第70話「涙」
夜
王城の廊下は静まり返っていた。
コルドは会議室を出たまま、思考に沈み、歩を止めることなく歩き続けていた。
コルド(考え込みすぎてしまった…)
その時、微かな泣き声が廊下の奥から届く。
はじめは風かと思った。だが、声ははっきりと、人のものだった。
コルド(…あれは…レイア女王の部屋か)
廊下の角を曲がると、薄暗い部屋の中から小さく震える声が聞こえてくる。
レイア「なぜ…なぜ…」
レイア「アスベルは…私のことなど飾りとしか思っていないのね」
レイア「一度も抱いてくれない…こんなにも慕っているのに…」
コルドは言葉を失った。
胸に重く、熱いものがこみ上げる。
しかし、何も言わず、廊下を静かに戻り始めた。
足音が石の床にかすかに響く。
コルド(……やはり、このままではいけない)
コルド(なんとかしなければ…アスベルを止める、そして王国を守る)
その決意は、夜の王城の冷たい空気の中で、ひそかに燃え始めた。
コルドは執務室に戻り、椅子に深く腰を下ろした。
部屋には、書類の山と、消えかけたランプの灯りだけが残っている。
彼は指を組み、目を閉じた。
コルド(感情では、何も変えられない)
ゆっくりと目を開く。
コルド「最終目的は……アスベルの失脚だ」
その言葉は、独り言でありながら、あまりにも重かった。
彼自身、その意味を理解している。
コルド(失脚させれば、王国は混乱する)
コルド(民は不安に陥り、貴族は動揺し、秩序は一時的に崩れる)
コルドは目を瞑る。
コルド(だが、このままでは、いずれ国そのものが壊れる)
ただ、冷静に、考える。
コルド(アスベルならどうするだろうか)
コルドは目を開ける。
コルド(そうか…俺達はなんだかんだアスベルを頼っていたんだな)
その時、脳裏に一つの存在が浮かんだ。
コルド(……双子の兄、アスタ)
アスベルと同じ顔を持ち、
だが、まったく違う道を歩んだ男。
コルド(アスベルの代わりに、アスタを据える)
コルド(王配の座をすげ替えれば、混乱は最小限で済む)
指先が、机の木目をなぞる。
コルド(アスベルは……秘密裏に処置するしかない)
その考えに、胸が痛まなかったわけではない。
だが、ためらえば、全てが無駄になる。
コルド「そのためには……」
静かな声で、答えを口にする。
コルド「聖王国にいるアスタを、説得するしかない」
彼は立ち上がった。
迷いは、もうない。
王配アスベルに真正面から挑めば、敗北は確実だ。
ならば、影から、理をもって王国を救う。
コルドは外套を手に取る。
コルド(これは反逆ではない)
コルド(王国を、女王を、そして……あいつ自身を止めるための行動だ)
その夜、宰相コルドは、ついに動き始めた。
読んでくださり、ありがとうございます。
コルド動きます




