第60話「波紋」
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いよいよですね
王都は悲しみにくれていた。
大通りには黒い服を着たものが目立っていた。
“ガーネット3世の崩御”
偉大なる賢君の死は王都に静かに衝撃を与えていた。
しかし、酒場の雰囲気は違っており静かに“ざわついて”いた。
「国王が、亡くなったらしいな」
「ということは、新しい時代だな」
「次は……あの人だろ?」
名は、まだはっきりとは出ない。
だが、不思議なほど一致していた。
レイア王女の進退は?
女王になるのか?
それとも国王の妃となるのか?
それが誰かを、誰も断言しない。
だが、皆が同じ名を“思い浮かべて”口を閉ざした。
アスベルかコルドか
同じ頃。
旧ランドバーグ領のある貴族の屋敷
バーンズ「ようやく……国王が死んだ」
旧ランドバーグ領の最北端に領地を構えるノースティナ辺境伯の領主であった。
バーンズ「俺のシナリオ通りだ。」
そう言うと2人の男が入ってくる。
フリーマンとサイリーだった。
フリーマン「…ふん。親父が死んだか」
サイリー「仕方ないですよ。我々が王に戻るには必要な犠牲です。」
バーンズ「国王の死によって、国には混乱が起きる」
バーンズはワインを片手に立ち上がる。
バーンズ「あとは、レイア王女やアスベルとやらの悪い噂を流し、支持率を下げる。」
フリーマン「そこに俺様が登場して、革命を成功させる。」
バーンズはワインを飲み、フリーマンと笑う。
バーンズ「裏の社会はアスベルを恨んでいるものが多い。」
バーンズ「自ずと我が下へと集うでしょう。」
サイリー「…しかし、油断は禁物です。」
フリーマン「あ?お前は心配性なんだよ」
サイリーの脳裏からはアスベルのことが離れなかった。
王城の一室。
アスベルは、窓辺に立っていた。
街の灯りは、いつもと変わらない。
アスベル(崩御の公表をした。ならば、動いてくるはずだ)
部屋の影から1人の男が現れる。
ルーク「旦那…報告だ」
アスベルはルークの方を一切見ない。
ルーク「…あんたの言う通り裏の金が動いた。北の国境へと動いている。」
アスベルはニヤリとする。
アスベル「……いい反応だ」
独り言のように呟いた。
ルークは頭をかきながら喋る。
ルーク「あと、旦那に言われた通り噂を流しておいた。レイア王女が妃となり、アスベルを王配にするってな」
ルークは不思議そうにする。
ルーク「こんな噂で何があるのやら」
ルークはアスベルの返事を聞かないまま、部屋から出て行った。
反発する者。様子を見る者。噂を利用しようとする者。
アスベル「王になりたくない者はいない。だが、王を認めたくない者は必ず居る」
彼は、静かに笑っていた。
王都中央大聖堂。
黒い幕が垂れ、香の煙が静かに漂っていた。
棺の中には、
第三代国王・ガーネット三世が眠っている。
賢王と呼ばれた男の最期を見送るため、
貴族、騎士、聖職者、そして王都の有力者たちが一堂に会していた。
重い沈黙。
すすり泣く声すら、どこか遠い。
やがて、祭司の祈りが終わる。
その時だった。
前に進み出たのは、喪服に身を包んだレイア王女だった。
彼女は一度、棺に深く頭を下げる。
そして、顔を上げた。
その瞳に、迷いはなかった。
レイア「父、ガーネット三世の崩御に伴い、王位継承権に伴い私がガーネット4世として王位につきます。」
大聖堂が、ざわめく。
皆が息を呑んだ。
レイア「そして、私と共にこの国を導く者として、王配にアスベルを指名します」
一瞬の静寂。
レイアの後ろからアスベルが出てきた。
観客は息を呑む。
出てきたのは、いつものフード姿ではなかった。
髪型はオールバックに整えられ、銀色の眼帯が威圧感を増していた。
自ずと拍手が起きた。
最初はまばらだった音が、次第に広がり、重なり、やがて大聖堂全体を満たしていた。
騎士たちが胸に拳を当てる。
聖職者たちが頷く。
民の代表者たちが、安堵したように拍手を続ける。
アスベルは表情を変えずに手をあげて応えた。
その拍手の輪の中で、叩かぬ手があった。
顔には笑みを貼り付けながら、目だけが冷え切った貴族。
(……平民まがいが、王配だと?)
(王女に取り入っただけだ)
(認められるものか)
苛立ちと憎悪は、
音を立てず、確実に広がっていく。
その様子を、
アスベルは静かに見渡していた。
拍手の中心に立ちながら、
彼は一切、笑わない。
アスベル(……いい)
心の中で、そう呟く。
アスベル(闇よ。膨れ上がれ)
葬送の鐘が鳴る。
それは、賢王の時代の終わりであり、
新たな争いの始まりを告げる音だった。




