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8話 大金

 冒険者たちがドラゴンの死体に群がり、解体作業を進める。

 鱗を剥ぎ取り、肉を削ぎ落とす。

 タイムも自分の剣を使い作業を手伝う。

 タイムが肉を削ぎ落していると、何か硬い物に刃が当たる。

 骨にでも当たったのかと思い、刃を少し戻してから邪魔な肉を削ぐ。

 肉を排除して見えた物は、石だった。

 透明感があり輝いているので、宝石だろう。

 拳大の大きさをしたその宝石をタイムは掴み、肉から取る。

 肉が宝石に纏わりついていたが、タイムが少し引っ張ると千切れるようにして離れる。

 タイムはその宝石について思い出した。

 それは怪鳥にもあった魔石である。

 魔物の体内に存在する魔力の結晶体、高値で取引される希少素材で大きさが大きければ大きいほど価格は吊り上がる。

 この大きさは金貨数十枚ほどになるだろう。

 だが、タイムは魔石についてボヤっとしか知らないので削いだ肉と同じ場所に置いた。


 ◇


「よし、あとは素材を運ぶだけだが…………量が量だからな。鱗を優先して次に肉、骨は放置しろ」


 ゴウランがそう全体に言うと、冒険者たちは素材を持ち始める。


「タケ、任せた」


 タイムがタケに言う。


「解りました」


 タケはドラゴンの素材を『盗人庫』に収納し始める。

 あっと言う間に素材は消えていった。


「何とかギリギリ収納できました」


 タケがため息を吐き、タイムに言う。


「じゃあ、骨は無理か」

「はい、それにあの大きさだと容量が残っていたとしても収納はできませんよ」


 タイムは骨の方を見る。

 骨は博物館の標本のように残っている。

 それはまるで深海に沈んだ鯨の骨格のようだ。

 タイムが見ると、頭部の骨の近くにゴウランが立っていた。

 ゴウランはその場にかがむと、何やら作業を行っている。

 タイムが近づきながら観察する。

 ゴウランは戦斧を使いドラゴンの頭部の骨のみを取り外している。


「何しているんです?」


 タイムがゴウランの近くまで来ると尋ねる。


「あぁ、これか? これは依頼の証明用だ。これさえあれば証拠になる」


 ゴウランはドラゴンの頭部を外し終わり、持ち上げる。

 二名はドラゴンの骨を眺める。


「強かったですね」


 タイムが何の脈絡もなく言う。


「あぁ、強かった。お前さんが活躍してくれたおかげでこんなに生き残った」


 ゴウランはその唐突な発言に対して自然と同意する。


「俺、そんなに活躍しました?」

「止めを刺したのはお前さんだろ。それにお前さんが囮になってくれなかったらほとんどの奴が殺されてた」


 ゴウランはそう言うと、素材を持った冒険者たちに言う。


「お前たち! これから町に戻るぞ!」


 ドラゴンとも張り合えそうな声量で言った。

 そして皆の先頭を歩き出した。

 冒険者たちもゴウランに続いて歩き出す。


「タケ! アイリス! 俺たちも帰るぞ」


 タイムは二人に言う。

 そうして冒険者たちは、行きの時より少ない人数で町へと戻って行った。


 ◇


 冒険者たちが町へ戻ると全員がギルドへ向かう。

 そして各々が持ち帰った素材を一括で提出した。

 その量はあの箱が五つほどである。

 その素材の額と討伐の依頼の報酬を合わせると、総額金貨350枚。

 生き残った者たちで分け合うと、一人当たり14枚の計算である。

 金貨14枚は高額でかなりの額であり、この町の高級な宿でも金貨が一枚あれば10日間は滞在することができるほどだ。


「結構多い報酬ですね」


 タケが恐れ多いと言わんばかりに金貨を持つ手を震わせる。


「取り敢えず、パーティの予算として保管しておこうか。タケ、空間収納に保管しておいて」


 アイリスがそう言い、金貨をタケに渡す。

 それに続きタイムもタケの震える手に金貨を乗せる。

 計42枚の金貨、タケが手で―――量が量のため腕も使い抱えるようにして―――持っている。

 タケは腕を震わせているが、それは重量のためもあるだろう。


「あの、お二人とも僕に任せていいんですか?」


 タケが尋ねる。

 その言葉には、盗みを働いた自分に大金を任せて大丈夫なのか? という意味が含まれている。

 タケはこの言葉に二人がどう答えるのかを息を呑んで待つ。


「…………いや、だって持ち運ぶにもセキュリティ的にも、タケが一番でしょ。そうだよね、タイム」

「あぁ、俺だったら歩いて数歩で盗られる自身がある」


 アイリスとタイムは満場一致でそう答えた。

 タケは自分が信頼されていることを実感した。


「――――解りました。お金の保管・運搬は僕が行います」


 タケは喜びながらそう言った。


 ◇


「タイム、タケ、これから緊急会議を開始します」


 アイリスが突然言う。

 場所は普段宿泊している宿の一室である。


「緊急会議って、何で急にそんなことを?」

「急だから緊急会議なんだよ!」

「それは兎も角、アイリスさん会議の議題を言ってください」


 タケが言うと、アイリスは咳払いをして、その議題を話す。


「議題なんだけど、次の町に向かわない?」

「次の町?」


 タイムが議題に反応する。


「今日の報酬で所持金がかなりの額になったから、安心して出発できるからね!」


 アイリスが自信満々に言う。


「金銭的な理由は解りましたけど、それだけじゃ町を移動する理由にはなりませんよね?」


 アイリスはその言葉に数秒だけ沈黙するが、すぐに話し出す。


「私は、この町に来てから常々思うことがある!」


 アイリスは不満をぶつけるように言う。


「依頼のレパートリーが少ない!」


 アイリスの不満とは、冒険者ギルドで受けることが可能な依頼の種類が少ないことだった。


「そんなに少ないか?」


 タイムが疑問に思い、口に出す。


「それはもの凄く少ない! 私が見て来た冒険者ギルドの依頼掲示板は、あんなにスカスカじゃなかった」


 アイリスが言う。


「…………他に理由は?」


 タケが質問する。


「?………………他にはないけど?」


 アイリスがキョトンと答える。


「よし、それでは会議は終了ですね」


 タケは立ち上がり部屋を出ようとする。

 タイムも続いて立ち上がる。


「ちょっと待ってよ! お願い! 次の町に行こう。ね? ね?」


 アイリスが懇願する。


「何でそんなに次の町に行きたがるんだ?」


 タイムがアイリスに聞く。


「それは言えないけど、兎に角お願い! 一生のお願い――――いや、何なら二生分! 二生分のお願い!」


 アイリスが必死に説得する。

 その姿は子供がこねる駄々のような姿だ。

 最終的に二人は折れて、次の町への出発が決定した。


 ◇


 その次の日、三人は次の町までの移動に必要な物品を購入した。

 数日分の食料、大量の水、寝袋、ロープなどなど、タケのおかげで大荷物にもならない。

 その時、アイリスが何らかの道具を幾つか購入していたが、タイムやタケは特に気にしなかった。

 そしてさらに次の日、アイリスとタイムとタケは冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドに入ると、三人は周囲を見回し、人を探す。


「あ! いたよ!」


 アイリスが探している人物を見つけ、残り二人に共有する。

 三人はその人の前まで歩く。


「こんにちは、ゴウランさん」


 タイムは目の前の男に挨拶をする。

 ゴウランは食事の手を止め、三人に向き直る。


「三人そろってどうした?」

「実は俺たち今日でこの町から出て行くんですよ。なのでその前に挨拶をしようと思いまして…………」


 タイムが事情を話す。


「そうか…………まぁ、頑張れ」

「はい、ありがとうございます。お元気で」


 三人は背を向けて歩き出す。

 ゴウランは三人がギルドを出て行くまで見送ると、食事に戻った。


 ◇


「寂しいね」


 アイリスが町を出て少しの場所で呟いた。


「そうか? そこまで長く住んでたわけじゃないし、そこまでだと思うんだが…………」


 タイムがそう言うと、アイリスがムッする。


「こういうのは、そう思ったほうがいいんだよ」


 その言葉がタイムには、ピンと来なかった。


「お二人とも! あの町に住んでた僕のことも考えてください」


 二人はタケに叱られる。

 二人は、は~い、と気の抜けた返事をして、次の町を目指して歩き出した。

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