第24話「始動」
パルティア大聖堂を後にし、三人は宿へ戻った。
白い街並みを抜け、扉を閉めた瞬間
張りつめていた空気が、ようやく緩む。
アスベルは部屋に入るなり、ソファへどかっと身を投げ出した。
アスベル「……疲れた」
天井を仰いだまま、率直な一言。
アイミス「色んなところを回りましたからね……」
ミスティ「全くだ。あのシンシア司祭、やたらと世話焼きだったな」
その瞬間だった。
――パチン。
乾いた音とともに、空気が震える。
部屋の四隅に淡い光が走り、透明な膜が張られた。
アイミス「……え?」
ミスティ「結界?」
二人が即座に身構える。
アスベルはソファに座り直し、足を組んだ。
アスベル「今、この部屋にいる人間以外は全員、敵だからだ」
重く、静かな断定。
部屋が、しんと静まり返る。
ミスティ「……随分、物騒だな」
アイミス「で、でも……聖王国ですし……」
アイミスの言葉に、アスベルは鼻で笑った。
アスベル「違う」
低い声。
アスベル「ここは“聖王国”じゃない」
アスベル「ナハト教の国だ」
言葉が、ゆっくりと沈んでいく。
アスベル「今日一日で分かった」
アスベル「この国じゃ、法律も王も関係ない」
アスベル「教皇が“白”と言えば白、“黒”と言えば黒だ」
ミスティ「……つまり」
アスベル「滑稽だよな」
沈黙。
外から、かすかに鐘の音が聞こえる。
アスベル「兄さんの呪いを解くには、“浄化”が必要だ」
アスベル「しかも、出張で」
アイミス「……なら寄付金をどうにかしないといけませんね」
迷いのない、素直な意見。
アスベルは、その言葉を待っていたかのように口角を上げた。
アスベル「俺は、寄付金を銅貨1枚でも出すつもりはない」
ミスティは呆れる。
ミスティ「……不可能だろ」
即答だった。
ミスティ「奇跡は金で買う。それが、ここのやり方だ」
アスベルは、声を立てて笑った。
アスベル「はは……だからだよ」
立ち上がる。
アスベル「あいつらにとって奇跡は“商品”だ。」
振り返る。
アスベル「商品の価値を下げればいい」
アイミスが、息を呑む。
アイミス「まさか……」
ミスティ「お前……」
アスベルの目が、静かに細くなる。
アスベル「寄付はしない」
アスベル「寄付しなくても良い状況を作る」
結界の中で、空気がひりつく。
アスベル「信仰がこの国を支配しているなら」
アスベル「その“信仰”そのものが正しいかを揺さぶるだけさ」
ゆっくりと、笑う。
アスベル「さあ……」
アスベル「始めようか」
聖王国クリアリース。
神を名乗る者たちの国で――
人間の策略が、静かに動き出した。
読んで下さり、ありがとうございます
暗躍、開始




