第21話「宗教国家」
馬車は、西へ向かって揺れていた。
舗装された王国の街道はいつしか土の道へ変わり、風景は乾いた荒野へと移ろう。
アスベル「……長い。腰が痛い。」
頬杖をつき、気の抜けた声を漏らす。
ミスティ「お前、学園にいた頃とは別人だな」
ミスティ「首席様はどこへ行った」
アスベル「そりゃあ……」
アスベル「ずっと“模範生”を演じてたからな」
肩をすくめる。
アイミス「ある意味すごいですね、その切り替え」
アイミス「ここまで落差があると、逆に尊敬します」
アスベル「二面性のある男はモテるんだぞ?」
ミスティ「知らん」
アスベル「はぁ……」
アスベル(あぁー早く着いて欲しい)
馬車は止まることなく進み続ける。
王国を離れ、国境を越え、宗教国家の領域へ
アイミス「……アスベル様!」
窓の外を指さす。
アイミス「見えてきました!」
視線の先。
丘の向こうに広がる白い街。
聖王国クリアリース。
創造神ナハトを主神とするナハト教の総本山。
信仰によって築かれた街は、どこか無機質で、整いすぎている。
街の中心には、天を突くようにそびえる巨大な建造物。 パルディア大聖堂。
アスベル(……あそこか)
アスベル(浄化の術は、必ずあそこにある)
アスベルの表情が、自然と引き締まる。
ミスティ(顔付きが変わったな)
馬車は、聖王国の正門前で止まった。
門の両脇には、フードを深く被った信者たちが並んでいる。
アスベルは、馬車を降りる前に二人を呼び寄せる。
アスベル「いいか」
低い声
アスベル「ここから先、ランドバーグ公爵家の名は出すな」
アイミス「……え?」
ミスティ「身分を隠すのか?」
アスベル「俺たちは“信心深い冒険者”だ」
アスベル「神の力を信じ、信者になるべく来た。」 視線を巡らせる。
アイミス「でも……公爵家の名前を出せば、話は早く……」
アスベル「じゃあ、ランドバーグ公爵家の名前を出して浄化してほしいと言えばどうなる?」
ミスティ「法外な値段をふっかけられる。また、貸しを作る。」
アスベル「その通りだ。」
きっぱりと言い切る。
アスベル「宗教は信仰だ。信仰は人を狂わせる。」
アスベル「ランドバーグ公爵家はナハト教を否定したという噂を流されてみろ」
アイミスとミスティはゾッとした。
ミスティ「……了解した」
アイミス「……分かりました」
門をくぐる。 空気が変わる。
祈りの声。 鈴の音。 香の匂い。
誰もが同じ方向を向き、同じ神を信じている街。 そこには、王国とは別の“秩序”があった。
アスベル(規則だけでは動かない)
アスベル(信じるものが全てだ。)
アスベルは、無意識に口角を上げる。
アスベル(……面倒だな)
アスベル(さて、どう崩そうか)
こうして三人は、
“神の国”へと足を踏み入れた。
読んで下さり、ありがとうございます。
信じるものは救われるって怖いですね。




