第62話「世間」
夜の王城の一室。
重厚な扉に隔てられた静かな空間で、三人は向かい合っていた。
窓から差し込む月の光が柔らかく照らしていた。
アスベルはソファに腰掛け、湯気の立つカップを手にしている。
向かいには、レイア女王
その背後、少し距離を取ってコルドが立っていた。
レイアは、アスベルをまっすぐ見つめて口を開く。
レイア「……本当によかったの?」
アスベルは視線を上げず、コーヒーを一口飲む。
アスベル「いいんだ」
淡々とした声だった。
アスベル「これで、世間がはっきりする」
レイアはその言葉に、わずかに眉をひそめる。
レイア「でも……あなたが狙われるわ」
王配は権力を持ちながら、王ではない存在。
レイアはそれを理解していたからこそ、視線を落とした。
アスベルは、喉の奥で小さく笑う。
アスベル「クク……それはない」
レイア「なぜ、そう言い切れるの?」
アスベルはようやく顔を上げ、レイアを見る。
その隻眼には、焦りも不安もなかった。
アスベル「ここで俺を暗殺したら、誰が敵になる?」
レイアは一瞬、言葉に詰まる。
レイア「……国民、ね」
アスベル「そう」
アスベルはカップを机に置く。
アスベル「あれだけのパレードをして大人気の王配を殺せば、それは女王への明確な反乱になる。そして、悲劇として語られ、レイア女王の支持率は急上昇だ。」
レイアは息を飲む。
アスベル「つまり、フリーマンたちは俺に直接手を下せない」
沈黙の中、コルドが口を開いた。
コルド「……世論操作」
アスベルは口角を上げる。
アスベル「正解だ。噂、疑念、誇張。フリーマン達は民衆の心を揺さぶるだろう。
『王配は平民だ!ふさわしくない』
『女王はアスベルの魔法により操られている』
『国が滅亡へと歩み出す』とかね」
アスベルはまたコーヒーを手に取った。
コルド「……戴冠式か」
アスベルはニヤリとする。
アスベル「そこが奴らとの決着の場だ」
戴冠式は、正式な場
そこでの決定は絶対だ。
アスベル「だから俺は待つよ」
コルドが怪訝そうに眉をひそめる。
コルド「……待つ?」
アスベル「ああ。どんな噂を流すのか楽しみだ」
レイアは、思わずアスベルを見る。
その言葉の奥にあるものを、理解してしまったからだ。
レイア「……あなたは、世間を分断させるつもりなの?」
アスベルは否定しなかった。
アスベル「もう分断は始まっている。俺はただ、それを“見える形”にするだけだ」
コルドは小さく息を吐く。
コルド「……後手に回るぞ?」
アスベル「大丈夫だ。」
部屋に沈黙が走る。
そこに、1人の男が入ってきた。
コルド「何者だ!」
ルーク「アスベル様に用件が」
コルド「その場で言え。レイア女王の御前だぞ!」
ルークは膝をついて話し始める。
ルーク「アスベル様、町中で妙な噂を掴みました。」
その一言で、すべてが繋がった。
アスベルは立ち上がり、窓の外を見る。
王都は今日も平和だった。しかし、まだ闇は深い
アスベル「……それでいい」
静かな部屋の中で、女王と宰相は言葉を失った。
王都内の酒場
『知ってるか?アスベルはレイア女王の弱みをにぎっている。』
『フリーマンはアスベルに騙されていた。』
『レイア女王はアスベルの傀儡』
『アスベルは昔、大罪を犯して貴族を追われた。』
静かに、そして確かに広まっていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
やってないことの証明は誰もできない




