第13話「溝」
アスベルが調停委員会を掌握して、三年が経った。十八歳になり世間的にはもう大人だ。
学園生活も残りわずかとなっていた。
アスベル(……もう最後の年か)
新たに設けられた調停委員会の部屋。
以前の空き教室のような会議室ではなくなっていた。
アスベルの作る規則と秩序が、形として評価されたのだ。
アイミス「委員長、こちらが今月分の嘆願書です」
紙の山が机に積まれる。
アスベル「相変わらず多いな」
ミスティ「サボっているからです。考えを改めてください」
アスベル「机に座ってるだけでは、わからないことも多いからな」
ミスティ「…30分後に校長先生の面談です。お急ぎください。」
アスベル(さっさと、終わらせるか)
アスベルは椅子に座り直して、嘆願書を見始める。
アスベル「却下、修正採用、これは全面採用……」
淡々と処理される嘆願。
アイミスはすべてを書き留め、無言で頷く。
20分後…
アスベル「終わり」
机の上は、綺麗さっぱり空になった。
ミスティ「最初からこうしていればいいのに」
アスベル「休みながらやるのが、長く続ける秘訣さ」
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その後、アスベルは学園最奥の扉の前に立っていた。
アスベル(校長先生……滅多に人前に出ないのに呼び出しとは?)
ノックをする。
レイア「どうぞ」
扉を開けた瞬間、空気が変わった。
すらりとした長身。
落ち着いた立ち姿。
年齢を感じさせない、知的な雰囲気。
レイア「ようこそ、アスタ・ランドバーグ……」
一拍。
レイア「――いえ、アスベル・ランドバーグ」
その名を呼ばれた瞬間、アスベルの目がわずかに見開かれる。
アスベル「……名前間違ってますよ」
レイアがフフっと笑う。
レイア「まだ若いわね。その反応だとアスタだと言うのが違うって認めてるようなものよ。」
穏やかに微笑む。
レイア「私はレイア・フィールド。レンブラント学園の校長よ」
椅子を示され、向かい合って座る。
アスベル「……いつから、ご存じで?」
レイア「入学時点から」
即答。
レイア「ランドバーグ家は昔から目をつけててね」
レイア「でも――」
視線が鋭くなる。
レイア「学園を変えたのは、あなた自身。正直、些細なことね」
沈黙。
アスベル(……油断していたな)
レイア「安心して。私は誰にも言わない」
レイア「立場より、行動を見る主義なの」
「座って」と言うように目の前のソファを勧められる。
アスベルは応じるようにレイア校長と向かい合って座った。
レイア「調停委員会、よくやっているわ」
レイア「規則は守られ、衝突は減った」
レイア「けれど――」
レイアは足を組む
レイア「“溝”は残っている」
アスベル「……ええ」
レイア「規則で縛っているだけ。感情までは従わない」
アスベルは小さく頷いた。
アスベル(何が狙いだ?)
レイア「そう、警戒しないで」
レイアはニコニコして立ち上がる。
満足そうな表情。
レイア「期待しているわ。あなたが、何をするのか」
アスベル(この人は味方なのか?)
アスベル「この溝を無くす一つの方策があります。」
レイア「聞かせてもらっていい?」
アスベル「詳細は今後。私は」
アスベル(校長先生も利用させてもらう)
アスベル「私は、文化祭を開きたいと思います。」
レイアはキョトンとするが、ニヤリも笑う。
レイア「いいわね!どうせなら、王族も読んで盛大に致しましょう。」
アスベル(こっちの思惑をたった一言で見抜かれたか)
面談はそれで終わった。
立ち上がり、扉へ向かうアスベルの背に――
レイア「あなた…」
呼び止める声。
レイア「まあいいわ。頼りなさいよ」
振り返ると、レイアはすでに窓際に立っていた。
レイア「味方は、多いほうがいいでしょう?」
柔らかな笑み。
扉が閉まる。
廊下を歩きながら、アスベルは小さく息を吐いた。
アスベル(……いい匂いがした)
すぐに思考を切り替える。
アスベル(溝は、確かに残っている)
アスベル(なら――次は“掃除”だ)
規則の次は、感情。
舞台は、すでに頭の中にあった。
読んで下さり、ありがとうございます。
年上の女性って、いいですよね。




