第68話「堕落」
バーンズの処刑から、一年が経っていた。
その一年で、奇妙なことが立て続けに起きた。
バーンズと関わりのあった貴族たちが、次々と姿を消したのだ。
ある者は病に倒れ、
ある者は事故に遭い、
ある者は、ある日忽然と行方をくらませた。
公式記録には、どれも不運な出来事として処理されている。
だが、王都の民は悟っていた。
『すべて、王配アスベルの手によるものだ』
それでも、誰も声を上げない。
理由は単純だった。
税は下がり、治安は改善され、食糧は行き渡っている。
子どもが飢えず、仕事があり、明日の心配が減った。
正義が歪んでいても、支配が血に濡れていても、生活が良くなるなら、民は沈黙を選んだ。
それが、この国の現実だった。
王城・謁見の間。
玉座には、レイア・ガーネット女王が座していた。
背筋は伸び、女王としての威厳は保たれている。
その傍らに立つのは、宰相コルド。
だが、その表情は硬い。
コルド「……レイア女王。王配殿下は?」
レイアは一瞬、視線を伏せる。
レイア女王「……いつもどおりよ」
その答えに、コルドは奥歯を噛みしめた。
コルド「いつもどおりが、問題なのです」
レイアは答えなかった。
否定も、弁明もしない。
玉座の間に、重い沈黙が落ちる。
レイア「アスベルは変わってしまった」
王城・別室。
そこは、もはや執務室ではなかった。
床には酒瓶が転がり、甘い香の煙が漂い、笑い声と嬌声が、薄く残響している。
アスベルは部屋中央のベッドに横になりながらワインを飲んでいた。
衣は乱れ女が両脇にいる。
隣では、ルークレストが豪快に笑い、杯を掲げている。
ルークレスト「いいねえ、王配様!」
ルークレスト「金も女も酒も、尽きる気配がねえ!」
周囲では、数人の女たちが戯れるように笑っていた。
だが、アスベルの表情は、どこまでも平坦だった。
快楽に溺れているようでいて、その瞳は、何も映していない。
ルークレストがちらりと横目で見る。
ルークレスト「……楽しんでるかい、旦那?」
アスベルは、酒を注ぎながら淡々と答えた。
アスベル「支配者は、欲に正直であるべきだ」
ルークレストは一瞬だけ黙り、やがて肩をすくめる。
ルークレスト「……違いねえ」
笑い声が、再び部屋を満たす。
だが、その中心にいるアスベルは、
誰よりも静かだった。
王城の外では、王国は繁栄している。
内乱はなく、反抗の声も上がらない。
だが、王城の奥深くで、ゆっくりと形を成していた。
アスベル(これこそが酒池肉林だ。)
誰も知らない。この道の先に、救いがないことを。
それでも、止まらない。
それが、彼の選んだ支配だった。
読んでくださり、ありがとうございます。
酒池肉林完成です。




