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悪徳貴族として酒池肉林を目指しているが、世間がうるさいので黙らせることにした  作者: ルピナス
聖王国編

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20/30

第20話「正体」

重厚な扉の前で、アスベルは一度だけ呼吸を整えた。

 ランドバーグ公爵家当主執務室。

 幼い頃から何度も足を運んだ場所だが、今日は空気が違う。

 影武者としての役目を終えた、最初の呼び出し。

ガストン「入れ」

 低く、よく通る声。

 アスベルは扉を開き、室内へ足を踏み入れた。

 書斎には、ガストン・ランドバーグ公爵が立っていた。

 机には向かわず、窓辺に立ち、領地を見下ろしている。

アスベル「お呼びでしょうか、父上」

 形式通りの声。

 ガストンは振り返らないまま、口を開いた。

ガストン「……よく戻ったな」


ガストン「三年間、ご苦労だった」

 それだけの言葉。

 だが、その重みは十分だった。

 アスベルは即座に片膝をつく。

アスベル「身に余るお言葉です」

 ガストンは、ゆっくりと振り返った。

ガストン「影武者という役目は、誰にでも務まるものではない」

ガストン「名を奪われ、功を譲り、恨みも買う」

ガストン「それでも、お前はやり切った」

 短く、息を吐く。

ガストン「誇りに思う」

 アスベルの胸に、わずかな熱が走る。

アスベル「……ありがとうございます」

 だが、父の表情はすぐに引き締まった。

ガストン「だが…」

ガストン「今すぐ、やってもらいたいことがある」

 アスベル(来たな…)

アスベル「……なんでしょう」

 ガストンは再び窓へ視線を戻す。

ガストン「アスタについてだ」

 その一言で、すべてを察する。

 アスベルは、間を置かずに口を開いた。

アスベル「……呪い、ですか?」

 わずかに、ガストンの肩が揺れた。

ガストン「勘づいていたか」

アスベル「病気にしては、症状が不自然すぎます」

アスベル「周期、反応、回復の兆し……どれも一致しない」

ガストン「その通りだ」

 ガストンは、窓の外――領地の奥を見つめながら続ける。

ガストン「アスタは病気ではない」

ガストン「何者かによって、呪われている」

 静かな断定。

 アスベルは、拳を強く握った。

アスベル「……その首謀者を、私が探すのですか?」

 ガストンは、首を横に振る。

ガストン「違う」

 短く、だが明確に。

ガストン「首謀者は、すでに分かっている。これは私の問題だ。」

 アスベルの目が、わずかに細くなる。

アスベル「……では」

 ガストンは、ゆっくりとアスベルの方を向いた。

ガストン「お前には、行ってもらいたい場所がある」

 一拍。

ガストン「聖王国クリアリースだ」

 その名を聞いた瞬間、空気が変わった。

アスベル(聖王国……)

 宗教、聖騎士、浄化。

 呪いに関わるすべてが、そこに集まる国。

ガストン「アスタの呪いを解くには、あそこしかない」

 鋭い視線。

ガストン「表立って動けば、敵に察知される」

ガストン「だから、お前しか動けん」

 影武者。

 裏で動き、名を残さず、結果だけを持ち帰る存在。

 アスベルは、静かに頷いた。

アスベル「……承知しました」

ガストン「今回ばかりは、学園での遊戯とは違う」

アスベル「分かっています」

アスベル(アスベルとして動けそうだな)

 ガストンは、最後に一言だけ告げた。

ガストン「これは、ランドバーグ家の存亡に関わる」

ガストン「結果が全てだ」

 アスベルは立ち上がり、深く一礼した。

アスベル「最大の結果を持ち帰ります」

 書斎を出る。

 扉が閉まった瞬間、アスベルは小さく息を吐いた。

アスベル(学園は終わった)

アスベル(次は聖王国か)


執務室を出たあと、アスベルはそのまま使用人棟へ向かった。

 廊下の先。

 割り当てた部屋の前で、アイミスとミスティが言葉を交わしている。

 アスベルが足を止める。

アスベル「二人とも」

 振り返る。

アイミス「あ、アスベル様」

ミスティ「……話がある顔だな」

 短い沈黙。

 アスベルは、包み隠さず切り出した。

アスベル「聖王国に行くことになった」

 空気が、ぴんと張る。

アイミス「……聖王国、ですか?」

ミスティ「随分、急だな」

アスベル「兄の件だ」

アスベル「危険な旅になる」

アスベルは躊躇いながらも言う。

アスベル「ついてきてくれるか?」

 一瞬、視線が交差する。

 アイミスとミスティは顔を見合わせ、

 ほんのわずかな沈黙のあと――

アイミス「……ついていきます」

 迷いのない声だった。

アスベル「即答だな」

アイミス「助けてもらってばかりでしたから」

アイミス「今度は、私が役に立ちたいです」

 ミスティは腕を組み、少しだけ眉を寄せる。

ミスティ「……一つ聞く」

アスベル「なんだ?」

ミスティ「私達はなんだ?」

 その問いに、アスベルはわずかに口角を上げた。

アスベル「当然」

 一拍。

アスベル「友達だし、家臣だ。」

 ミスティは、鼻で笑った。

ミスティ「ならいい。護衛は任しておけ」

 アイミスが、少し困ったように笑う。

アイミス「……ミスティ、素直じゃないですね」

ミスティ「うるさい」

 アスベルは二人を見て、短く頷いた。

アスベル「決まりだな」

 聖王国。

 呪い。

 王国の裏側。

 学園とは比べ物にならない世界が待っている。

アスベル(宗教が絡む…難しいが……)

 だが――

アスベル(だからこそ、面白い)

 三人は、それぞれの覚悟を胸に、静かに歩き出した。

読んで下さり、ありがとうございます。

次は、聖王国編です。

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