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7話 ドラゴンとの遭遇

 冒険者の一団は太陽を照り付ける砂漠を歩いている。

 目的のドラゴンが目撃された地点の周辺までたどり着いていた。


「…………変だ」


 ゴウランが心の中で感じていたことを呟く。


「どうかしましたか?」


 ゴウランのすぐ後ろを歩いていた冒険者がその呟きについて聞く。


「ここに来るまでの間、怪鳥を見たか?」

「そう言えば、見かけていませんね」

「だろ、もしかしたらドラゴンの影響かもな」


 そんな会話をするが、その影響の7割は共にドラゴン討伐に同行しているタイムの影響なのだが、二名は知るよしもない。


 ◇


 タイムは歩きながら二人にドラゴンについての説明を聞く。

 生息地、食性、気性などの生態。

 そして…………


「ここから重要なんだけど、ドラゴンの鱗は岩よりも硬くて、魔法に耐性があるよ」

「それじゃあ、どうやって倒すんだ?」

「もちろん、ドラゴンにも鱗のない弱点があるよ」

「それはどこだ?」

「腹部と口の中。そこには鱗がないよ」


 ここまで話したところでタケが話し出した。


「ドラゴンの恐ろしいところはその破壊力ですよ」

「破壊力?」

「えぇ、ドラゴンの爪で切り裂き、咆哮は衝撃であらゆるものを吹き飛ばします」


 タケは諦めたように遠い目をして説明する。

 タイムはその説明でドラゴンの危険性を感じとることができなかった。


「水の残りはどれくらいだ?」

「まだまだありますよ」

「飲んでもいいか?」

「どうぞ」


 タケが水筒をタイムに渡す。

 タイムは水筒の蓋を開け、上を向くように飲む。

 タイムの喉が潤う。

 そのとき、上空に何かの影が見えた。

 その瞬間、タイムはアイリスの説明を思い出す。

 アイリスによれば、この砂漠で飛ぶことのできる生物はドラゴンだけなのだそう。

 つい先日、アイリスの話していた情報が正しくなかったため半信半疑だったが、もしもその情報が正しいとすれば…………

 そこまで考えたところでその影の主は空から降りてくる。

 その影が近づくにつれて、タイムの疑惑は確信に変わる。

 タイムはその場の全員に伝えることを考えたが、間に合わないと判断してタケとアイリスの腕を掴み、『勇気の形』を発動させ、その生き物から逃れる。


「え? タイム急にどうし」


 アイリスの言葉が周囲に響いた轟音でかき消される。

 何か重い物が地面に叩き付けられた音――――正確には重い生き物が地面に降り立った音である。

 その場にいる全員の視線は一体の巨大な生き物に向けられていた。

 その体表は鱗に覆われ、背から翼が生えており、怪鳥とは比べることもできないほどに恐ろしい。

 その生き物はドラゴンだった。


 ◇


「うわーー!!」

「逃げろー!!」

「ギャー!!」


 冒険者たちの絶叫がいくつも聞こえる。

 それはドラゴンによる一方的な殺戮によるものだった。

 本来の計画であれば、ドラゴンの寝床を特定し、寝込みに奇襲するのが本来の計画だった。

 だが、その計画は今となっては意味を為さない。

 それはドラゴンからの奇襲によって白紙になった。

 ドラゴンは逃げ惑う冒険者をその爪で切り裂き、踏み潰す。

 何人かは抵抗するが、ドラゴンの前では意味を為さない。

 剣は鱗に傷一つ付かず、矢は刺さらず、盾は盾ごと踏み潰される。

 冒険者たちは混乱し、ドラゴンに蹂躙される。

 タイムは誰よりも早くそのことに気が付き、アイリスとタケを連れてある程度の距離をとっていた。


「よし、ここまで来れば大丈夫だろ」


 タイムは立ち止まる。


「何言ってるんですか! まだ逃げないと」


 タケが焦りながら言う。


「そうか? それじゃあ二人はもっと遠くに逃げてくれ」


 タイムがそう返すとドラゴンの方に向き直る。


「ちょっとタイムさん! 何やってるんですか!」

「ちょっと挑んでくる」

「はぁ!?」


 タケが驚愕する。


「いや、私はここから援護するよ? だからタケだけで逃げて」


 アイリスもそう言い、タイムと同じ方向を向く。


「?…………タケ、もう逃げたらどうだ?」


 タイムがタケに言う。


「お二人が逃げないのなら僕も逃げません…………」

「そうか、それじゃあ死ぬなよ」


 タイムがそう言ってドラゴンに向かって走り出す。


「逃げなくていいの?」


 残ったアイリスがタケに質問する。


「…………恩がありますし、それに恩人が知らない間に死ぬなんて気分が悪いです」

「つまり死に様を見届けようと?」

「そういうことじゃないですよ! それに何故だか…………」


 タケが少し間を開けて言う。


「…………タイムさんが死ぬとは思えませんから」


 ◇


 タイムはドラゴンに向かって走る。

 その手には剣が握られている。

 何の変哲もない安物の鉄製の剣だ。

 タイムはドラゴンにその剣を振るう。

 剣はドラゴンの鱗に弾かれた。

 タイムは急いで後退する。

 ドラゴンの鱗はアイリスの言っていた通り、並の剣では切ることのできない鋼鉄の硬度をしている。


 タイムはアイリスの情報を思い出す。

 弱点は鱗のない腹と口の中。

 タイムは狙いを定めて再度接近し、剣を振るう。

 狙いは腹。

 ドラゴンの腹の下をスライディングで通り、同時に剣を突き立てる。

 ドラゴンの腹は厚かったが、鱗に比べれば簡単に傷を付けることができた。

 だが浅い。

 あまり血も出ておらず、一回だけでは効果が薄いことが明確だ。

 タイムがドラゴンから遠ざかり、タイミングをうかがっていると話しかけられた。


「大丈夫か?」


 ゴウランさんであった。

 ゴウランさんは移動中背負っていた戦斧を両手で握り、明らかな臨戦体勢だった。


「今のところは無傷です」

「そうか、そりゃあ丁度いい。お前さん少し作戦に強力してくれないか?」

「その作戦は事前に考えていた作戦ですか?」


 タイムが聞く。


「いや、つい数秒前に考えたものだ。不満があるか?」


 ゴウランさんは苦笑いをしながら言う。


「作戦次第です。聞かせてください」

「感謝する。それじゃあ、説明するからよく聞け」


 ゴウランさんはドラゴンとの間合いを気にしながら説明する。


「まず、ここにいる生き残った奴らが戦力にならないのは、ドラゴンの鱗による防御のせいだ。だからあの部分の防御を引き剥がす」

「どうやって?」

「文字通り、鱗を砕いて引き剥がす」


 ゴウランさんがそう答えるとタイムは、再度質問する。


「あの鱗をどうやって砕くんですか?」


 その質問はあの鱗に剣を弾かれ、硬さを痛感したから出た疑問だ。


「タイム、憶えとけ硬い物は、砕け易い」


 ゴウランは自信満々に言い放った。


「だから、俺が得意の一撃をぶち込むから、それまで数秒だけ時間を稼いでくれ」

「解りました」


 二名は走り出す。

 タイムはドラゴンの気を引き、ゴウランは背後に回り込む。

 ドラゴンはタイムに向け爪を振るう。

 タイムは事前の情報から警戒していたので、その攻撃を回避する。

 爪による攻撃は空を切った。


 その頃ゴウランは戦斧を構え、建物の屋根に飛び乗れそうなほど跳躍する。

 その落下地点はドラゴンの背である。

 タイムはドラゴンの移動を防ぐために気を引き、爪による攻撃を回避する。

 そしてゴウランの質量を乗せた落下攻撃がドラゴンに直撃する。

 ドラゴンの鱗は砕け、痛みからか空に向かって鳴く。


「今だ! 全員、集中攻撃だ!」


 ゴウランは冒険者たちに合図する。

 冒険者たちは弓を構え、一斉に放つ。

 矢は狙いを外すものもあったが、その大多数が砕けた鱗の間から覗かれる生身の部分に刺さった。

 ドラゴンはもだえ苦しむような動きをすると、弓を持つ冒険者を睨みつけその巨体を動かす。

 ドラゴンがタイムに後ろを向いたとき、タイムは矢の刺さった部分に剣を刺し、脆く砕けた鱗を剣で弾くように落とす。

 そしてタイミングを合わせたようにそこへ火球が直撃する。

 タイムが飛んできた場所を見るとそこにいたのはアイリスだった。

 まるで計ったかのように息の合った連携だった。

 火球の直撃した箇所は焼け、刺さっていた矢は黒く焦げていた。

 ドラゴンは苦しむ。

 その目は人間が見ても怒りに満ちていることが解った。


「おい! ドラゴン、俺らがムカつくか?」


 ゴウランがドラゴンに話し掛ける。

 ゴウランはドラゴンの頭部に向けて落下攻撃をしようと跳躍している。


「ムカつくのならお互いさまだな!」


 そう言って戦斧を振り下ろす。

 戦斧はドラゴンの頭部に直撃し、地へ叩きつける。

 ドラゴンはその衝撃でうめき声すら上げることができない。

 冒険者たちが一斉に矢を放つ。

 先ほどより的が大きいので半数以上が命中する。

 ドラゴンは痛みに耐えながら体勢を立て直す。


 そして、口を開く。

 口は先ほどの攻撃により骨格が歪んだのか、少し顎がずれている。

 ドラゴンは弓を放った冒険者に向き、『咆哮衝撃(ショックキャノン)』を放つ。

 冒険者たちはその衝撃が直撃し、踏み潰されたような状態で空を舞う。


 辺りの生き残った者の集中力が上昇する。

 それは生物的な生存本能だ。

 皆、その集中状態で弓を放ち、弓を持たない者までも手に持つ近接武器を投擲する。

 それらは直線、もしくは放物線を描き飛んで往く。

 それらはドラゴンに命中し、刺さり、切り傷を付け、もとからある傷を深くする。


 ドラゴンに苦しむ様子はなく、次の『咆哮衝撃(ショックキャノン)』を撃つため構えている。

 ドラゴンが口を開いた瞬間、タイムがドラゴンの頭部に着地し、刺さっていた誰かの剣でドラゴンの顎を開かぬよう固定する。

 タイムはドラゴンが一発目の『咆哮衝撃(ショックキャノン)』を放った時すでに次の『咆哮衝撃(ショックキャノン)』のために動いていたのだ。

 タイムは自身の剣を両手で持ち、振りかぶる。

 そしてそれに力を込めながら、勢いよく振り下ろす。

 ドラゴンの頭は真っ二つに切り裂かれる。

 ドラゴンは二度ほど痙攣した後、その場にドサッと体の部位を下ろした。

 もうドラゴンはピクリとも動かない。


「…………やったか?」


 一人の冒険者が呟いた。

 辺りはシーンと静まり返る。

 そして冒険者たちは喜びの声を上げる。

 ドラゴンを倒すことに成功した。

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