42話 実験と仮説
逃亡の手順。
タイムとパキラが山の不死巨人から逃げる手順は、以下の通りだ。
二人は、山頂を目指して登って逃げ、不死巨人は、それを追っている。
追いつかれそうになると、聖剣の斬撃を飛ばして、足止めをする。
【二連撃】を使って、攻撃回数を倍にして、切り刻み再生までの時間に離れる。
こうやって、順調に逃げて行く。
二人の性能では、実現可能な作業だった。
一方で、先に山頂へ上ったタケとアイリスはと言うと………………
◆
山頂に辿り着く手前で二人は話す。
「アイリスさん。アレ、どうしますか?」
「どうって………………ね?」
二人は、難しい顔をする。
目の前、進行方向にいるのは、一体の魔物。
ただの魔物ならこの二人でも容易に対処できたかもしれない。
だが、目の前にいるのは、討伐ランクAの魔物、土甲竜。
背が堅い土の装甲で覆われているドラゴン。
タイムかパキラのどちらか片方でもいれば、楽に倒せるほどの強さだ。
いれば、の話だが………………
「どうしようもないね」
二人の取ることができる選択肢は、限られている。
すでに発見されており、潜伏してやり過ごすなんてことはできない。
逃げるにしても逃げ道は、下山しかなく、そっちにはドラゴンなんかよりも危険な存在がいるため除外される。
よって、戦闘しか残されていない。
唯一の救いとしては、相手が飛行できない種のドラゴンであるくらいだ。
「私が魔法で気を引くから、タケだけでも逃げて」
アイリスが魔法を構えて、言う。
「そうですか………………」
タケは、それだけ言い走り出す。
回り込むように遠回りで進む。
アイリスが囮になるべく、火球を直撃させる。
ドラゴンの意識がタケではなく、アイリスへ向く。
敵意、殺意、戦意が入り混じった視線で刺す。
アイリスは、次の魔法の詠唱を開始する。
これでタケは、逃がせるだろうと考えて。
詠唱は、止めない。
ドラゴンが動こうとする。
その腹の下に円錐型の何かが投げられる。
『アレは、一体?』
アイリスが疑問に思った瞬間、それは炸裂し、ドラゴンへダメージを与える。
爆発によって生じた爆風に巻き上げられた砂埃でアイリスは、片目を閉じる。
「いやー、逃げろって言われてもできませんよ」
逃げたはずのタケが立っていた。
「何で!? 私、逃げろって言ったよね?」
アイリスがタケの行動に叫ぶ。
「だってここで逃げたらタイムさんに合わせる顔が無くなりますから。それに………………」
タケが言葉を区切ってアイリスの元へ戻る。
「二人なら勝率があるかもしれないでしょう?」
その言葉にアイリスは、笑いをこらえた。
タケがタイムに少しばかり似ていたから。
結局、こらえきれず笑ってしまった。
「可笑しいですか?」
「いや、可笑しいわけじゃ………………ううん、やっぱ可笑しい!」
命の危機にあるとは、思えない空気感だ。
そこへドラゴンの方向が割って入る。
二人は我に返り、対処法を考える。
「タケ、あの爆弾ってあとどのくらい残ってる? 他にも使えそうな物ってある?」
アイリスが問う。
「クラッカーボムの在庫は、あと二発です。他には、魔道具が幾つか………………」
クラッカーボム、盗賊団から奪った物は多かった。
だが、旅支度の資金にするべく大半を売り払って二発しか残っていないのだ。
他の魔道具だが、認識阻害ローブや暗殺用のナイフなどほぼ暗殺用の道具で期待できない。
そもそも認識阻害ローブは、存在感を薄める程度で、ここまで相手に認識されているとただの布と大して変わらない。
毒もあるが、ドラゴンの体内へ入れることが困難だ。
「全然ダメじゃん!」
説明を聞いたアイリスが言う。
「はい、面目ないです」
タケは、申し訳なそうに言った。
「勝算は、ないの?」
「ないです」
タケは、即答した。
それを補足するように爆発でも無傷のドラゴンがいる。
「それじゃあ、まずは、どうする?」
「一つ試したいことがあるので隙をつくってください」
タケが頼む。
「了解」
アイリスは、頷いた。
行動を開始する。
アイリスは詠唱を再開し、タケは接近する。
ドラゴンが吠える。
外敵を排除するべく、手始めに近づいて来た者を爪で薙ぎ払おうと前足を振るう。
タケは回避し、離れる。
アイリスとの対角線上にいれば、魔法が誤って直撃してしまうかもしれない。
アイリスは、魔法を発動させる。
土魔法『土塊砲』
土を固めた物を生成、発射する魔法。
命中するが効果は低い。
土に土では、あまり意味がないのだ。
魔物が持つ属性は、同属性であると効きにくい。
それは魔物がEXスキルの特定の属性への耐性を所持していることが多いからだ。
タイムも魔物を倒すと稀に『継承』によって獲得している。
もちろん、二人の目の前のドラゴンも【土属性耐性】を持っており、土魔法は、衝撃を与えるだけで、全く意味がない。
そしてもちろん、アイリスだって、冒険者。そんなことぐらい知っている。
ドラゴンがアイリスの方へ意識を一瞬だけ向ける。
「はい! 言われた通り隙をつくったよ? 足りる?」
アイリスがドラゴンの背へ飛び乗ったタケへ言う。
「はい、十分です」
タケは、ドラゴンの土の装甲へ手を伸ばす。
タケには、検証したいことがある。
それは、彼の所持する【盗人】の実験だ。
物は使いようという言葉を実践する。
【盗人】の能力は、相手から物を盗むことだ。
『盗人庫』などの空間収納は、その効果の副産物また、補助的役割だ。
そしてタケの盗むという能力には、条件や限界が存在する。
条件は、タケの腕が相手へ触れていること。
限界は、物の大きさで大きすぎると盗めない。
この限界が当てはまれば、大抵の物体を盗める。
タケは、触れている物が無生物だったとしても、それから物を盗むことができる。
内部にある物、開かずの金庫でも中身を盗むことができる。
タケは、これらを踏まえ考えた。この限界に当てはまっている相手の所持品。
そして一つ、思い浮かんでしまったのだ。
体を組成する組織や器官。
それらは、能力の対象ではないか? と。
それは、相手自身ではないかとも考えたが、無生物からも盗めることから可能性があると考えたのだ。
タケの伸ばした腕が土を装甲を無視して通過する。
ここまでは、タケの認識通りだ。
問題は、ここから盗む効果が発動されるかどうかだ。
失敗すれば、結構危なかったりする。
絶賛敵の背の上だ。
かなりの愚行だろう。
タケは、腕を引き抜く。
そして、察したように飛びのいて元の位置へ戻った。
「どうしたの?」
アイリスが聞く。
タケの行動を見て、試したいことがおおよそ解っている。
それが失敗したのか、質問している。
「いえ………………」
タケは、自分の握りこぶしを見る。
「………………成功しました」
タケが手の平を広げればそこから赤黒い液体が出てきた。
血液だ。
ドラゴンの体を流れていた血。
「でも、一つ問題があります」
タケが血を地面に撒く。
その量は、コップ一杯もない。
「一度に奪える血液は、これぐらいで、少ないです」
人やそれぐらいの大きさの動物なら、一回でも効果は高い。一度だけでも貧血になる。
だが、体格の大きい大型の魔物には、一回程度では、効果が薄い。貧血にするにも失血死させるにも、数十回血液を奪わないといけない。
「それじゃあ、血液以外は? 内臓とか盗めないの?」
「多分無理ですね。今、盗めなかったので」
タケが答えた。
彼自身、できれば内臓を狙っていた。
だが、判定は、相手の一部の判定に入った。
そもそも血液が盗れたこと自体、判定の抜け道だ。
「ねぇ、一つ面白い仮説があるよ」
アイリスが突然言い出す。
その仮説とは、タケのスキルの判定について。
要約すると、生物に後から来た部分は、対象に入るのではないかという説だ。
だから元からある臓器は、盗めない。
だが、高頻度でつくられ、新しくなっている血液は、盗める。
これがアイリスの立てた仮説だ。
「それでね。もし、この説が正しかったときに盗める物があるんだよ」
「………………何ですか?」
「魔石」
魔石は、魔物から採取される魔力の結晶だ。
魔物の心臓と同義で破壊されれば、魔物は大抵死ぬ。
「魔石って後からつくられる物なんですか?」
「空気中の魔力を吸収して形成されているから………………たぶん?」
アイリスは、詳しく知らないようだった。
「そんな疑問形に命預けたくないです」
タケが不満を口にする。
「その分、さっきみたいに隙は、つくるから」
「それなら、まぁ」
アイリスは、タケの説得に成功した。
内心ガッツポーズをした。




