第6話「入学試験-魔法-」
剣技試験が終わり、受験者たちは再び石畳の広場に集められた。
倒れたまま担架で運ばれていく試験官を横目に、ひそひそとした声が広がる。
アスベル(……まあ、気絶しただけだろ。壊れてはいない)
興味なさそうに視線を逸らす。
前に立ったのは、サイト・マークスマン教官だった。
頬の痣が消えていない。苛立ちを隠そうともしていない。
サイト「次は魔法試験です」
その一言で空気が張りつめる。
サイト「内容は単純。この石像に魔力を“外へ放出”し、影響を与えなさい」
教官の指し示す先には、人の背丈ほどの石像がいくつも並んでいる。
サイト「破壊は不要。揺らす、欠けさせる、それで十分です。派手さはいりません。基礎だけを見ます」
アスベル(基礎、ね)
つまり――
出せなければ、終わり。
火球が飛ぶ。
風刃が走る。
石像は揺れ、欠け、試験は淡々と進んでいく。
アイミスは得意の水魔法でサイト教官の外套を濡らしてしまった。
アイミス「すみません!すみません!」
アスベル(うーん…制御が苦手なのか?)
そして。
サイト「次。ミスティ・ロング」
赤髪の少女が前に出た。
剣技試験で見せた鋭さは、今は影もない。
ミスティ(……できる。私は、できる)
ミスティは深呼吸をする。
詠唱。
魔力は集まる。
――だが、外へ出ない。
ミスティ「……っ!」
何も起こらない。
再び詠唱。
額に汗が浮かび、声が震える。
ミスティ「お願い……出て……!」
石像は、沈黙したままだった。
周囲から、嘲るような声が漏れる。
「剣しかできないんだろ」
「まさか、魔法ができないのに受験したの?」
ミスティの目が潤む。
剣術の鍛錬は死ぬほどやってきた。でも、魔法だけはできない。
唇を噛み、半べそになりながらも、詠唱を止めない。
ミスティ「……っ、まだ……!」
アスベル(魔力は十分でている。)
視線を細める。
アスベル(だが、出口がない)
内側で渦を巻く魔力。
溜め込むだけで、吐き出せない。
アスベル(――惜しい)
剣技は上等。
身体能力も高い。
アスベル(放っておくには、使い勝手がいい)
アスベルはミスティの身体を見る。
アスベル(顔と身体つきもいい)
価値はある。
アスベルは、静かに口を開いた。
アスベル「サイト教官」
場が静まる。
サイト「……何ですか、アスタ・ランドバーグ」
アスベル「このまま落とすのは、学園として損失では?」
サイトの眉が動く。
アスベル「魔力はある。才能もある。
“今日の出来”だけで切るのは、少々短絡的かと」
善意ではない。
損得の話だ。
サイト「……」
サイトは一瞬、周囲を見渡し、舌打ちした。
サイト「……仕方ありません。では、あなたが先にやりなさい」
アスベル「ありがとうございます」
アスベルは前に出る。
その途中、膝をついたミスティの横を通り過ぎる。
囁く。
アスベル「――よく見ろ」
ミスティ「……?」
アスベルは石像の前に立つ。
詠唱はない。
アスベル「……はぁ」
魔力が身体に巡る。
筋肉、骨、神経――すべてを支配する。
アスベル(内に通す)
次の瞬間。
アスベル「エアプレッシャー」
拳を突き出した。
ドンッ!!
爆音。
魔法陣も光もない。
だが、拳から放たれた圧縮された空気が、
石像を確かに押し動かした。
重たい石が、ギリ、と音を立てて後退する。
沈黙。
サイト「…………」
否定できない。
サイト「……対象に影響は出ていますね」
歯噛みしながら。
サイト「条件は満たしています。合格です」
アスベルは振り返る。
ミスティの目が、大きく見開かれていた。
ミスティ(……そうか)
ミスティ(外に“出す”んじゃない)
理解した顔。
アスベルはミスティに何も言わず、戻っていく。
サイト「さぁ…ミスティ・ロングの番ですよ」
ミスティ(私は逃げない!)
ミスティの顔付きが変わる。
ミスティは剣を構える。
ミスティ「……はぁぁぁ!」
次の瞬間、空を斬った剣から空気の衝撃波が飛び出した。
石像は音もなく真っ二つになった。
サイト「………脳筋にも程があります。合格です。」
試験会場は歓声に包まれた。
アスベル(恩は売れた。あとは返してもらうだけだ。)
次は筆記試験
読んでいただきありがとうございます。
次は結果発表です。




