第55話「因果応報」
王城・謁見の間
レイア達はガーネット3世に謁見していた。
ガーネット3世「此度の公共事業。大義であった。」
レイア達は頭を下げる。
ガーネット3世「この王国も更なる発展を遂げるだろう。支持をしてくれたルクシード公爵家とサファイア公爵家にも礼を言う。」
メラ・ルクシードとレクシア・サファイアが頭を下げる。
ガーネット3世「これで、後継者は決まったな。」
張りつめた空気の中で、ガストン・ランドバーグ公爵が一歩前に出た。
ガストン「……待て」
低く、しかし確信に満ちた声。
ガストン「その前に、一つ言わせてもらおう」
ガストン「レイア殿下。あなたの側近、その男についてだ」
ざわり、と空気が動く。
アスベルは、何も言わない。
黒いフードを被ったまま、静かに立っていた。
ガストン「その男は、信用に値しない」
ガストン「いや……居場所のない男だ」
ガストンは指を鳴らした。
扉が開く。
アスタを先頭に、三人の女性が入ってくる。
アイミス。
ミスティ。
シンシア。
俯いたまま、表情は相変わらずの無表情だ。
恐怖と諦めが混じった顔。
ガストン「知っているかね、殿下」
ガストン「この者たちは、その男が壊したのだ」
レイアの視線が、わずかに揺れる。
ガストン「そいつは我が息子のアスタに顔が似ているからと言って、影武者を勝手に名乗り」
ガストン「我が家を乱した大罪人だ!」
謁見の間にどよめきが走る。
ガストン「そんな男を側近にするとは、レイア姫の目は腐っているようだ」
ガーネット3世「ガストン!」
国王の制止を振り切るように言葉が飛ぶ
フリーマン「そうだ!ありえぬ!」
サイリー「反吐が出そうな男ですね」
ガストンは得意気に喋る。
ガストン「身分も、名も、守る者もない」
ガストン「だからこそ、こいつは必死に権力に縋りついた」
ガストンは、楽しそうに笑った。
ガストン「まあ、レイア姫に薬でも盛ったのだろう?」
ガストン「正体を表せ!売国奴が!」
その言葉が、広間に落ちる。
沈黙。
アスベルが、初めて口を開いた。
アスベル「……誰ですか、あなたは?」
ガストン「……は?」
アスベルは、ゆっくりとフードに手をかける。
そして、外した。
隻眼。
傷跡。
見慣れた顔。
その瞬間。
アイミス、ミスティ、シンシアの表情が、凍りついた。
無表情が、驚愕に変わり、
驚愕が、涙に変わる。
アイミス「……っ」
ミスティ「……うそ……」
シンシア「……アス……」
声にならない嗚咽。
ガストンの笑みが、僅かに歪んだ。
アスベル「私は、ただのアスベルですよ」
淡々とした声。
アスベル「あなたが言うような過去も」
アスベル「罪も」
アスベル「今の私には、関係ありません」
アスベルは、ゆっくりとレイアの方を向く。
アスベル「レイア様」
その声には、迷いがなかった。
アスベル「今の発言」
アスベル「ガストン・ランドバーグ公爵は、王家に対し反逆の意を唱えました」
広間が、凍りつく。
ガストン「な、何を――!」
アスベル「私個人を脅すために、無関係の民を拉致し」
アスベル「王女殿下を侮辱した」
アスベル「これは、恐喝であり」
アスベル「反逆です」
アスベル「拘束を」
短い言葉。
だが、それは
この場の主導権が完全に移った合図だった。
兵が、動く。
ガストン「ま、待て!」
ガストン「育ててやった。恩を忘れたのか!」
だが、もう遅い。
レイアは、静かに頷いた。
レイア「ガストン・ランドバーグ公爵」 レイア「身柄を拘束しなさい」
アスベル「恩?大罪人は恩を返しましたよ」
アイミスたちは、泣きながら床に崩れ落ちる。
アスベルは、振り返らなかった。
王城・大広間。
臨時に招集された裁定の場。
王族、主要貴族、そして多くの文官が居並ぶ中、
中央には一人の男が立っていた。
ガストン・ランドバーグ公爵。
顔には余裕があった。
――少なくとも、数刻前までは。
玉座の前に進み出たのは、
第三王女レイア・ガーネット。
静まり返る広間で、
彼女の背後から一歩前に出た男がいた。
隻眼の側近。
アスベル。
アスベル「では、報告を始めさせていただきます」
その声に、ガストンの眉がわずかに動く。
アスベル「ランドバーグ公爵家は、王国法に反する行為を長年にわたり隠蔽してきました」
ざわり、と空気が揺れた。
アスベル「第一に、隠し子の存在」
アスベル「第二に、それを口外した村人への弾圧と略奪」
アスベル「第三に、王家への虚偽報告」
巻物が開かれる。
証言、帳簿、署名。
逃げ場は、もうない。
ガストン「……でたらめだ!」
ガストン「そんなもの、誰が」
アスベル「証人は、すでに保護しております」
アスタが前に出てくる。
アスタ「父上、もう終わりです。」
ガストン「きさまぁ!」
アスベルは、感情を一切乗せずに続ける。
アスベル「以上をもって」
アスベル「ランドバーグ公爵家は、王国に対する反逆および重罪を犯したと判断します」
沈黙。
アスベルは、ゆっくりと視線を上げた。
アスベル「よって」
一拍。
アスベル「民衆の前での処刑を、進言いたします」
どよめきが走る。
怒号でも悲鳴でもない、
納得と恐怖が混じった音だった。
ガストン「せめてもの、尊厳ある死を…」
アスベルは、冷たく見下ろす。
アスベル「まだ思っているのですか?」
完全な冷笑。
次の言葉で、空気が変わった。
アスベル「ただし」
一瞬、全員の意識が彼に集中する。
アスベル「ランドバーグ公爵家が失われることが、王国にとって損失であるのも事実であります。」
ざわめき。
アスベル「よって、提案します」
アスベルは、後方に立つ一人の青年へ視線を向けた。
アスベル「新たなランドバーグ公爵家当主として」
アスベル「アスタ・ランドバーグを据える」
アスタの肩が、わずかに震えた。
アスベル「彼は王都に残り」
アスベル「レイア・ガーネット殿下の直轄として仕えるものとします」
広間が静まり返る。
それは、慈悲ではなかった。
完全な管理だった。
レイアが、一歩前に出る。
レイア「……異論はありますか?」
誰も、口を開けなかった。
ガーネット三世は、深く目を閉じる。
ガーネット三世「……裁定を認める」
その瞬間、
ガストン・ランドバーグは、崩れ落ちた。
アスベルは、彼を一度も見なかった。
視線の先には、
未来しかなかった。
そして、広間の隅。
アスタは、
アスベルの背中を、ただ見つめていた。
その背中が、
あまりにも遠く、あまりにも冷たく見えた。
読んで下さり、ありがとうございます。
血は血でしか洗えない。そして、血をふけるのは綺麗な布だけだ。




