第38話「帝国の影」
アスベルは、商人から吐かせた情報を頼りに、ランスの街から半日ほど離れた場所に立っていた。
街道はすでに外れ、人の気配はない。
アスベル(……ここか)
森に囲まれた小高い丘。
その頂に、廃墟同然の古城が佇んでいた。
壁は崩れ、塔は半ば折れ、捨てられた場所だ。
アスベルは周りを調べる。
アスベル(空気が死んでいない)
彼は、正面の扉へ歩み寄り、軽く叩いた。
乾いた音が、虚しく返るだけ。
返事はない。
アスベルは一歩下がり、しゃがみ込む。
右手を地面につけ、静かに呟いた。
アスベル「ソニックソナー」
低い振動が、地中へと広がっていく。
目を閉じ、反響を待つ。
アスベル(……やはりな)
城の地下には広い空間。
複数の区画、人らしきものが動いている。
アスベル(地下施設……か)
彼は立ち上がり、古城から距離を取った。
そのまま、森の奥へと身を隠した。
古城を見下ろせる地点で、再び地面に手をつく。
アスベル「アースクリエイト」
無音で、地面が崩れる。
人ひとりが通れる縦穴が、ゆっくりと開いた。
アスベル(正面から行く必要はない)
アスベル(……少しずつ、近づけばいい)
彼は、迷いなく地中へと身を沈めていった。
一方、その頃。
ランドバーグ公爵家の地下。
石造りの広間に、三人の女性が囲まれていた。
剣を抜いたミスティ。
背中合わせに立つアイミス。
二人の間に、シンシア。
ミスティ「ふざけるな……!」
怒気を孕んだ声。
ミスティ「それ以上近づくな。斬る」
男たちは距離を保ったまま、薄く笑っている。
その奥から、重い足音。
ガストン・ランドバーグ公爵が姿を現した。
ガストン「……伊達にあいつが選んだだけのことはあるか」
感情の欠片もない声。
次の瞬間、彼は詠唱すらせずに魔法を放った。
衝撃。
空気が爆ぜ、三人の身体が宙を舞う。
アイミス「……っ!」
シンシア「きゃっ……!」
床に叩きつけられ、息が詰まる。
ガストン「地下に監禁しろ」
淡々とした命令。
男たちの口元が歪む。
ガストン「手は出すなよ」
一瞬、視線だけを向ける。
ガストン「それは、アスタのものだ」
その言葉に、男たちは理解したように頷いた。
シンシアは床に伏したまま、必死に歯を食いしばる。
シンシア(……アスベル様)
地中を進むにつれ、空気が変わった。
湿り気や冷たさ。
そして人の声
アスベル「……ここか」
足を止める。
前方に、硬質な感触がある。石の壁だ。
アスベルは手のひらを当て、ゆっくりと魔力を流した。
アスベル「アースクリエイト」
音を立てぬよう、慎重に。
壁は削られ、拳一つ分の穴が開く。
さらに少しずつ、形を整える。
穴に身体を滑り込ませ、静かに着地する。
地下施設の一角。
松明の灯りが、長い通路を照らしていた。
アスベル(当たりだな……)
胸の奥が、ざわつく。
理由は分からない。
根拠もない。
アスベル(……妙な胸騒ぎがする)
彼は一度、深く息を吸い、思考を切り替えた。
アスベル(今は、仕事だ)
アスベルは影に身を溶かし、静かに、調査を開始した。
それが、取り返しのつかない分岐点になるとも知らずに。
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続きます。




