46話 鳥群
「それじゃあ、そろそろ出発するよ」
アイリスが全員に言う。
皆、慌ただしく荷物をまとめている。
「これで最後ですね」
タケが最後の荷物を回収する。
タケのスキル【盗人】は、日常においてとても役に立つ。
持ち運びの面倒な物でも重量、サイズを無視して運搬することができる。
旅では、このパーティの生命線でもある。
「登ってから、下るまで短いな」
「山頂でやることなんて、ないだろ」
パキラの言葉にタイムが裏付けるように返す。
「なるほど!」
パキラは、納得した。
「魔物が襲ってくるかもしれないから、早く下った方がいいしね」
アイリスが付け加える。
山頂付近では、強力な魔物が多く生息している。
まだ、山頂では、まだ遭遇していない四人の運が良かっただけで最悪寝込みを襲われる危険性もあった。
「さっさと下るか」
タイムが宣言する。
それを出発の合図として、四人の下山が開始した。
◆
下山開始から一分後。
まだ山頂に近い地点。
四人は、出発早々魔物に遭遇した。
ドラゴンではなく、細く長く青い体をくねらせながら移動する。
流水大蛇。
山頂付近であるから属性を持つ魔物だ。
討伐ランクは、Bで普通のものより強い。
「何ですぐに魔物に出くわすんですかね?」
タケが呟く。
「運がついてないんじゃないか? 四人全員」
タイムが推測を話す。
そんな軽口をたたいて、危機感を抱いていない四人にウォータースネークが襲いかかる。
格好の餌食だと言わんばかりに口を開き、噛みつこうと跳びかかる。
「邪魔だ」
タイムが一瞬で胴を両断する。
強くても所詮は、Bランクでタイムたちの敵ではなかった。
タケがいつものように素材を剥ぎ、回収する。
それと同時にタイムの『継承』が発動する。
ウォータースネークの持つスキルと役に立たない技術がタイムに受け継がれる。
EXスキル【水属性耐性】と【滝登り】。
前者は、説明する必要はないほど名が体を表している。
後者の効果は、向かって来る水流があるとそれに反して勢いが増すというものだ。
使いどころは、あまりない。
「それじゃあ、先を行きましょう」
回収が終わったタケがいう。
再出発。
下山が再開した。
それから約三十分後。
再び魔物と遭遇した。
魔物の群だ。
「数が多いな」
「面倒だ」
総数、目測だけでも二十は、軽く超えていそうだ。
大半がCランクの飛空鳥だが、所々にBランクに届く特殊個体が存在する。
燃焼滑空鳥、風裂翼鳥、熱風送干鳥、急降下爪撃鳥などが主な戦力のようだ。
飛行しながらバードが襲いかかる。
タイムたちからすれば、数がうっとうしい。
いくら倒しても攻撃が続くからだ。
全て倒し尽くさないと終わらない。
もちろんこの状況を続ける気は、四人にない。
一気に一掃するためアイリスが詠唱している。
三人は、アイリスに邪魔が入らないように守っているだけだ。
アイリスの詠唱が終了し、魔法を放つ。
「皆! 一応気を付けて!」
アイリスは、そう言って発動させる。
雷魔法『落雷伝波』
天から雷が降り、バードに直撃。
そこから近くの個体へ雷が移り続け、九割が黒焦げで落下した。
残ったのは、特殊個体の数々だ。
反撃をしようとクロダウバードが急降下する。
鋭利な爪を突き出す。
だが、降下の最中に胴ごと翼が切断される。
タイムが聖剣で斬撃を飛ばしたのだ。
この現象の全貌を知らない残りの個体は、半狂乱状態になる。
そうなると襲って来るものは、パキラが倒し、まだ襲って来ないものは、タイムがクロダウバードと同じように斬り落とす。
魔物は、全て倒された。
「これは、時間がかかりそうですね」
タケが魔物の亡骸の山を前にしていう。
「手伝うよ」
「俺も」
「あたしも」
皆が手助けを申し出て、作業を始める。
タイムは、今回の『継承』で受け継がれたスキルを確認する。
今回継承されたスキルは、【落下減速】【接触乾燥】【風操作】【身体燃焼】【風属性耐性】【火属性耐性】【危機感知】と、数が多い。
ある程度の強さを持つ、魔物が群をなしていたからこそだった。
幾つか有用に利用できる方法を思いつけるが、幾つかは応用で考えなければいけないだろう。
こういった簡単な作業中、その事について考える。
例えば、【身体燃焼】は使いどころが難しい。
身体を発火させ、燃焼するスキル。
体が燃えたところで相手へのダメージは、期待できないし、そもそも耐性がなければ焼け死ぬ。
運用が容易なものは、【危機感知】だ。
その名の通り、身の回りの危険を感知するスキル。
タイムの扱う剣術との相性が良い。
他に扱いが簡単なものは、【接触乾燥】なども入る。
触れた相手から水分を奪いとるスキルだが、触れるだけでいいのは、扱いやすい。
【風操作】は、運用を少し考える必要がある。
風を操作できたとして、上手く使わないとただ風だ。
応用は、砂埃を舞い上がらせて、相手の視覚を奪うなどだ。
タイムは大抵の場合、こうやって暇を潰している。
「よし、終わりました」
タケが素材を回収し終える。
タイムは、暇つぶしを中断し、下山を再開した。
◆
「なぁ、アイリス。目の前のあれが何か解るか?」
タイムがそれから視線を外さずに聞く。
「うん」
アイリスも視線を外さずに答える。
「タケは解るか?」
「まぁ、はい」
タケも視線を外そうとしない。
「最後にパキラ、あれが何か言ってみてくれ」
タイムが命ずる。
「解った! あれは、でかい鳥だな。美味しそうだ!」
パキラが感想も付け加えて言う。
全員が流石にうんざりしていた。
鳥の魔物の群に出会ってから少ししか経っていない。
それなのにもっと強そうな魔物に出くわしてしまった。
超獣の鳥長。
討伐ランクAの魔物だ。
鳥系の魔物の長であり、先ほどタイムたちが交戦したバードたちの上位の存在だ。
今も複数のCからBランクの特殊個体を含む魔物が周囲を飛んでいる。
「面倒だね」
「ですね」
アイリスとタケが愚痴をこぼす。
「俺が全滅させてくる」
タイムが一人で全滅させようと乗り出す。
四人で協力してだと、面倒になったのだ。
「はぁー!? タイムだけズルい! 抜け駆けはさせん!」
唯一不満を漏らしたのは、パキラだった。
「じゃあ、二人に任せるよ」
「僕たちは、自衛しながら待ってます」
そう言って、二人を送り出した。
タイムは、まず【影移動】を多用して、距離を詰める。
向かってくるバードたちは、【危機感知】で避け、必要であれば剣を振るう。
パキラは、かなり手前の段階でバードたちに足止めを食らった。
タイムが近ずくと聖剣で斬撃を飛ばす。
スーパーバードチーフは、タイムと同じように【危機感知】のスキルによって事前に斬撃を回避する。
斬撃は、一部のバードたちに命中し、地へ落ちる。
これらが持っていたスキルは、タイムの既に所持しているものなので『継承』は、発動しなかった。
次の瞬間残ったバードたちが一斉に統率をとりながらタイムへ襲いかかる。
『何だ?』
タイムは、それが奇妙な状況に感じた。
実際その状況は、充分に奇妙だった。
バードが一匹もこぼれることなく、連携してタイムに襲い掛かっている。
タイムが倒そうとしても倒せる数は少なく、最小限の被害で戦っていることが解る。
タイムにしてみれば、とても戦いずらい。
『何かのスキルか?』
タイムが推測する。
ただ、その仮説だと一匹残らずに統率がとれていることが可笑しくなってしまう。
数十という個体が全て獲得できる同一のスキルがあるとは、考えずらかった。
『じゃあ、どいつか一匹のスキルだな』
一匹のスキルで全体の統率をとっているという結論に至った。
『絶対あいつだよな?』
タイムが指すあいつとは、スーパーバードチーフのことだ。
特に理由は無いが、タイムは、そう予想する。
問題は、どうやって倒すか。
相手は、上手い具合に眷属を配置していて、タイムの攻撃が届かないように遥か高くを飛んでいる。
連携によって、タイムに攻撃が届くこともある。
『こうなったら………………』
タイムは、新たに手に入れたスキルを使い、状況の打開を見当する。
まず、【接触乾燥】で触れて来た個体から水分を奪い取る。
自身も無事ではないが、軽傷なら【呪念再生】で再生ができるのでタイムは、気にしない。
これによりタイムの邪魔をする個体が減る。
新たなタイムの攻撃で戦法が少し変わったのだ。
統率が取れているからこそ一斉に隙が生まれた。
タイムは、その隙に三つのスキルを発動させる。
【接触乾燥】で周囲の空気を乾燥させる。
【風操作】でその乾いた空気をとどめる。
【身体発火】で体の周囲を燃やし、乾燥した空気で範囲を上げる。
傍から見れば、火だるまに見え、危険に感じるだろう。
だが、タイムは【火属性耐性】があるのでほとんど問題はない。
バードたちの隊列が乱れる。
個々の混乱ではなく、一体の恐怖だ。
野生動物は大抵、火を恐れ近づこうとしない。
野生の鳥から魔物へ変質した、スーパーバードチーフもその本能が残っている。
タイムは、燃えたまま【跳躍】を使い高く跳び、さらにバードたちを足場にして、スーパーバードチーフの高度に追いつく。
スーパーバードチーフは、タイムに吠える。
最後の足掻きだった。
タイムは、その手に握る聖剣でスーパーバードチーフを斬り、地へ落とす。
そしてまだ息のあったスーパーバードチーフへ追い打ちのように影魔法で出現させた刃を突き刺す。
確実にとどめを刺すためだ。
スーパーバードチーフは、息絶えた。
周囲のバードが連携を失い、散り散りに逃げ惑い始めた。
タイムが地面へ降り立つ。
聖剣を振った時点で発動中のEXスキルは、解除された。
着地の直前に【落下減速】で衝撃を緩和する。
それと同時に『継承』が発動した。
スーパーバードチーフが元々所持していた固有能力【統率鳥】
それがタイムへ渡り、固有能力【統率長】へ変化した。
本来、『継承』にそんな効果は無いが、呼称が変わっただけで機能に変化はない。
タイムが疲れたように剣をしまうが、そこからも大変だった。
四人で解体作業がスタートした。




