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悪徳貴族として酒池肉林を目指しているが、世間がうるさいので黙らせることにした  作者: ルピナス
学園編

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18/30

第18話「卒業」

春の光が、レンブラント学園の中庭を満たしていた。

 白い石畳に落ちる影は短く、空はどこまでも澄んでいる。

 卒業式――

 それは、学園にとっての終わりであり、学生にとっては始まりの場でもあった。

 講堂には、正装した卒業生たちが整然と並んでいる。

 貴族も、平民も、肩書きを脱ぎ捨てた顔だ。

 壇上。

 名を呼ばれ、ひとりずつ証書を受け取っていく。

 そして――最後。

「首席卒業生、アスタ・ランドバーグ」

 ざわめきは起きない。

 それは、当然の結果だった。

 アスベルは静かに立ち上がり、壇上へと歩く。

 背筋は伸び、足取りに迷いはない。

 証書を受け取り、一礼。

 そして、そのまま壇上に残る。

司会「卒業生代表答辞、アスタ・ランドバーグ」

 講堂が、完全に静まった。

アスベルは校長先生に一礼し、壇上に立つ。

アスベル「在学中、我々は多くを学びました」

 淡々とした声。

アスベル「剣と魔法。知識と規則」

アスベル「そして――人と関わりです」

 一拍、間を置く。

アスベル「身分は、ここでは意味を持ちません。文化祭が示したように、越えられるものです」

アスベル「この結果を生み出せたのは、行動したからです」

 アイミスは、胸の前で手を組む。

 ミスティは、目を伏せたまま、静かに聞いている。

アスベル「我々は、同じ場所で競い、時に衝突し、時に協力しました」

アスベル「それは、決して綺麗な過程ではなかった」

 視線が、講堂をなぞる。

アスベル「ですが」

アスベル「この学園で得たものは、確かに次へ繋がる。豊かな未来へと」

 最後に、深く一礼。

アスベル「レンブラント学園に、感謝を」

 拍手。

 派手ではないが、揃った音。

 それで十分だった。

 式が終わり、講堂の外。

 卒業生たちは、それぞれの道へ散っていく。

「お疲れ様、首席」

「さすがだったな」

 声をかけられ、軽く返す。

 引き止めない。

 もう、役目は終わっている。


 学園の奥。

 校舎の影で、レイアが腕を組んで待っていた。

レイア「見事だったわ」

 微笑み。

 教師でも、校長でもない、ひとりの大人の顔。

レイア「学園を、綺麗に使ったわね」

アスベル「使ったつもりはありません」

レイア「ふふ……そう言うところよ」

 一歩、距離を詰める。

レイア「ねぇ」

レイア「私と組まない?」

 冗談のようで、冗談ではない声。

アスベル「……やることがありますので」

 即答だった。

 レイアは、少しだけ目を細める。

レイア「そう」

レイア「でも、覚えておきなさい」

 背を向けながら、言う。

レイア「今の立場が変わる時があれば」

レイア「いつでも来なさい」

 振り返らない。

アスベル(まあ、そんな日は来ないだろう)


 正門前。

 アイミスとミスティが、並んで立っていた。

アイミス「……おめでとうございます、アスタ様」

ミスティ「卒業だな」

アスベル「二人とも、これからどうするつもりだ?」

 問いは、静かだった。

 アイミスは一瞬迷い、

 ミスティは即座に答えた。

ミスティ「私は、あなたに仕えたい」

 迷いはない。

アイミス「……わ、私もです」

 震えながらも、目は真っ直ぐ。

アスベルは、二人を見比べる。


アスベル「俺は容赦しない」

ミスティ「承知しています」

アイミス「……逃げません」

 短く息を吐き、頷いた。

アスベル「なら、家臣として迎えよう」

 二人の表情が、わずかに和らぐ。

 馬車が、門の外で待っていた。

 ランドバーグ家の紋章。

 振り返る。

 学園。

 箱庭。

 役割を終えた舞台。

アスベル(さあ、影武者も終わりだ。)

 馬車に乗り込み、扉が閉まる。

 車輪が回り始める。

 こうして――

 アスベル・ランドバーグの学園編は、幕を下ろした。



馬車がゆっくりと動き出す。

 石畳を離れる音が、次第に遠ざかっていく。

 その背を、学園の正門から見送る影がひとつあった。

 レイア・フィールド。

 風に揺れる髪を押さえながら、誰に聞かせるでもなく呟く。

レイア「……やっぱり、いい男になったわね」

 その声には、

 校長としての評価でも、

 王女としての計算でもない

 大人の女性としての、素直な感想が滲んでいた。

 やがて、馬車は角を曲がり、完全に見えなくなる。

レイア「さて……」

 微笑みを浮かべ、踵を返す。

レイア「次に会う時は、どんな顔をしているのかしら」

 その答えを知るのは、まだ先の話だった。

読んで下さり、ありがとうございます。

学園編は終わり、物語は次の段階へ進みます。

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