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悪徳貴族として酒池肉林を目指しているが、世間がうるさいので黙らせることにした  作者: ルピナス
領地編

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第37話「回復」

ランドバーグ公爵家の邸宅に、静かな報せが届いたのは夜明け前だった。

「――ご報告申し上げます」  侍従が膝をつく。

侍従「アスタ様の容態が、安定いたしました。回復と判断してよろしいかと」

 その言葉を聞いても、ガストン・ランドバーグ公爵の表情は変わらなかった。  

ただ、指先で机を軽く叩く音が止まる。

ガストン「そうか」

 それだけ。

喜びでも、安堵でもない。

“予定通り”という響きに近かった。

 ガストンは立ち上がる。

ガストン「シンシアを呼べ」

 ほどなくして、白衣に身を包んだシンシアが執務室に通された。  

連日の治療で目の下には薄く影が落ちている。

ガストン「ご苦労だったな」

珍しく、労いの言葉だった。

シンシア「いえ……私の役目を果たしたまでです」  

ガストン「下がってよい」  

即座に、用は終わった。

 シンシアが退出すると同時に、ガストンは別室へ向かった。

 アスタの部屋。

厚手のカーテン越しに、朝の光が差し込んでいる。

 ベッドに腰掛けていたアスタは、以前よりも顔色が良かった。

呼吸は安定し、視線にも力が戻っている。

アスタ「……父上」

ガストン「体はどうだ」

アスタ「もう、問題ありません」

 沈黙。

ガストンは、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

ガストン「復活の時だ」

 その一言で、部屋の空気が変わる。

アスタ「……」

視線を落とす。

アスタ「アスベルが……可哀想です」

 本音だった。 弟は、よく働いた。 面倒な役目を引き受け、結果を出し、泥を被った。

 だが、ガストンは即座に切り捨てる。

ガストン「感情は不要だ」

ガストン「お前は長男だ。家の“顔”だ」

ガストン「全てを、利用しろ」

 アスタの肩が、わずかに強張る。

ガストン「アスベルの知恵も、功績も、人望も」

ガストン「全て、お前のものだ」

 静かに、しかし確定事項のように告げる。

ガストン「あいつの“全て”を奪うんだ」

 アスタは、唇を噛んだ。

アスタ「……」

 返事はない。

 だが、否定もしない。

 ガストンは、それを了承と受け取った。

ガストン「手始めだ」

ガストン「あいつの家臣どもを、全員お前の家臣にする」

アスタ「……どうやって?」

 問いは、淡々としていた。

 もはや拒否ではない。

ガストン「三週間ほど、監禁する」

ガストン「その間に、お前が“教える”んだ」

 アスタは目を上げる。

アスタ「……教える?」

ガストン「最初から、アスベルなど存在しなかった」 ガストン「共にいたのは、ずっと“アスタ”だったとな」

 言葉が、刃のように落ちる。

ガストン「優しくしろ」

ガストン「怯えさせるな」

ガストン「感謝させろ」

 そして、最後に。

ガストン「信じ込ませろ」

 部屋に、重い沈黙が満ちる。

 アスタは、しばらく何も言わなかった。

やがて、静かに息を吐く。

アスタ「……分かりました」

 その声には、覚悟が混じっていた。

 あるいは、逃げ道を失った諦めか。

 ガストンは立ち上がる。

ガストン「よろしい」

ガストン「これで、ランドバーグ家は盤石だ」

 扉が閉まる。

 一人残されたアスタは、拳を握りしめた。

 脳裏に浮かぶのは、遠征に出た弟の背中。

何も知らず、掃除を続けているだろう姿。

アスタ(せめて…家臣だけでも守らなければ……)



ランスの街は、朝から霧に包まれていた。

 馬車は使わない。  

アスベルは徒歩で、街の中を歩いていた。

アスベル(……ここだな)

商人の家につく。商人らしからぬ仰々しい装飾

 想定通りに汚れている。

ドアをノックする。

男性がドア越しで話す。

男性「誰だ?」

アスベル「侯爵家のものだ」

アスベル(嘘は言っていない。自分は公爵家だ。)

ドアが開かれる。

奥から見るからに太った男が歩いてくる。

アスベル「お前がヤムーか」

ヤムー「いかにも、私がヤムー」

アスベルは溜息をつく。

アスベル「これについて、説明してもらおうか。」

その帳簿には、アスベルが調べた流された税金の流れ道が示されていた。

アスベル「お前…北の帝国と繋がっているだろ」

ヤムー「なんのことやら」

アスベルは一瞬、剣に手を掛ける。

アスベル(話す気はないな。)

そう判断してから、剣を突き立てた。

アスベル「いいか?俺はランドバーグ公爵家だ。」



 夜。  宿の外で、焚き火が燃えている。

 アスベルは一人、火を見つめていた。 揺れる炎。弾ける薪。

アスベル(……妙だな)

 一瞬だけ、胸の奥がざわつく。

 理由は分からない。  根拠もない。

 だが――

アスベル(気のせいだ)

 そう結論づけて、思考を切った。

読んで下さり、ありがとうございます。

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