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41話 怪物からの逃亡

 霧によって日の光が遮られ、日中と思えぬほど薄暗い。

 その中で霧に溶け込むようにゆったりと直立する怪物。

 体表は、腐敗した肉で覆われていて、今にも剥がれ落ちそうだ。

 その内部がどうなっているのかは、想像すらできない。


「まさか、これが山の不死巨人か?」


 タイムが見上げる。

 頭部は、霧によって見えない。


「情報通りだから多分そうだと思う」


 アイリスが答える。


 全員が身構えて、微動だにできない。


「………………襲ってこないけど、どうする?」


「戦闘は、ありえないですよね?」


 その発言にパキラが肩を落とす。


『『『こいつ、マジか………………』』』


 全員でパキラを見る。

 本当に戦うつもりだった様子に三人が引いている。

 すぐに念を押して、今回は戦闘をしないことを言う。


 続いて、逃亡の計画を立てる。

 ここまで体を捻って動かしたりしたが、足の位置は変わっていない。警戒が解けていないためだ。


「登るか、下るか、横に進むか、どれにする」


 選択肢を提示する。


「どれが安全ですかね?」


「追って来たら逃げ切れるかどうか………………」


「どこに逃げてもそれは、同じでしょう」


 という意見もあれば………………


「ここまで登ったし、また登るのは、骨が折れるよね」


「あたしは、何回でも登れるからどこでもいい」


 パキラがつまらなさそうに言う。

 戦闘ができないことことを知ってからずっとこの調子である。


「パキラだけで他は、無理だ」


「じゃあ、横か上だね」


 どんどんルートが絞られている。


「逃げることも考慮したら、横か?」


 怪物とは、反対側を指す。


「相手の妨害のためにも上がいいかも」


「逃げきれますかね?」


 アイリスの提案にタケが不安そうに言う。


「うん、どっちにしろ体力がね」


 二人の体力に余裕は、ない。

 タイムは十分あり、パキラは考える必要がないほどの量だ。


「最終手段は………………足止めだな」


 タイムがそう言った瞬間、パキラが明るくなる。


「さ、い、しゅ、う、しゅ、だ、ん、だからな!」


 パキラに言い聞かせる。


「あくまで逃げ一択、もしだめなら足止め………………仕方ないね。こればっかりは」


 アイリスが言う。


「よし、皆、行くぞ。準備はいいか?」


 タイムが最後に聞く。


「うん、準備万端」


「問題無し、だ!」


「あっても、どうせ関係ないでしょう」


 各々が答える。


「よし、行くぞ!」


 カウントダウンを開始する。

 3から始まり、2、1。

 それから一斉に走り出す。


 そもそも追って来ると確定したわけではない。条件は不明だ。

 ここで追ってこなければ、一番いい。


 突如、空気が揺れる。

 全員が反射的に耳を押さえる。パキラは、しなかった。

 咆哮。高く、悲鳴のような叫び。

 まるで怪物に襲われたような声。

 だが、それは不死身の巨人から発せられている。

 頭部の口のような部分が霧から覗く。

 似ているだけで口ではなく、ただの穴だ。

 そこから音を発している。


「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


 不快な音。それは、警告音に近い音だ。

 そして、怪物が動く。

 不釣り合いな長い手足を歩くように動かして、手のような腐敗肉の塊の器官が前へ出される。

 そして、数秒前までタイムたちの立っていた場所へ振るわれた。

 地面は、えぐれていた。

 綺麗に削り取られていた。


 音が止む。

 怪物がタイムたちを追う。


 タイムたちは、全力で山を登っていた。

 咆哮が聞こえた直後に全員が全力で逃げ始めた。

 襲われると直感で感じ取ったからだ。


 殺意というものがある。

 何かを殺したいと思う感情が漏れ出たものとして、外部のものは感じとれる場合がある。

 獰猛な魔物も冒険者から一般人まで余程の達人でなければ、漏れ出るとされている。

 だが、この巨人は違う。

 殺意が一切ない。

 漏れ出ていないではない。

 完全に0なのだ。

 いわば、ステージギミックや地形などと同じものだ。

 地形が殺意を抱くだろうか?

 否、冷酷にもそんなことはありえない。


 だからこそ、自らが生きる人間であるからこそ、それがより一層不気味に感じとれるのだ。

 これは、パキラも例外ではない。

 むしろ、生物の強者を好むパキラにとっては、さらにもう一層歪に感じられる。

 目の前の怪物は、生き物に見えるが、生き物ではない。


 全員が全力で駆け上がる。上を目指して、一直線に。

 タケは、元から身体能力は、そこそこ高い。一般人と比べればだが。

 タイムとパキラは、言うまでもない。

 タイムは、『勇気の形』で身体能力を上げ、【跳躍】を重ね、『影魔法』も併用している。

 【影移動】は、あえて使っていない。

 パキラは、正真正銘言うまでもない。


 アイリスの素の身体能力では、到底追いつけない。

 さらに生憎、アイリスは、身体能力を強化したり、素早く移動するようなEXスキルや固有能力(ユニークスキル)は、所持していない。

 というわけで解決策は、魔法だ。


 身体強化魔法『脚力強化』

 身体強化魔法『耐久強化・脚部集中』

 風魔法『補助風(サポートエア)

 医療魔法『痛覚緩和』


 有効な魔法を使えるだけ、重ね掛けし、詠唱を挟みながら、進んでいる。

 呼吸がしずらい分、かなりキツイだろう。


 そうやって何とか全員が逃げられていたのだが、問題が発生した。

 それは、怪物の進行速度が想定以上に速かったことだ。

 いくら速くともそれ以上の速度で追われれば、追いつかれてしまう。

 待っているのは、万人を待ち続ける死だ。


 最後尾にいたのは、タケだった。

 当然と言えば、当然だった。

 パキラを異例として除けば、特殊強化(ドーピング)なしで逃げているのだ。

 怪物の腕がタケへ振り下ろされる。


 そこで待ってましたとばかりにパキラが大剣で腕を弾こうとする。

 だが、衝突した瞬間、剣の動きは、ピタリと止められる。

 パキラの怪力をもってしても押し切れないほどの力。

 おそらくこの世でも有数だろう。


「パキラ、俺も手伝おう。二人は、このまま山頂を目指して逃げろ」


 タイムがタケとアイリスに告げて、聖剣を抜く。

 二人は、すぐに走り出し、山頂へ向かった。

 二人もここに残ったとして、力になどなれないことは、分かっていたからだ。

 タイムが去って行く二人から怪物に視線を向け直す。


「おい、タイム。こいつヤバイぐらい強いぞ!」


 パキラが言う。

 両者の力は、拮抗している。

 が、そんなことをやってのける生物など極めてまれだ。

 あるとすれば天変地異の化身くらいだ。


 タイムは、怪物の足首辺りに狙いを定めて聖剣を振るい、切り離す。

 怪物が大剣で押され、後方に倒れる。その光景は、倒木のようだ。

 たとえ力が互角だったとしても踏ん張ることができなければ、その力は、大幅に減少する。

 それでもパキラの大剣で切れなかったということは、それなりに堅く、それなりに切れにくいということだ。


 続いて、タイムは、聖剣を何度も振るう。

 倒れた怪物に向けて、斬撃を飛ばし、遠隔で切断する。

 聖属性の斬撃は、魔物などに特効を誇る。

 弱ければ、即死。強くても重症だ。

 普通の魔物相手であれば、過剰攻撃(オーバーキル)だろう。


「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


 だが、この怪物は、そんな攻撃で肉片に変えられても奇妙な叫び声を上げ、再生する。

 不死族(アンデット)よりも不死をしている。



「本当に化け物だな………………」


 タイムが見下ろしながらつぶやく。

 パキラは、そこへ飛び下りる。

 大剣に体重を乗せて、落下する。


 空気が振動する。

 大剣の刃は、怪物に直撃し、再生中の肉を断った。

 だが、それだけであり、再生されかけていた腕を振るわれ吹き飛ばされる。

 丁度タイムの真横を通り過ぎ、岩壁に叩きつけられる。


「おいおい、これで死なないってどうやれば死ぬんだ?」


 本人は、不満を漏らしているので、ダメージに関しての問題は無さそうだ。


『あっちの攻撃は、大丈夫として………………本当にどうやって倒せばいいんだ?』


 タイムも頭を抱える。

 最高威力の聖剣も意味はない。

 どんな傷からも再生するのでは、殺し切ることができない。

 タイムは、首を傾げて考える。

 そんな時、パキラが一言発す。


「それじゃあ、さっさと二人を追うか!」


「え?」


 タイムは、呆気にとられる。


「え? じゃないだろ。倒せないならサッサと逃げた方がいい」


 タイムは、数秒間思考を巡らせ、ようやくパキラがまともなことを言っていることを理解した。

 すぐに再生しかかっている怪物に聖剣の斬撃を数発食らわせる。


「よし、行こう」


 それを合図に二人は、登りだした。

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