配殿下のおかげで暮らしが楽になりました!」
「王配殿下!ばんざい!」
アイミスは馬に乗っているアスタを心配そうに見つめる。
アスタの表情は揺らいでいなかった。
だが心の奥で呟く。
アスタ(…今度は逃げない。)
民衆の歓声は止まらない。
誰も気づいていなかった。
そこにいるのが
アスベルではないことに。
読んでくださり、ありがとうございます。
次からは、アスタ目線に切り替わります。




