第7話「結果発表」
筆記試験は、広い講堂で行われた。
配られた試験用紙を見た瞬間、あちこちから小さなどよめきが起こる。
「……多くないか?」
「魔法理論まで出るのか……」
平民の生徒たちは顔を青くし、貴族の生徒でさえ眉をひそめていた。
そんな中。
アスベル(……ふむ)
アスベルは問題に目を通し、内心で鼻を鳴らす。
アスベル(基礎の基礎。学園向けに丸くしたな)
魔法の理論。
歴史。
数式。
どれも、領主教育で叩き込まれた内容だった。
アスベルは迷いなくペンを走らせる。
十数分後。
アスベル(終わり)
まだ半分以上時間が残っているが、見直しもいらない。
アスベルは静かに立ち上がり、用紙を提出した。
周囲の視線が集まる。
「もう終わったのか……?」 「早すぎないか?」
アスベルは気にも留めず、講堂を後にした。
試験がすべて終わり、その日のうちに解放された。
アスベルは真っ直ぐ寮へ戻ると、部屋に入るなり――
アスベル「……ふぅ」
そのままベッドに飛び込んだ。
マリアナ「坊っちゃん! 行儀が悪いですよ!」
慌てて駆け寄るメイドの声。
アスベル(はいはい)
心の中で適当に返しながら、枕に顔を埋める。
マリアナ「返事をしてください!」
アスベル「……はいはい」
やる気のない声。
マリアナ「もう……王都に来たからといって、気を抜かないでください」
アスベルは天井を見上げる。
アスベル(気は抜いてない) アスベル(選別が終わっただけだ)
目を閉じた。
翌日。
レンブラント学園の掲示板前には、人だかりができていた。
「結果出たぞ!」 「序列まで出てる……!」
学園は、合格者をクラスごとに分ける。
各クラス二十名まで。
数字が、すべてを決める。
アスベルは人混みの後ろから、静かに掲示を見る。
【Aクラス 合格者】
アイミス
剣技:60点
魔法:90点
筆記:90点
総合:合格 Aクラス(序列10位)
アイミスは自分の名前を見つけ、目を見開いた。
アイミス「……え……?」
周囲のざわめき。
「平民でAクラス……?」 「魔法点、高いな……」
アイミスは胸元で手を握りしめていた。
ミスティ・ロング
剣技:100点
魔法:50点
筆記:50点
総合:合格 Aクラス(序列20位)
ミスティ「……っ」
ギリギリ。
だが、確かにAクラス。
ミスティは一瞬だけ目を閉じ、深く息を吐いた。
ミスティ(……落ちなかった)
その視線が、無意識にアスベルを探す。
そして。
掲示板の最上段。
アスタ・ランドバーグ
剣技:95点
魔法:90点
筆記:100点
総合:合格 Aクラス(序列1位)
どよめきが、一気に広がった。
「全部、高得点……」 「序列一位……」
視線が集まる。
だが、当の本人は。
アスベル(……魔法の点数だけ、不服だな)
心の中で、静かに呟いた。
アスベル(抑えたとはいえ、少し低すぎる)
掲示板から視線を外す。
アスベル(まあいい) アスベル(序列は――取った)
口元に、わずかな笑み。
掲示板から離れ、アスベルが寮へ戻ろうとしたときだった。
「……アスタ様」
振り返る。
そこに立っていたのは、アイミスとミスティだった。
二人とも、少し緊張した面持ちで、しかしはっきりとした目をしている。
アイミス「その……昨日は、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
アイミス「剣技も、魔法も……アスタ様がいなければ、私はここに立てていなかったと思います」
隣で、ミスティが一歩前に出る。
ミスティ「……私もだ」
一瞬、言葉を探すように視線を伏せ、そして顔を上げた。
ミスティ「助けられた、とは言わない。でも……見せてもらった」
握りしめた拳が、わずかに震えている。
ミスティ「ありがとうございました」
二人の視線が、まっすぐアスベルに向けられていた。
期待。
信頼。
感謝。
――どれも、悪くない。
アスベル「気にするな」
柔らかく、模範的な笑みを浮かべる。
アスベル「同じクラスだ。仲良くしよう」
二人の表情が、少しだけ緩んだ。
アイミス「……はい!」 ミスティ「……ああ」
二人は再び頭を下げ、去っていく。
その背中を見送りながら、アスベルは心の中で呟いた。
アスベル(仲良く、か)
一瞬、口元が歪む。
アスベル(――とことんまで、利用してやるよ)
才能。
忠誠。
感情。
価値のあるものは、すべて。
アスベル・ランドバーグは、踵を返した。
学園という箱庭で――
選別は、もう始まっている。
アスベル(さて……Aクラスか)
アスベル(“使える駒”が、どれだけいる?)
学園生活は、ここからが本番だった。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
次はようやく、学園生活が始まります。




