9話 暇つぶし
ひび割れた大地を三人の人間が歩いている。
タイム、アイリス、タケの三人組である。
「あとどのくらい歩けばいいんだ?」
タイムが先頭を歩きながら、アイリスに尋ねる。
「あと一日くらい歩けば青々とした森が見えてくるはずだよ」
タイムはそれを聞いて途方に暮れる。
もうすでに三人が町を出発してから三日が経った。
その間、常に歩き続けている。
道中、怪鳥を狩りながらジグザグと寄り道をしたりもしたが、それを差し引いてもかなりの距離だ。
流石にタイムは、暇になってきていた。
ほとんど変わらぬ景色、見かけなくなった魔物。
「タケ、何か面白い話とかない?」
タイムは、タケに話を振った。
タケは急に話を振られ、慌てる。
「えー、それでは、僕が食べた物の中で最も美味しかった物の話しを」
「それじゃあ、童話でも話そう」
タケが話し出そうとするとアイリスが主導権を奪う。
タケは肩を落とした。
「童話か…………どんな話だ?」
タイムは童心を取り戻したように興味を持つ。
「そうだね~。まずは、一番有名なお話にしようかな。多分、タケは知ってるんじゃないかな?」
タケはその言葉を聞いて、一つの昔話を思い出す。
「あ~多分、これだっていうの思い出しました」
そのお話は、この大陸。
否、この世界の大半の者が知る話。
今よりずっと昔の実話。
人類の歴史に残るような起点。
「それじゃあ、話すよ」
◇
昔~、昔~、ある地にそれは、存在していました。
それは、場所の地名でも、建造物の名称でも、物体の名前でもありません。
それは、恐怖の象徴であり、諸悪の根源であり、平和を崩す絶望そのもの。
その者の名は、魔王。
魔族を統べて人類へ敵対する化け物である。
魔王は、その力を各地に振るい。
村を、町を、首都を、時には国や土地を侵略し滅ぼす。
悪意の塊。
悪魔以上に悪魔。
そう呼ばれ、恐れられていた。
人は思った。
いつまでこの悪夢のような現実は続くのかと。
それは、個人の思いを越え、集団の意思となり、果てには国家の祈りに変わっていった。
だが、そんな地獄はある日、突然終わりを迎える。
その事件は、最初に魔王城の消失から始まった。
原因、原理、手段、何もかもが不明な大規模の爆発によって魔王城は、消し飛んだ。
後に判明するが、異変の前兆は存在した。
爆発の数時間前から魔族たちが魔王城に背を向け一目散に逃げ惑うという奇妙な事件があった。
捕獲された魔族の兵を尋問すると出て来た言葉に共通の内容があった。
「勇者が! 勇者が現れた!」
勇者。
各国が英雄などを調べ上げたが、それらしい人物は見つからなかった。
だが、魔族たちの必死の言葉。
魔王城の現実を加味され人々はこう結論付けた。
名も無き勇者が魔王をその身と共に倒した、と。
それから月日が流れ、魔王を知らない者たちの時代になろうとも平和への畏怖としてこの話は語り継がれている。
勇者伝説~完~
◇
「と言う話だよ」
アイリスが話し終える。
タケは周知の事実としてうなづいている。
タイムは、初見としてうなづいた。
「タイム、この童話とかも覚えてないの?」
アイリスは質問する。
「あぁ、全く聞いたことがない話だ」
タイムは必死にひねり出すようにして記憶を探すが、水を含んでいない雑巾から水を絞り出すことができないのと同様にタイムの頭の中に、この話は存在しなかった。
「そうですか、有名な話なので、本当に忘れているんでしょうね」
タケが言う。
「さて、それじゃあ、次のお話でも話そうか!」
アイリスが当然のように言い放つ。
「え? 二回目があるんですか?」
タケは驚き、聞く。
「そりゃあそうでしょ。だって私、話し始めるときに、まずは、って言ったでしょ?」
タケは思い返す。
確かに言っていたと。
「次は、『時計のフクロウさん』にしようかな? それとも『完食スライム』? 『ほうきおじいさん』でもいいかもね」
「ちょっと待ってください。このまま子供向けの童話を話すんですか? あと最後のは、何ですか! そんな童話、聞いたことがないですよ」
「え? 知らない? ほうき一本でどんな汚れも掃除する『ほうきおじいさん』?」
「すごいですね、そのお爺さんは!」
タケはツッコみ疲れ、アイリスは次々と童話を語った。
タイムは、記憶を取り戻す手掛かりになるかと思い、耳を傾けた。
◇
「めでたし~めでたし~」
アイリスが童話を締めくくる。
すでに語った童話の数は二桁に入っている。
そしてその語り、聞いている時間も歩いて移動していたため、地平線から緑色の草木がチラリと覗いている。
「もしかしてあれが言ってた…………」
「そうだよ。あれが目指してた森だよ」
タイムが質問を言い切る前にアイリスが答えた。
三人は一直線に森へ向かう。
だが、踏み入りはしなかった。
何故なら、もう夜になるからだ。
三人は、森を目の前にして野営の準備を始めた。
タケがテントや簡易的な机、寝袋、食事に必要な食器などなどを『盗人庫』から取り出す。
「まるで馬車でも持ってる気分になるね~」
「移動ができれば本当に馬車替わりになるな」
その光景を見て、アイリスとタイムが言う。
すぐにタケに怒られそうになり、夕食の準備を始める。
作られた料理は、簡単に調理されたスープと干し肉、それに主食としてパン、これらはここ数日のタイムたちの食事だ。
次の日の朝も似たような物だろう。
三人は出来上がった夕食を食べる。
毎日同じメニューなので料理についての会話はない。
皆が無言でスープを飲み、干し肉を咀嚼し、パンをかじる。
食べ終えると片付けをして就寝の準備を始める。
就寝の準備と言っても、それと言った動作はなく、精々タイムが装備を外すくらいだ。
三人は、そのまま明日に備え眠りについた。
◇
三人は、起きるとすぐに朝食を食べ、野営を撤収し、準備を整えて森へ突入する。
森に足を踏み入れ、数歩進むと草の影から三体の狼の魔物が飛び出してきて、三人を襲った。
「初めて見る魔物だな………………」
タイムはそう呟くと剣を腰から抜いた。
それと同時に狼たちは、跳びかかる。
タイムは剣を横向きに弧を描くようにして振るい、狼たちを後退させる。
タイムは、『勇気の形』で強化された脚の瞬発力を発揮し、接近。
狼たちは逃れようと分散するが、タイムがすかさず一体を斬りつける。
斬られた個体は、血しぶきをまき散らし、倒れる。
残り二体は、連携をとり、一体がタイムに襲いかかり、もう一体はアイリスとタケに襲いかかった。
だが、タイムは焦ることなく、剣を構える。
身体強化を脚に集中させ、地を削る勢いで踏み込む。
そして一直線に剣を走らせ、その直線上にいた狼の魔物を一筋で斬り捨てた。
「おぉー!」
アイリスが関心したように声を上げる。
タケは、眼前の光景に驚いて声が出ていないようだ。
タイムは、剣に付着した血を振って飛ばし、鞘に納める。
「それじゃあ、解体するか」
タイムが何事もないように言う。
タイムは、タケにいつものようにナイフを受けとる手を出す。
タケは、その手にナイフを渡す。
ナイフを動かし、解体を進める。
毛皮、肉、内臓、骨と分けていく。
それらをタケが【盗人】を使い収納する。
「この肉は、食べましょうか」
タケが肉の一部を分けて提案する。
「それなら任せて」
アイリスが前に乗り出して、魔法を使い、肉を焼く。
そんなこんなで三人は解体を終え、先に進んだ。
だが、数分すると同じ狼の魔物に遭遇し、戦闘になった。
◇
「「「流石にうっとうしい!!」」」
三人が同時に嘆く。
森に立ち入ってからかれこれ一時間、それまでに数十回狼の魔物の奇襲に遭っている。
四回目くらいからか、解体するのも億劫になり、放置している。
今のところは、誰も負傷していないがこのまま続けば、誰かが怪我を負うだろう。
三人は全進する。
タイムは剣を鞘に納めず、タケはナイフを手に持っている。
二人とも一々収納するのが面倒になったのだ。
三人が少し歩くと、木々の生えていない広場のような場所に到着した。
三人はその広場を見回す。
そこには特に何もなく、先ほどの狼の魔物の主であろう巨大な狼の魔物が一匹おり、一人の人間がその魔物と戦闘しているだけだった。
「「よかった一匹だけだ」」
タイムとアイリスが安心して言う。
「お二人とも! 目を覚ましてください! 一匹と言っても明らかに上位の個体です!」
タケが二人に言う。
その言葉に二人は少しだけ正気を取り戻す。
「あの人は、冒険者か?」
「多分?」
「助けた方がいいよな?」
「まぁ、そうですね………………」
そのやり取りをすると、タイムは剣を抜く。
「タイム、魔法で援護するよ」
アイリスはそう言って、いつでも魔法を発動できるように構える。
背後で戦闘向きではないタケが立ち尽くしている。
「じゃあ、行ってくる」
タイムは魔物へ向けて駆け出す。
そして剣を振るう。
剣が毛皮に防がれる。
タイムは急いで剣を引いて、後退する。
「お前、誰だ?」
戦っていた冒険者が聞いてくる。
その冒険者は、長い髪をなびかせ、巨大な棍棒を振り回し、狼の魔物と互角に戦う、女性である。
ただその姿――――棍棒を振り回す姿は、とても普通の人間には、見えない。
「初めまして、タイムと言います。協力しましょうか?」
「あぁ、じゃあ頼む。ずっと叩いてるんだが、全く倒せないんだ」
そう言って、また魔物を棍棒で叩く。
タイムは少し違和感を感じたが、続いて剣を振るった。




