第67話「確立」
王都の広場には、朝から人が集まっていた。
祝祭ではない。
だが、誰一人として、この場を避けようとはしなかった。
広場の中央に組まれた木製の処刑台。
その上には、三つの柱と、一つのギロチン。
刃は磨かれ、朝日を反射している。
人々は騒がない。
囁き合うことも少ない。
それが、この国の新しい空気だった。
兵士に挟まれ、処刑台へ引き立てられる男がいた。
バーンズ辺境伯だった。
今は、鎖に繋がれ、顔色は蒼白だった。
バーンズ「……違う、話が違う!」
声は裏返り、広場に無様に響く。
バーンズ「俺は命令通り動いただけだ!」
バーンズ「王配殿下が……アスベルが、そう言ったんだ!」
どよめきが、わずかに走る。
だが、それ以上には広がらない。
誰もが知っていた。
命乞いは、もう意味を持たないと。
処刑執行官が、一歩前に出る。
執行官「バーンズ」
執行官「貴族の身分を剥奪し、王国反逆罪により死刑を宣告する」
形式的な言葉。
だが、逃げ道は一切ない。
バーンズ「待て!俺は役に立つ!」
バーンズ「裏の貴族の名も、金の流れも――」
その言葉は、途中で遮られた。
ギロチンの前に立つ兵士が、無言でバーンズの頭を押さえつける。
バーンズ「やめろ!やめろおおっ!!」
最後まで、叫び声だった。
合図はない。
ためらいもない。
重い刃が、音を立てて落ちた。
一瞬の静寂。
そして、誰かが息を吐いた。
それが合図のように、群衆は静かに散り始めた。
歓声も、罵声もない。
ただ一つ、確かな理解だけが残る。
これが今の王国なのだ。
同刻。
王城の一室。
アスベルは、窓際の椅子に腰かけ、
湯気の立つコーヒーを一口、口に含んでいた。
外から聞こえる音はない。
処刑の終了報告は、もう届いている。
アスベル「……苦い」
独り言のように呟く。
その瞬間、空気がわずかに揺れた。
アスベル「出てこい。ルーク」
沈黙の後、部屋の隅の影が歪む。
ルーク「……よく分かりやしたね」
いつもの軽い口調だった。
アスベルは表情を変えない。
アスベル「そろそろ、その演技をやめたらどうだ?」
ルーク「なんのことやら」
アスベルは、視線を向けない。
アスベル「お前の組織……シャドウ、だったか?」
その一言で、ルークの空気が変わった。
ルーク「……」
アスベル「まだ続けるか?」
数秒の沈黙。
やがて、ルークは小さく息を吐いた。
ルーク「……やっぱり筒抜けですか」
彼は姿勢を崩し、ソファに腰を下ろす。
ルークレスト「いやぁ、旦那。怖い怖い」
もはや、隠す気はない。
アスベル「それで?」
アスベル「お前たちは、どうするんだ?」
ルークレストはタバコを取り出し、火をつけた。
ルークレスト「逆らう気はねえですよ」
ルークレスト「むしろ、いいパートナーになれそうだ」
煙が、天井へと昇る。
アスベル「なら、仕事をやれ」
アスベル「バーンズとフリーマンに与していた貴族」 アスベル「病死、事故死、行方不明……手段は問わん」
ルークレスト「……見返りは?」
アスベルは、コーヒーを口に運ぶ。
アスベル「酒、女、金、肉」
アスベル「それで十分だろう」
一瞬の沈黙。
そして、ルークレストは笑った。
ルークレスト「……いい顔してるぜ、旦那」
次の瞬間、彼の姿は消えていた。
アスベルは立ち上がり、窓を開ける。
冷たい風が、部屋に流れ込む。
遠く、王都の上空を鳥が飛んでいた。
アスベル(あと少しだ…あと)
アスベルは覚悟を決めていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
物語もいよいよ最終章に突入します。




