第58話「序章」
王城・私室。
扉が乱暴に開かれる。 駆け込んできたのは、レイア、アスベル、そしてコルドだった。
床には、ガーネット三世が横たわっていた。
顔色は土気色に変わり、呼吸は浅い。
その傍らで、
ハイネ王妃が声を殺して泣いていた。
「……お父様……」
レイアは崩れるように膝をつき、
王の身体に縋りつく。
担当医師が、重い沈黙を破った。
「……毒です」
「緩効性のものを、長期にわたり服用させられていた形跡があります」
アスベルが、一歩前に出る。
「助かるのか」
問いは短く、鋭かった。
医師は、何も言わず、
ただ深く頭を下げた。
それが答えだった。
レイア「そんな……」
レイアの声は、震えていた。
レイア「お父様……お願い……」
ハイネは、娘の肩を抱き寄せる。 言葉はなかった。
アスベルは、その光景を、ただ見ていることしかできなかった。
ガーネット三世の、瞼がわずかに動く。
ガーネット3世「……ハイネ……」
王妃が顔を上げる。
ガーネット3世「お前には……苦労をかけたな」
ガーネット3世「レイアを……しっかり、甘やかしてやってくれ」
ハイネは、声にならない声で、頷いた。
ガーネット3世「……レイア……」
呼ばれた名に、レイアは必死に顔を上げる。
ガーネット3世「お前は……誰よりも賢い子じゃ」
ガーネット3世「だが……賢さに、溺れるな」
ガーネット三世は、息を整えながら続ける。
「アスベルと……コルドに……甘えるな」 「己の足で……王道を歩め」
レイアの頬に、涙が伝う。
ガーネット3世「……ずっと……愛しておるぞ……」
その言葉を最後に、王の視線は、ゆっくりと横へ動いた。
ガーネット3世「……アスベル……」
呼ばれ、
アスベルは、レイアたちの前に進み出る。
王の顔のすぐ近くへ、身を屈めた。
その時。
アスベルはわずかに、笑っていた。
それは嘲りではない。
勝利でもない。
それが、自分の意思表示だった。
ガーネット三世は、その表情を見て、
小さく息を吐く。
ガーネット3世「……それで、よい」
ガーネット3世「……苦労を、かけるな」
アスベルは、何も言わず、深く、深く、頭を下げた。
ほどなくして。
賢君ガーネット三世は、
静かに、その生涯を閉じた。
ガーネット3世の崩御から王城内は慌ただしかった。
速やかに主要貴族が集められる。
出席するは、メラ・ルクシード、レクシア・サファイア、ユルド・ヴァレンシュタイン、レイア、コルド、そしてアスベルだった。
メラ「ガーネット3世は良き王だった。」
会議場を重い空気が流れる。
ユルド「速やかに王を擁立すべきだろう。」
レクシア「民衆への報告はどうする?毒殺など、公表できない。」
メラ「いや、嘘をついてはいけないわ」
3人の有力貴族の意見は分かれていた。
レイア(……どうすれば)
アスベルはゆっくりとレイアの肩を叩く。
アスベル「……任せておけ」
アスベルは小声でレイアに囁いた。
アスベルは堂々とした姿勢で話し出す。
アスベル「陛下の崩御は、公表します。」
会議場の視線がアスベルに集まる。
レクシア「アスベルくん。どういうことだい?王家の誇りを踏みにじる気かい?」
アスベルは動じない。
アスベル「陛下の崩御を毒殺を伏せて、公表する。そして、後継にはレイア王女が立つ。」
メラ「嘘をつけばつけ入るスキを与えるわ」
アスベルはニヤリと笑う。
アスベル「そのスキをあえて作り出す。」
アスベル「コルド。お前が毒殺した犯人だったらこの状況でどうする?」
コルドは頭をかきながら、前に出る。
コルド「レイア王女はガーネット3世を毒殺し、不当に玉座を手に入れようとしている!と言うな」
アスベル「……それで?」
コルド「解放軍を組織して、あるべき姿に戻すとか言うだろうな。つまりは王の地位を狙う。」
アスベル「さすがだな。俺も同じ考えだ」
コルドは舌打ちをして、下がった。
ユルド「……なるほど。つまりは、フリーマンとサイリーを誘き出す罠ということか」
メラ「…内戦になりますね」
アスベルはニヤリとする。
アスベル「私は一滴の血も無駄にしたくありません。」
アスベル「無血で降伏させてみせますよ」
会議場は恐怖に包まれていた。
読んで下さり、ありがとうございます。
大掃除、始まります。




