第47話「把握」
王城の一室。
夜更けにも関わらず、灯りは落ちていなかった。
地図と家系図、貴族名簿が机の上に広げられている。
アスベルは椅子に腰掛け、指で王都の中心を軽く叩いた。
アスベル「……まずは、王族だな」
向かいに座るのはレイア・ガーネット。
そして壁際には、腕を組んだままのコルドが立っている。
レイア「兄は二人いるわ」
淡々とした声だった。
そこに、感情はほとんど含まれていない。
レイア「第一王子、フリーマン・ガーネット」
アスベルは頷く。
レイア「脳筋。武力信仰。女を何人も囲って、戦争と狩りが好き」
レイア「兵が多く、声が大きい。だから支持も多い」
コルドが鼻で笑った。
コルド「典型的な“強い王”像だな。考えない分、分かりやすい」
アスベル「……で、第二王子は?」
レイアは視線をずらす。
レイア「サイリー・ガーネット」
レイア「頭はいい。効率主義。無駄を嫌う」
レイア「ただし、身体が弱い。前に出ない」
アスベル「裏で動くタイプか」
レイア「ええ。人も金も、静かに集める」
レイア「だから、気づいた時には盤面が出来上がっている」
コルド「……厄介だな」
レイアは、そこで一度息を吐いた。
レイア「そして、第三王女。私」
アスベルは何も言わない。
ただ、視線を向ける。
レイア「才色兼備、ということになっているわ」
レイア「でも実態は……」
レイアは、机の上の小さな駒をつまみ上げた。
レイア「派閥が、最も弱くてか弱い女」
その一言が、全てだった。
アスベル「……貴族の動きは?」
レイアは地図を指差す。
レイア「北のランドバーグ公爵家」
レイア「第一王子、フリーマン派」
アスベルの指が、わずかに止まる。
アスベル(……やはりな)
レイア「そして、南のヴァレンシュタイン公爵家」
レイア「第二王子、サイリー派」
コルドが、肩をすくめる。
コルド「うちの家だ。昔のな」
アスベル「……他のは?」
レイア「西のルクシード公爵家」
レイア「東のサファイア公爵家」
レイア「どちらも中立派。勝ち馬に乗るつもり」
アスベルは、全体を一度見渡した。
王族三人。
派閥は完全に2人の王子に集中
中立は2つの公爵家。
アスベル「……分かりやすいな」
レイア「ええ。だからこそ、動けない」
レイア(私が学校長をしているのもそれが理由…)
アスベルは、静かに笑った。
アスベル「逆だ」
アスベル「分かりやすいから、壊せる」
コルドが口角を上げる。
コルド「王族同士での喧嘩には勝ち目はない」
レイアは、アスベルを見る。
レイア「……私の派閥は、駒が足りない」
レイア「それでも?」
アスベルは、迷いなく答えた。
アスベル「何も派閥は貴族だけではないだろう」
アスベル「経済、民意」
アスベル「全て我が物とする」
机の上の駒が、ゆっくりと倒された。
王国はまだ平穏だった。
だがその水面下で、
最悪の手合いが、盤面を把握し終えた。
アスベル「まずは」
アスベル「レイア姫の側近が著しく優秀だと知らしめようではないか」
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