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6話 大移動

 三人は朝食を食べる。

 三人がこの町で冒険者をやり始めてから数日が経った。

 数日の間、ギルドで依頼をこなして生活していた。


「いや~、結構経ったね」


 アイリスが言う。


「確かもう三日か?」


 タイムが言う。


「いや、四日じゃないですか?」


 タケが訂正するように言う。

 そんなやり取りを行い、三人は朝食を食べ終える。

 そして、冒険者ギルドへ向かう。

 これは日課のような行動である。

 三人が冒険者ギルドに着くと、普段より人が多いことに気が付く。

 三人が何事かと、その騒ぎの中心を探す。

 騒ぎの中心には、ゴウランさんが立っており、何やら大衆に向け呼びかけている。

 三人は耳を澄ませ、その内容を探る。


「もう一度言うぞ! これから我々はドラゴンの討伐に向かう! ついて行きたい者はついてこい!」


 そう言ってゴウランは握った右拳で胸部を叩く。


「ドラゴンの討伐だって! 行ってみない?」


 アイリスが言う。


「俺は賛成だ」


 タイムが言う。


「僕は断固反対です。ドラゴンに挑むなんて無謀で命知らずです」


 タケ必死に言う。


「よし、二対一ということで、早速参加しよう」


 アイリスが言う。


「本当に命がいくつあっても足りませんよ!」

「大丈夫だ。いざとなったら逃げればいい」


 必死に言うタケにタイムが諭す。


「すみません、その依頼参加させてください」


 アイリスがタケの意見を全面的に無視して参加を表明する。

 タケの顔色は悪くなり、寿命が少し短くなった。


 ◇


 タケがこの世の終わりだというような表情で砂漠を歩く。

 その隣でタイムはタケを励ます。


「大丈夫だ。いざとなったら逃げればいいんだよ」


 タイムはこの励ましの台詞を繰り返している。


「…………タイムさん、そろそろ心の病気になりそうなので別の台詞を言ってください」


 タケがこの状況を打開するべく言う。


「解った。タケ、ドンマイ」


「やっぱり、もういいです。何も言わないでください」


 タケが折れ、地獄の状況は終わりを迎えた。


 冒険者の一団は、現在ドラゴンを討伐するべく目撃情報のあった地点まで移動している。

 大移動である。


「タケ、何故そんなにドラゴンを怖がってるんだ? 昔、襲われたのか?」


 タイムがいつまでも怯え続けるタケに質問する。


「襲われて生きてるわけないですよ!」


 タケがタイムの言葉を聞き、即座に言う。

 タイムはドラゴンの怖さが解らない。

 遭遇したり目撃していたとしても記憶がないため、知らないも同然だ。

 なので、タイムはタケの気持ちが解らなかった。


「いや、タイム、流石にドラゴンが怖いことは私も解るよ?」


 アイリスもこの言い分である。

 アイリスはドラゴンの恐ろしさを知っていながら、その恐怖をもろともせず明るい表情をしている。

 タイムが誤解をしてもしかたがなかった。


「僕は絶対に逃げますからね!」


 タケが主張する。


「別に良いけど、ドラゴンが出てくるまでは逃げずにサポートしてね」


 アイリスがタケにくぎを刺す。


「解りましたよ」


 タケが涙目になりながら言った。


 ◇


「今日はここで野営するぞ。皆、準備をしろ!」


 ゴウランが全体に声をかける。

 その声を聞き、冒険者たちが各々で野営の準備をする。

 ある者は背負っていたリュックを降ろし荷物を探って、ある者はテントを建て始め、ある者はその場に座りこんだ。

 タイムたちも野営の準備をする。


「俺たちも準備するか」


 タイムが二人に言う。


「でも、何か準備することなんてあります?」


 タケが言う。

 三人はテントなどを持っていない。


「―――焚火とか?」


 アイリスが言う。


「ここら辺なら枝ぐらいは落ちているかも…………」


 タケが言う。

 確かにここら周辺には、珍しく植物が生えている。

 数は少ないが、焚火くらいはできる量だ。

 三人は落ちている枝を拾い集めた。


「これぐらいなら一夜くらいはもつんじゃないか?」

「そうだね。早速、焚火を始めよう」


 枝を集め終えたころには日が沈んでおり、遠くの空が少し橙色になっていた。

 三人は集めた枝を焚火の形に組む。


「火を着けるよ」


 ある程度組み終わるとアイリスが言った。


「?……そう言えば、どうやって火を着けるんですか? アイリスさん道具とか持ってましたか?」

「そう言えば、持って無かったような気が…………」


 タケとタイムがそんなことを言い、アイリスがどうやって火を着けるのか観察する。

 アイリスは組まれた枝に手の平を向ける。

 それから間もなく、枝に火が着いた。


「アイリスさん魔法が使えたんですか!」


 タケが驚いた様子で言う。

 アイリスはドヤ顔で自慢げにしている。

 タイムは、初めて見た魔法を興味深く思っていた。

 手をかざすだけで触れもせずに、枝に着火した。

 タイムからすれば新鮮な光景であった。


「よし、必要ないかもしれないけど、念のため見張りの順番を決めておこうか。順番に希望はある?」


 アイリスがタイムとタケに質問する。


「僕はいつでもいいですね」

「俺も同じく」


 二人がそう答えると、アイリスは頭を抱える。


「………………う~ん、それじゃあ、タイム、私、タケの順番でいい?」


 アイリスが提案する。


「大丈夫です」

「同じく」


 こうやって見張りの順番が決定した。


 ◇


「それじゃあ、タイム、時間になったら起こしてね~」


 そう言ってアイリスは横になる。


「何かあれば起こしてください」


 タケもそう言って横になった。

 タイムは焚火の前に座り、見張りをする。

 別に危険な魔物がいるわけもなく、ただ焚火を見つめる。


「よう! お前さんも見張りか?」


 タイムは突然、話し掛けられた。

 振り返るとそこには、ゴウランが立っていた。


「見張りなら今夜は安全なようだし、暇つぶしに話でもしないか?」

「確かに暇をしていたところです。話でもしましょう」


 タイムはゴウランさんの誘いに乗る。

 ゴウランさんはタイムの横に腰を下ろす。


「お前さん、どうして冒険者になった?」


 ゴウランさんが話題を振る。


「記憶喪失で当ても無かった時に今の仲間に会いまして、手掛かりを探すために冒険者になりました」

「何? 記憶喪失だと、それは珍しいな」


 タイムが経緯を話し、ゴウランが記憶喪失の部分に驚く。


「記憶喪失と言うと、どんな感じがするんだ? 憶えていることはあるのか?」


 ゴウランは興味本位で質問する。


「どんな感じと聞かれても困りますけど、強いていえば特に変な感じとかは無いくらいですかね。憶えてるのは自分の名前くらいです」


 質問にタイムは答える。


「そう言えば、俺に心当たりとかはありますか?」


 タイムが気になり、ゴウランに聞く。


「いや、すまないが見たことがない」


 ゴウランは謝りながら言う。


「そうですか。そう言えば、ゴウランさんは、どうして冒険者に?」


 タイムが聞く。


「俺が冒険者になった理由か…………確か腕に自信があったからだな」


 ゴウランが語りだす。


「俺がお前さんくらいの頃、この砂漠とは離れた所の村で暮らしていたんだが、運悪く魔物に遭遇してな。あの時は死を覚悟したよ」


 ゴウランは少し笑い、続ける。


「その時、生きるための本能なのか、持ってた薪割り用の斧で魔物と戦ったんだ。そうしたら魔物を倒せてしまってな。これを仕事にしようと思って冒険者になったんだ。それからそれから二十年近く経つが、後悔はしていない」


 ゴウランは話し終えると一息吐く。


「タイム。お前も後悔しないように冒険者を楽しめよ。先人からのアドバイスだ」


 ゴウランはそう言うと立ち上がる。


「いい暇つぶしになった。明日からのドラゴン退治では頼りにするから頑張れよ。あと記憶、戻るといいな。じゃあな」


 ゴウランは去っていった。

 タイムはその後ろ姿を眺めたあと、また焚火を眺め、しばらくしてアイリスと交代した。


 ◇


 タイムは物音で目を覚ます。

 タイムは目を開き緊急事態かどうかを確認するが、どうやらタケが荷物を整理する音だと解り一安心をする。

 タイムはまたゆっくりと瞼を落とす。


「ちょっと! タイムさん、二度寝しようとしないでください!」


 タケはタイムが起きたことに気が付き、急いで起こす。


「ゔ~」


 タイムは唸り、タケに起こされる。


「タイム、おはよう」


 起きたタイムにアイリスが言う。

 三人は持ってきていた乾燥したパンを食べる。

 パンは硬く、口の中の水分を奪っていった。

 三人は持ってきていた水を飲む。

 量も十分に用意していたため、水が尽きることはない。

 しばらくは心配しなくとも大丈夫だ。

 三人が朝食をとり終わるとゴウランさんが全体に指示する。


「全員! 目的地に向かうぞ! 今日中には到着するはずだ」


 その声により全体が動きだした。


 ◇


「それにしても楽ですね」


 タケが会話の中で呟く。


「何がだ?」


 タイムが聞く。


「怪鳥に襲われないことですよ」


 タケが答える。

 それはタイムの謎の体質だ。

 当の本人も原理が解らないが、便利であり、不便でもある。


「あの鈍感な怪鳥が逃げ出すなんて、不思議だね~」


 アイリスが言う。


「だよな、首を切られても気が付かないくらい鈍感なんだろ?」


 タイムが共感する。


「いや、流石に怪鳥でも首を切られたら気が付きますよ」


 タケがツッコむ。


「?……怪鳥は首を切られても気が付かないって言わないのか?」


 タイムが首を傾げて聞く。


「そんな話聞いたことないですよ」


 タケがそう答えると、タイムはアイリスの方を向く。


「…………言わないの?」


 アイリスも予想外だったらしく、驚愕の表情になっていた。

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