第66話「支配」
大聖堂は沈黙に包まれていた。
祝福のために敷かれた赤絨毯の上には役者が揃っている。
アスベルは、祭壇の前に立ち、淡々と口を開いた。
アスベル「フリーマン、サイリー」
その声は低く、よく響いた。
アスベル「お前たちは民衆を扇動し、戴冠式を妨害し、女王の権威を貶めた」
ざわめきは一切起きない。 民衆も悟っていた。
アスベル「王国への反意だ」
フリーマンが一歩踏み出す。
顔は紅潮し、目は血走っていた。
フリーマン「ふざけるな!」
フリーマン「俺は王国のために!お前を」
言葉の途中で、フリーマンは剣を抜いた。
レイア「やめ…!」
止める声より早く、フリーマンは駆けた。
剣を振り上げ、アスベルに襲いかかる。
その瞬間、金属音が響いた。
アスベルもまた、剣を抜いていた。
迷いのない閃光のような一太刀。
次の瞬間、フリーマンの両腕が宙を舞い、床に落ちた。
遅れて、民衆から悲鳴が上がった。
フリーマン「あ、ぁ……!」
膝から崩れ落ちるフリーマン。 肩口から血が噴き出す。
噴き出した血は大聖堂とアスベルを血で染める。
フリーマンは縋るような目で辺り見渡す。
そして、見つけた。
フリーマン「レイア……」
フリーマン「助けてくれ……」
その声に、レイアの体が強張る。
アスベルは剣を下ろしたまま、振り返らない。
アスベル「……情に訴える相手を、間違えたな」
サイリーは、その場に座り込んでいた。
腰が抜け、震える声で叫ぶ。
サイリー「ち、違う!」
サイリー「僕は反乱するつもりなんてなかった!」
サイリー「全部、フリーマンに唆されただけだ!」
アスベルは、血に汚れたままサイリーへと歩み寄る。 その足取りは、あまりにも静かだった。
アスベル「レイア女王は、お優しい方だ」
サイリー「……っ!」
希望に縋るように、サイリーの目から涙が溢れる。
アスベル「だが」
大聖堂に、沈黙が落ちる。
アスベル「王国への反意は、例外なく死罪だ」
言い終わると同時に、アスベルは剣を振るった。
躊躇はなかった。
サイリーの首が床を転がる。
アスベルは振り向き、後ろを切りつける。
フリーマンの首が床に転がった。
血が飛び、柱を、床を、祭壇を汚した。
大聖堂は静まり返る。時折、嗚咽のような声がした。
剣を収めたアスベルは、ゆっくりとレイアへと歩みよる。
そこには、膝をついたレイアがいた。
レイアは、何も言えなかった。
家族として、止めるべきだったのか。
アスベルは、何も語らない。
ただ、その背に宿るものが、 この場にいる全員に理解させていた。
ここから先、この国を支配するのは、 甘さではない。
戴冠式の大聖堂で、 王配アスベルは、王国の完全な支配者となった。
流れた血は、2人だけだった。
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支配完了




