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44話 頂を夢見て

 タイムとパキラは手順を繰り返し、順調に逃走している。

 順調だが、問題が一つある。

 その問題とは、このままだとこの怪物から逃げながら一生を過ごさないといけないということだ。


 不死巨人は、未だ朽ちず、未だ倒れない。

 何度、切り裂こうと再生し、二人を狂ったように追う。

 このままだと山頂で待つ、タケたちの元へ不死巨人を連れて行くことになる。

 できれば、その前に倒し切るか、撒いて逃げ切らなければいけない。


 だが、どちらも難しい。

 二人が不死巨人を最も引き離した時でさえ、何らかの手段で位置を感知され、追跡される。

 倒せないのは、一目瞭然。

 既に何度も殺しているのに再生しているから、その名に背かない不死身だ。

 どこかの不死族(アンデット)とは、圧倒的に違う。


『このままだと普通に不味いな………………』


 タイムが心なかで考える。

 相手を撒く、または倒す方法。

 撒くことは、現状無理。

 となると倒すことになるが、相手は不死身だ。

 再生力が凄まじく、殺し切る手段を二人は、持ち合わせていない。

 そうなると、僅かな可能性に賭けて、あるかもわからない不死身のほころびを探るしかない。


 仮説1、再生の大元を潰す。

 どこかにある――――――おそらく魔石やそれに類する器官を発見し、破壊。再生を封じる方法。

 これは、とても可能性が薄い。

 タイムが切り刻んでもそれらしいものは、見られなかった。

 そんなものは、存在しないと考えていいだろう。


 仮説2、再生には、条件があり、その達成を阻止する。

 再生は、不死巨人のスキルか何かの能力でそれに条件がついており、復活する際はその条件を達成しているという可能性。

 これはかなりあり得る説だが、阻止は難しい。

 その条件がどんなものであれ、今まで達成されている時点で相当簡単なものだろう。

 特定が困難であり、特定しても阻止が不可能かもしれない。

 よって考えても意味がない。


 手詰まり。

 いくら考えても攻略法が浮かばない。

 二人揃って、無事に助かる道筋が見当たらない。


「パキラ」


 タイムがパキラに話しかける。


「何だ?」


 パキラが耳を傾ける。


「このままだと、二人共――――――それどころか四人全員が危ない」


「あぁ、そうだな」


 パキラは、タイムの言葉に同意する。

 タイムのように深々と考えたわけではないが、パキラは感覚でそれを分かっている。


「それで提案なんだが………………俺が囮で残るからパキラは、アイリスたちの所へ逃げてくれ」


 タイムは、パキラに伝える。

 最後の言葉のつもりでいる。


「そうか、一人で囮にか………………」


 パキラが小さく復唱する。


「断る!」


 パキラがタイムの意見をキッパリと断る。


「何で?」


 タイムがパキラの身勝手な言動の真意を問う。


「だって、それだとあたしは、戦えないじゃん。お前だけズルいんだよ」


「ズルいって………………」


 羨んでいる場合ではないというのにパキラは、そんな答えを出すものだからタイムは呆れる。


「もし囮なら二人で、だ。一人占めは、よくない」


 タイムは、パキラの説得を諦める。

 おそらく今のパキラは、一切の譲歩もせず、頑固に動かない。


「そうか………………」


 タイムにとって、そのパキラの言動は、いいものではなかった。

 明らかに生存率が異なる。

 死者が異なる。

 生存者が異なる。


 だが、タイムは少し嬉しかった。

 共に戦う仲間。

 心強く、希望が抱けて、懐かしいような気がする。


『この懐かしさは、失った記憶か?』


 そんなことを考える。

 兎に角とても良いものだった。


「よし、戦うなら二人でに決定だ! パキラ、倒すぞ! そして皆で揃って、ご飯を食べよう!」


「もちろん!」


 二人は、臨戦態勢へ移った。


 ◆


 不死巨人は迫る。二人の人物へ向けて。

 その巨体で暴力を振り撒き、不死身の体で何度も何度も何度も襲いかかる。

 その起源は、山であり、存在そのものだ。

 伝承精霊などの種に近いが、実態はかけ離れている。

 しかしながら、二人には、あまり関係のない情報で知る術はない。


 そんな大いなる存在が襲いかかる。

 まずは、前方にいるタイムに向けて腕を振るい、潰そうとする。

 そこに一人だけ立っている青年へ向けて。

 青年は、聖剣を構えている。


 腕が振り上げられた瞬間、横から飛び出す者がいる。

 パキラだ。

 武器は、持っていない。

 拳を堅く握りしめ、振りかぶる。


「リベンジだ! ぶっ飛べ!」


 そう言って、全力で殴る。

 パキラの固有能力(ユニークスキル)【大食】。

 それに内臓されている機能『栄養補給』と『胃袋』。

 エネルギーへの変換と貯蔵。


 それによって蓄えられていたエネルギーの一部を利用した一撃。

 普段ならば、絶対にしなかったが、一度攻撃が通用しなかったという事実から渋々使用した。

 その威力は、いままでの比ではない。

 サンクトゥスのテロに参加していたジンストも一撃で死亡させることができる。


 不死巨人は、拳に押され、大きく倒れる。

 殴られた箇所の肉は、押し潰されていて、再生が難しくなっている。


「リベンジ成功!」


 パキラは、喜び飛び跳ねる。


「パキラ、まだ警戒を解くな。どうせ再生する」


 タイムは、パキラへ注意する。

 それと同時に不死巨人の腕が動く。

 打撃で潰れた部分へ手を当て、強く握り潰して、引き千切る。

 千切れた肉が再生する。


「マジか………………」


 パキラは驚き、距離を取る。

 自らの体を千切るなど正気ではない。

 不死巨人に正気があるのかは、不明だが、異様だ。


 すかさず、タイムが聖剣で斬る。

 身動きが簡単にとれないほど、切り分ける。

 地面に幾つかの腐敗した肉が散らばる。


 それらは、斬られたそばから再生を始めようとする。

 タイムは、魔法を行使する。


 影魔法『影牙』


 それを地面の影から複数、肉片の数だけ出現させ、一つ一つへ貫き刺す。

 これほど精密で高度な魔法を使っても、他の攻撃と同様に再生を遅らせるだけで仕留めるには、至らない。


 タイムたちは、問題を課されている。

 勢いで倒す選択をしたが、肝心の手段が判明していない。

 それをすぐに発見しなければ、この遅々として進まない状況のループに閉じ込められたままとなる。


 そんな時、タイムの思考を邪魔するように異分子が出現する。

 そいつは偶然、その場に居合わせてしまった魔物だ。

 山麗竜(マウントドラゴン)という種で、その頃丁度アイリスたちが遭遇していた土甲竜(ソイルドラゴン)の亜種のようなものだ。

 亜種と言っても、個体としては、こちらの方が断然強い。


 そいつは、本能でタイムに襲いかかろうとする。


「邪魔するな!」


 パキラがタイムの手を煩わせまいと殴って追い払おうとする。

 しかし、その拳には今、先ほどの全力の一撃の余韻が残っていた。


 ドラゴンは、襲い掛かる前にパキラに殴られ一撃で倒された。

 体内の魔石やら骨やらが強い衝撃によって、一括で砕かれたのだ。

 魔物は、魔石が生命線であり、生きる上での要なので、砕かれればすぐに死ぬ。


 ドラゴンは、威厳も何もなく散っていった。

 タイムの気すら散らせず、無念に。


 だが、こいつは、タイムにとっていい異分子だったかもしれない。

 タイムの固有能力(ユニークスキル)【勇者】の『継承』が発動した。

 普段は、扱う事の叶わない技術を継承することが多いが、今回はタイムにも扱える技術が受け継がれた。

 それは、地魔法という魔法で土魔法の上位に位置する魔法だ。

 ドラゴンが偶然、地魔法を扱える希少種だったための奇跡だった。


『これ、もしかして使えるんじゃ……………………』


 タイムは、習得したそばからそれを把握して、運用方法を考えついた。


 時間もないのですぐに実行へと移す。

 まずは、地魔法を行使する。


 地魔法『隆起圧殺グラウンドアップクラッシュ


 地魔法と土魔法の違いは、すでにある物へ干渉できるか否かだ。

 地魔法は、地面を隆起させたり、或いは沈降させるなど既に存在する地面を扱う魔法だ。


 タイムの行使した魔法によって、地面が盛り上がり、曲がって、再生途中の肉片を飲み込む。

 そのまま封印するように覆う。

 これであれば、再生ができないという思惑だ。

 思わぬ幸運による奇跡だった。


「お? やったのか?」


 パキラがその様子を見て言う。

 それは、別世界で前ふりと呼ばれる類の台詞だ。


 タイムが魔法にて、盛り上げた地面が動く。

 内部で何かが暴れるようにモゾモゾと。

 それは、すぐに地面を突き破って出てくる。

 出て来たのは、もちろん不死巨人だ。

 地中で再生して、這い出てきたのだ。


 タイムたちの対抗手段は、もう無い。

 奇跡すら通用しなかった。


 不死巨人は、タイムたちへ襲いかかろうとする。

 タイムたちは、臨戦態勢へまた移行し、武器を構える。

 だが、不死巨人は、急に動かなくなり、茫然と立ち尽くす。

 突然のことで二人は、困惑する。


 アイリスとタケが山頂へ到着した時だった。


 不死巨人は、そのまま叫ぶわけでもなく。暴れるでもなく。霞のように消えていった。


 タイムとパキラは、目を丸くして驚き。

 しばらくして、山頂へ向かって、二人と合流した。

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