第3話「王都への出立」
ランドバーグ公爵領は、王都の北を守る防衛の要である。
古くから外敵の侵入を防ぎ、軍と物資の中継点として機能してきた。
そのため、王都までの道のり馬車でも10日ほどかかる。しかも、安全とは言い難く、護衛を付けてなお油断できない距離だ。
出立の朝。
公爵邸の中庭には、既に馬車が用意されていた。
アスベル「随分と物々しいな」
アスベルは欠伸混じりに呟く。
兵士が十名。
騎士が二名。
過剰とも言える護衛だ。
ガストン「王都行きだ。当然だ」
そう答えたのは、父――ガストンだった。
その隣には、車椅子に座る兄アスタの姿がある。
外に出ること自体、久しぶりなのだろう。
顔色は相変わらず青白い。
アスタ「……気をつけて」
アスタが咳をしながら話す。
アスタ「無茶はしないでくれ」
アスベルは一瞬だけ、真面目な顔をした。
アスベル「無茶はしないさ」
そして、すぐに口角を上げる。
(だが、悪さをしないとは言っていない。)
アスベル「父上」
アスベルはガストンに向き直る。
アスベル「俺は“兄として”振る舞えばいいんですよね?」
ガストン「そうだ」
ガストンは即答した。
ガストン「余計なことはするな」
アスベル「努力します」
口だけは、いくらでも誠実にできる。
アスタが小さく苦笑した。
アスタ「……頼んだよ、アスベル」
アスベル「任せろ」
アスベルは兄の肩に手を置く。
アスベル「兄さんが寝てる間に、俺が名声を稼いでおく」
アスタ「それは……少し困るな」
アスベル「じゃあ、早く治せ」
軽口。
だが、その奥には確かな本音があった。
出立の合図がかかる。
御者が手綱を取り、馬が嘶いた。
アスベルは馬車に乗り込む前、ふと振り返る。
アスベル「安心しろ、父上」
笑みを浮かべて言った。
アスベル「ランドバーグの名は、俺が一番派手に使ってやる」
ガストンは何も言わなかった。
だが、その沈黙が――了承であることを、アスベルは知っていた。
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騎士「敵襲だ!」
護衛の騎士が叫ぶ。
アスベルは馬車の中で舌打ちした。
アスベル「……遠回りになるな」
外に出ると、山賊が三人。
剣を抜く気にもならない。
騎士「アスタ様!お下がりください。」
アスベル
(アスタ?ああ、俺のことか)
山賊「貴族様だ!生かして捕らえろ!」
3人の山賊が一斉にアスベルに迫る。
アスベル
(遅いなぁ)
アスベルはポケットに手を突っ込んだまま、山賊の攻撃を交わす。
そして、指1本を出し、
アスベル「ライトニング」
次の瞬間、魔法が炸裂した。
悲鳴が上がり、野盗は地面に転がる。
騎士「動くな!」
護衛の騎士達は、山賊達を捕まえる。
アスベル「縛って置いていけ」
アスベル「王都へ着く頃には、誰か拾うだろ」
馬車に戻りながら、アスベルは思う。
(役に立たない護衛。でも、盾にはなるな)
馬車が動き出す。
王都へ。
学園へ。
そして――
(ここからが、本番だ)
影武者として。
悪徳貴族として。
アスベル・ランドバーグは、自分の舞台へと歩みだした。
読んでいただきありがとうございます。
次話から、舞台は学園へ移ります。




