第49話「誇示」
夕刻。
王城付属の練兵場には、異様な緊張が漂っていた。
観覧席には、第一王子フリーマン。
上階の私室からは、国王ガーネット三世。
そして、バルコニーには第三王女レイア・ガーネット。
その視線を一身に受けながら、
アスベルは黒いマントを羽織り、練兵場の中央に立っていた。
フリーマン「こいつらが相手だ」
フリーマンの合図で前に出たのは二人。
一人は、大柄な重装騎士。
もう一人は、ローブに身を包んだ女魔道士。
フリーマン「俺の親衛隊の中でも、選りすぐりだ」
フリーマン「条件は簡単だ。どちらかを膝をつかせたら、お前の勝ちだ」
アスベルは、ゆっくりと首を傾げた。
アスベル「……舐められたものですね」
アスベル「その条件では、意味がありません」
ざわめきが走る。
アスベル「勝利条件は一つ」
アスベル「気絶するか、降伏するか。それだけです」
フリーマン「……減らず口を」
アスベル達が配置につく。
審判が合図をする。
開始の合図と同時に、騎士が地を蹴り、魔道士が詠唱に入る。
だが
アスベルは、動かない。
騎士「隙だらけだ!」
振り下ろされる剣。
その刃を、アスベルは紙一重でやり過ごす。
次の瞬間、
アスベルは騎士ではなく、魔道士へと一直線に踏み込んだ。
魔道士「……え?」
一閃。
布が裂ける音。
ローブが破れ、肌が露わになる。
魔道士「きゃああっ!」
観覧席がどよめく。
騎士「貴様――!」
怒号と共に迫る騎士に、
アスベルは視線すら向けない。
アスベル「……ああ、そういう関係でしたか」
軽く蹴り上げる。
剣が宙を舞う。
次の瞬間、掌底。
鈍い音と共に、騎士の身体が吹き飛び、地に沈む。
息もできず、もがく騎士。
アスベルは倒れた魔道士へと歩み寄る。
魔道士は必死に身体を隠そうとするが、足が動かない。
アスベル「安心してください」
アスベル「これは模擬戦です」
膝をつき、耳元で囁く。
アスベル「……戦場だったら、あなたは色んな物で貫かれてますよ」
魔道士の顔から血の気が引く。
次の瞬間、彼女はその場に崩れ落ち、意識を失った。
静寂。
練兵場には、倒れた二人と、
無傷のまま立つアスベルだけが残った。
アスベルは、ゆっくりと観覧席を見上げる。
アスベル「この勝利をレイア様に捧げます。」
レイアは、何も言わずに立ち上がった。
その姿は、
「妹」ではなく
「王位継承者」のそれだった。
フリーマンは、歯を噛み締めていた。
ガーネット三世は、ただ黙っていた。
その光景を、記憶に刻んでいた。
翌日、レイア姫の側近がフリーマンの騎士達を返り討ちにしたと噂が流れる。
レイア姫が王城をゆっくりと歩く。後ろにはアスベルとコルド
今までは軽視されていたのが、全員が正対して頭を下げていた。
王城では、ある噂が囁かれるようになる。
レイア派が本格的に動き始めた。特に、あの側近には逆らうな。
王位継承戦争は、
静かに、しかし確実に始まった。
読んで下さり、ありがとうございます。
尊敬とは恐怖だ。




