第12話「調停委員会」
翌日。
レンブラント学園・旧会議棟。
普段は使われないその一室に、数十名の生徒が集められていた。
貴族、平民、入り混じっているが――座る位置ははっきり分かれている。
前列中央。
ひときわ大きな椅子に、コルド・ヴァレンシュタインが座っていた。
コルド「静粛に」
腹を撫でながら、ゆったりとした声で告げる。
コルド「これより、調停委員会を開会する」
コルド「身分の違いによるトラブルは、学園の秩序を乱す」
コルド「よって――私が委員長として、公平な裁定を下そう」
貴族側から、拍手が起こる。
控えめながらも、露骨な賛同。
平民側は、沈黙していた。
ミスティ(……公平?)
アイミス(…始まってしまった)
アイミス達はアスベルにまだ会えていなかった。
昨日の廊下での騒動。
服を汚しただ、ぶつかっただ――
原因は些細なものだった。
だが、裁く者が誰かで、結果は変わる。
コルドは満足そうに頷き、続ける。
コルド「では、昨日の件から始めよう」
コルド「被害者は、貴族のマルセル君。加害者は平民のスルト」
呼ばれた貴族の少年が、胸を張って前に出る。
マルセル「平民が不注意でぶつかってきました」
マルセル「制服が汚れました。弁償を求めます」
視線が、反対側に移る。
スルト「……俺は悪くない」
スルト「向こうが急に――」
コルド「発言は許可していない」
ぴしゃり。
コルド「順序というものがある」
コルド「君たち平民は、感情で話しすぎだ」
貴族側から、くすくすと笑い声。
アイミスの指が、ぎゅっと握られる。
ミスティが一歩踏み出しかけ――
その瞬間、会議場のドアが開く。
アスベル「異議があります」
一斉に視線が集まる。
アスベル・ランドバーグ。
首席。
Aクラスの象徴。
コルドは、一瞬だけ眉を動かした。
コルド「……何かな、アスタ君」
アスベル「調停とは、事実確認が前提のはずです」
アスベル「片方の言い分だけで進めるのは、規則違反では?」
静かだが、明確な指摘。
コルドは笑みを崩さない。
コルド「規則? もちろん把握している」
コルド「だが、身分の違いを考慮するのも、調停だよ」
アスベル「なるほど」
一歩前に出る。
アスベル「では確認します」
アスベル「この学園の校則第十二条」
アスベル「“生徒間の裁定は、出自・家柄を理由としてはならない”」
ざわり、と空気が揺れた。
コルド「……細かいことを」
アスベル「細かい? いいえ」
アスベル「それが“規則”です」
間。
アスベル「調停委員会が、規則を無視するなら」
アスベル「それは裁定ではなく、私刑です」
はっきりと言い切った。
貴族側がざわつく。
平民側の顔が、わずかに上がる。
コルド「君は……私に楯突く気か?」
アスベル「いいえ」
にこやかに。
アスベル「公平こそが学園の理念ですから」
机の上に、紙束を置く。
アスベル「昨日の件。現場にいた生徒、全員の証言」 アスベル「位置関係、通路幅、時間帯」
アスベル「全て、整理しました」
どよめき。
アイミス(いつの間に…)
コルド「……なぜ、そんなものを?」
アスベル「調停委員会が開かれると聞いて」
アスベル「当然かと思いますが?」
事実だけを並べる。
アスベル「状況としては、ぶつかったのは曲がり角」
アスベル「マルセルは後ろを向きながら走っていた。スルトは曲がり角で相手が見えなかった。」
アスベル「よって、故意はなく」
アスベル「賠償を課す合理的理由はありません」
沈黙。
コルドの笑みが、わずかに歪んだ。
調停委員長たる自分を差し置いて議論が進むことに
コルド「静粛に!!」
コルド「邪魔をしないでもらいたい。」
アスベル「失礼しました。」
コルド「それでは、採決にはいる。スルトが賠償すべきだと思うものは挙手せよ。」
誰も手をあげなかった。
コルド「………賠償責任はなしとする!」
コルドは不服そうに採決した。
アスベル「調停委員長」
その一言が、刺さった。
コルド「なんだ?まだ何かあるのか?」
アスベル「調停委員長はこれからもあなたがされるのですか?」
コルドは溜息をつく。
コルド「調停委員会は、私が設立した」
コルド「今後も、私が――」
アスベル「それも、規則にありません」
静かな声。
アスベル「委員長は、生徒の選挙で決めるべきとここに明確に書かれています。」
アスベル「今回はただ、誰も居なかったからあなたが臨時で実施しだけだ。」
会場が静かになる。
アスベル「しかし、調停委員会は学園の理念を達成するには必要だ。」
コルド「………」
アスベル「どうだろう?今、ここで選挙をしてみては?」
コルドはイライラした口調で吐き捨てる。
コルド「私は反対だ!」
「卑怯者!」
「規則を守れ!」
傍聴席からヤジが飛ぶ
コルドは救いを求めて教員席の方を見る。
――サイト・マークスマンが、腕を組んでいた。
サイト「……規則通りだ」
短く、それだけ。
その瞬間。
空気が決定的に傾いた。
投票は、すぐに行われた。
結果は、言うまでもない。
会議室の前。
アイミス「……アスタ様」
ミスティ「あの人はやはり住む世界が違う」
まもなく閉廷し、会場から人が出ていっていた。
会議場の中央で、コルドが拳を握り締めていた。
コルド(……奪われた)
コルド(委員会も、流れも……!)
アスベルは、その様子を一瞥し――
心の中で、淡々と結論を出す。
アスベル(第一段階、完了)
アスベル(次は“制度”そのものを、俺の形にする)
調停委員会は、
この日を境に、名実ともに“別物”になった。
――そして、それは
学園の力関係が書き換えられた瞬間でもあった。
読んで頂きありがとうございます。
規則を使える人は強いですよね




