第65話「謀略」
大聖堂は、怒号に満ちていた。
フリーマン「答えろ、アスベル!」
「王配として、どう責任を取るつもりだ!」
アスベルとレイアを民衆が囲んでいる。
その中心で、フリーマンが声を張り上げていた。
フリーマン「見ろ、この光景を!」
フリーマン「これが民意だ! これが答えだ!」
その隣で、サイリーが一歩前に出る。
声は静かだが、よく通る。
サイリー「あなたが王配として不適なのは、この民衆を見れば明らかです」
サイリー「あなたの身分と経歴がこれを生んだ」
アスベルは何も言わない。
ただ、立っているだけだった。
沈黙が、逆に人々を苛立たせる。
フリーマン「それを選んだレイアも同罪だ!」
フリーマン「感情に溺れ、国を危険に晒した!」
群衆の中から、同調する声が上がる。 だが、完全な熱狂には至らない。
フリーマンはそれに気づき、さらに声を荒げた。
フリーマン「この俺こそが、強い王国を作れる!」
フリーマン「さぁ! 負けを認めろ、アスベル!」
その瞬間だった。
アスベルが、突然、大声で笑った。
アスベル「……はははははは!」
後ろに立っているレイアが心配そうにする。
レイア「……アスベル?」
大聖堂が静まり返る。
フリーマン「……何がおかしい!」
サイリー「悪あがき、ですか?」
アスベルは、笑いを止めると、初めて口を開いた。
声は低く、よく響いた。
アスベル「おい。もういいぞ」
その一言で、空気が変わった。
民衆の中から、ざわめきが消えていく。
剣が、槍が、地面に落ちる音が、次々と響いた。
フリーマン「……あ?」
サイリー「どういうことです……?」
武器を捨てた民衆は、互いの顔を見合わせ、後ずさる。
そして、人波がゆっくりと割れた。
黒いフードを被った男が、一歩、また一歩と前に出てくる。
アスベル「ご苦労だったな。ルーク」
フードが外される。
現れたのは、見慣れた顔だった。
ルーク「ご依頼のとおりです。」
フリーマンの顔色が変わる。
フリーマン「……どういうことだ!」
サイリーは、息を呑んだ。 視線が、民衆ではなく背後に向く。
サイリー「……バーンズ」
名を呼ばれた男は、答えなかった。 ただ、俯いたまま、動かない。
アスベルが一歩、前に出る。
アスベル「バーンズ。ご苦労だった」
その言葉が、決定打だった。
バーンズは待ちきれぬようにとアスベルの元に走っていく。
バーンズ「これで、私は辺境伯から公爵になれるのですね」
アスベルは返事をしなかった。
フリーマン「いつからだ……!?」
ルークが淡々と告げる。
ルーク「最初からだ。暴動計画、資金、煽動文句」
ルーク「全部、筋書き通りだ。」
サイリーの表情に、はっきりとした焦りが浮かぶ。
サイリー「……最初から、我々を泳がせていたのか?」
アスベルは、答えない。
ただ、その沈黙が、すべてを肯定していた。
アスベルがゆっくりと歩く。
大聖堂に足音が響く
アスベル「さて…」
アスベルはフリーマンとサイリーを見下す。
アスベル「先程の発言は王国への反意を示すものだったな」
真実と嘘。 正義と謀略。
その境界線は、すでに大聖堂の床に、はっきりと引かれていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
さぁ、総仕上げです。




