39話 見送り
神聖国サンクトゥスは、テロからの復興が進められた。
破壊された建物の瓦礫を撤去し、再建のための準備が行われる。
だが、その瓦礫も数が多く、とてもすぐに終わるものではない。
町並みが完全に戻るのは、かなり先のことだろう。
そして何より優先されることは、死者を弔うことだ。
墓地に墓を建て、遺体を埋葬する。
無辜の民、勇敢な英雄たち、彼らの死を皆が嘆き悲しむ。
そして、前を向くのだ。
これからのためにも前を向く。
聖神の教えに従って前を向く。
◆
この日は、前を向くために重要な式典があった。
式典といっても、盛大なものではない。
ただ、人が集まっているだけで、巨大なモニュメントも美しいオーケストラの音楽も無かった。
青空の下で皆が見守る。
壇上――――――と言っても一段高くなった石畳の上だが、そこに二人の人物が立っている。
彼らは三神官のハチスとベゴニアだ。
三神官なのに二人というのは、違和感があるが、残り一人もこのテロによって殺害された被害者、ということになっていて、誰もが信じて疑っていない。
「それでは、これより式典を始めます」
ハチスの声が周囲へ広がる。
周囲は、静寂に包まれる。
「我々は、此度多くの代償を支払ってしまいました。それらは一つ一つが欠けようのない価値を持っていました。だが、失ってしまった」
ハチスは、暗い声で言った。
「ですが、我々は、立ち止まることを許されません。我らが神や先立ってしまった皆に合わせる顔を持つためには、進み続けなければならないのです!」
ハチスは、力強く訴える。
「今回の式典もそのためのものです。式典というには、形式もなにもありませんが、それは状況が状況です。皆さん硬くならずに明るく盛大にいきましょう」
ハチスは、笑顔で言った。
「それでは、壇上へ!」
そう言うと、四人が壇上へ上がる。
冒険者の四人組パーティだ。
腰に聖剣を携えた青年。
軽やかに慣れた歩き方の少女。
ぎこちない動きの少年。
長身赤髪の女性。
「彼らは、此度のテロを収めた者たちである!」
人々は、称える。
彼らのおかげで命があることに感謝する。
「冒険者タイム、アイリス、タケ、パキラ、以上四名へ感謝の意を表し、称号を与える!」
ハチスの口から宣言される。
「勇者一行! 神聖国サンクトゥスおよび三神官ハチス、ベゴニアの名において、この称号を授与する。異論のある者は?」
「ハチスさん、異論なんて誰もありませんよ!」
「もちろん!」
「国民の総意です!」
全員が異論なしだと、口をそろえる。
「それでは、正式に勇者の称号を授与する! これはサンクトゥスの総意である!」
そう宣言された。
歓声が上がる。
四名は、正式に勇者の称号を得た。
◆
「あー、緊張しました」
タケが言う。
授与式が終わり、四名は教会の一室へ呼び出されていた。
「タケは、動きがガチガチでゴーレムみたいだったね」
アイリスがからかうように言う。
「だって、緊張するでしょう! 普通!」
タケが訴える。
国家規模なのだからこれが普通だ。
「逆に何で皆さんは、あんなに気楽でいられたんですか?」
タケが問う。
「私は、あれくらいならむしろ少ないと思うくらいだし」
アイリスが何でもないように答える。
「俺は、理由が解らないが、記憶がないからかえって緊張しなかったのかもな」
タイムは、推測を話す。
「知らん」
パキラは、短く簡潔の答えた。
おそらく、大胆な性格などが要因だろう。
「皆さんが異常です。一般人の身にもなってください!」
タケが不満を言う。
「でも、それを言うのならタケは、今回お手柄だったじゃないか」
タイムが反論するように言う。
「タケは、物騒な集団を無力化して、リーダーを倒して、その仲間も気絶させたんだろ? 俺なんて逃げられたぞ」
「いやいや、どうせ凄く強かったとか、逃げに徹底されたとかでしょう?」
パキラも頷く。
タイムが負ける相手を想像できないのだ。
「そもそも相手は、本気じゃなかったんだよ。ほぼ、避けに徹せられて、余裕そうに軽口叩いてたし………………」
それを聞いてもタケは、疑いの目を向けていた。
扉がノックされる。
そして二人の人物が入室する。
一人は、ヴェロニカ。鎧ではなく、動き易そうな服を着ている。
式典の時、聖騎士は全員鎧だったので、着替えたのだろう。
もう一人は、ハチス。こちらは、式典から服が変わっていない。
というか、初めて会った時も同じ服だったので、これがデフォルトなのだろう。
「皆さん。授与式、おつかれさまでした」
ハチスが四人を労う。
「これで晴れて皆様は、勇者を名乗ることができます。世界でも有数な称号ですよ」
勇者の称号、それを名乗るハードルはとても高い。
この世界に存在する四つの主要大陸の内でも勇者を名乗る者は、片手でも指を持て余すほど少ない。
その理由は、約四百年前、世界を恐怖で覆った魔王を倒した勇者が基準として、存在しているからだ。
余程のことがなければ、国から認められることは、無い。
他には、神に認められるなどがあるが、信託での任命は、ほぼない。
それほど希少な称号なのだ。
「あの、それなんですが、本当に良かったんですか? 勇者を認めてしまって」
アイリスが心配そうに聞く。
「何も問題がありません。もし、人に疑われれば、サンクトゥスの名を出してください。大抵の場合は問題無いはずですから」
ハチスは、微笑みながら答えた。
「それならいいんですが………………」
アイリスは、渋々納得する。
話の区切りになった時、ヴェロニカが手を叩く。
「それより、今は必要な話があります。仕事もありますので、ハチス様、本題に入ってください」
ヴェロニカが我慢できなかったようだ。
できることなら、さっさと復興などの仕事に戻りたいのだろう。
「そうでした。本題に入りましょう」
ハチスが思い出したように本題へ移る。
「それで、本題というのは?」
タイムが前のめりで聞き入る。
「聖剣についてです」
「聖剣ですか?」
タイムは、腰に下げている聖剣へ目をやる。
聖剣は、以前の雰囲気を感じさせないほど綺麗になっている。
「この国に幾つの聖剣があるか、ご存知ですか?」
「確か、三本だったはず………………」
アイリスがすぐに答える。
事前に調べたか、知っていたのだろう。
「そうです。現在公表されているのは、三本のみです」
「というと、秘匿している聖剣があるんですね?」
「えぇ、秘匿と言っても発表の見送りをしているだけですが………………」
その聖剣が発見されたのは、数日前。
文献をたよりに調査をして発見された隠し宝物庫に奉納されていた。
だが、現在、国も復興途中のため、落ち着くまで発表はしないことにしたそうだ。
「聖剣は、国家でも一本所持しているかどうかの代物です」
サンクトゥスが多いだけで普通は、それだけだ。
「そして、個人単位で所持することも極めてまれ――――――というよりゼロです」
だが、タイムは所持している。
「そもそも普通の剣が聖剣になるなんて、神話くらいの話で、呪剣から聖剣へなんてどこにも前例がありません」
さらに原理を解明しようにも、サンプルが少なく。簡単に実験できる物でもない。
「もしかして、没収とかになります?」
タイムが心配する。
少しだけ、本当に少しだけだが、愛着があるのだ。
「いえ、そんなことは、しません。聖神の文献にも記されていますが、聖剣は、本来個人が所持する物だと記されています。兵器など、本来やってはならないことです」
つまりは、没収されない。
タイムは、一安心する。
「ですが………………」
ハチスは、難しい顔に変わる。
「ですが、他国などがどう出るかは、わかりません。場合によっては、狙われることも考えたほうがいいでしょう」
つまりは、要注意ということだ。
「気をつけます」
タイムは、少し軽く返事をする。
だが、内心では、タケ以外に盗まれてたまるかと息巻いている。
「まぁ、頑張って下さい。話は以上です」
ハチスは、それでは、と部屋を後にしようとする。
「………………そういえば、タイム君、君は、記憶喪失といっていましたね」
ハチスが退出寸前で言う。
「えぇ」
タイムは、何か情報が手に入ったのか、と期待する。
「本当に何も覚えていないのですか?」
ハチスは、タイムへ聞く。
「えぇ、何も」
タイムは、答える。
「そうですか、一時的な記憶の混乱などの記録はあったんですがね。残った情報となるとトゥエルブン大陸の11の月でしょうか………………謎ですね。こちらも調べておきましょう。それでは」
ハチスは、そう言い残して、部屋を出て行った。
それに続き、ヴェロニカも退出した。
◆
翌日、四名は、身支度をする。
何の身支度かというと、旅立ちの支度だ。
彼らは、これからここ――――――神聖国サンクトゥスを旅立つ。
「いいんですかね。あんなに祝ってもらったのに黙って出て行って」
タケが申し訳なさそうに言う。
「一応、ハチスさん宛てに手紙も送ったし、大丈夫だろう」
タイムは、そう言って、国を出るため壁門へ向かう。
ちなみに旅立ちの理由は、特にない。
しいて上げれば、復興で手伝いもできなくなってこれ以上滞在するの申し訳ないと感じ始めたからだ。
四人は、国を出る。
「旅立ちですかな?」
潜った瞬間、声をかけられる。
振り返れば、その声の主は、ハチスだった。
「何でここにハチスさんが?」
「ただ、少し散歩をしていただけですよ。それで運良く出発に立ち会えたというわけです」
ハチスは、答える。
「すみません。急に出て行ってしまって」
「いえ、別にかまいませんよ。旅とは、本来自由なものですから」
ハチスは、ゆっくりと手を高い位置へ上げる。
「それでは、お元気で」
ハチスは、のんびりと手を振った。
見送られ、勇者は、旅立っていった。




