38話 事後処理
神聖国サンクトゥスのテロ騒動、それが発生してから間もない頃、聖騎士の出払った宝物庫にて、ある人物が倉庫内部を探っている。
その人物は、ハチスと同じ三神官の一人、クレマチス。
彼がこんな場所で何をしているのかというと、この世で数少なく、同じものが一つとして存在しない最高の祭具、宝物たちを我が物として甘い蜜を吸うためだ。
もっと完結に言うと、火事場泥棒だ。
ただ、その火事は、自ら起こしたものだ。
つまり、彼が今回の大規模テロの首謀者なのだ。
盗みのためにテロを業者に外注し、自分は、その間に宝物を盗む、無くなっていたとしても不思議ではないし、疑われることもないという計画だ。
実際、その計画は成功し、外はそれどこではない。
クレチマスは、のんびりと貴重な品々を物色する。
聖神の羽衣、聖剣の破片、惑星の宝玉などなど。
祭具、宝具の数々。
それら一つで今回の被害の復旧費を賄えるほどの価値がある。
それほどの品物なのだ。
『フフフ、これだけあれば、一生遊んで暮らせるかもしれん』
クレマチスは、思わず口元を緩め、笑みをこぼす。
彼は、この後、あるタイミングでサンクトゥスを抜け、別の大陸へ逃げる気でいる。
サンクトゥスの人々は、復旧に忙しく、追いかけることも叶わないだろう。
クレマチスは、完璧な計画だと自負している。
ありったけの宝を空間拡張の施された魔道具の袋へ詰め込み終わる。
そして何食わぬ顔で宝物庫を去ろうする。
「クレマチス殿」
不意に背後から名を呼ばれた。
クレマチスは、反射的に振り返る。
そこにいたのは、同じく三神官のハチスだった。
「こんな時に、こんな場所で何をしておられるのですかな?」
クレマチスは、冷や汗をかく。
このままだと計画が露見する。
そうなれば、逃亡にも支障が出る。
『かくなるうえは………………』
クレマチスは、魔法を用意する。
目撃者を始末するためだ。
死体が見つかっても、その罪を侵入者に被せればいい。
「あー、大丈夫ですよ。告げ口をする気は、ありません」
魔法を察したハチスは、そんな事を言う。
クレマチスは、面食らった顔になる。
「どういう事だ? ハチス?」
クレマチスは、ハチスに問う。
「いやー、実は前々から気が付いていたんですよ。あなたが神を信仰していないこと」
「それは………………」
クレマチスは、言い訳をしようとする。
「いえいえ、結構、結構。実は、私も聖神なんぞを信じていないんですよ」
クレマチスの言葉を遮り、そんな事を告白する。
『なるほど、こやつもこっち側か………………』
クレマチスは、そう納得しかける。
「それなら丁度いい。利益を分けるから協力せんかね?」
クレマチスは、ハチスを共謀へ誘う。
もし、乗ってくれば、確実に黒で間違いない。
あわよくば、全ての罪をハチスに被せようと考えたのだ。
「それは良い。私も手伝いましょう」
ハチスは、承諾する。
クレマチスの中で黒が確定しかける。
「そう言えば………………クレマチス殿。隠し宝物庫を知っていますかな?」
「何?」
ハチスの言葉にクレマチスは、反応する。
隠し宝物庫など見たことも聞いたことも無い。
疑いが強まる。
「最近ですが、文献の調査で記述を発見したのですよ。そして今日、実際に確かめるつもりでいたんですよ」
「それは本当か?」
クレマチスは、疑う。
あまりにも嘘くさい話だ。
即興でつくったように思える。
「えぇ、事実ですよ」
「では、何故、私に言った?」
「どうせなら、この騒動に乗っかって、中身を盗ってしまおうと思いましてね。それならテロの計画者が居れば動き易いでしょう?」
ハチスは、何食わぬ顔で告げる。
だが、クレマチスは、まだ警戒を解かない。
「文献によれば、そこにある宝物は、ここの物より貴重な物が多いそうですよ」
ハチスは、思い出したように言う。
その言葉で、クレマチスの脳内は、金貨で埋まった。
完全にハチスを信用する。
「さっさと行くぞ。案内しろ!」
クレマチスが歩み出す。
「えぇ、それでは………………」
クレマチスが意気揚々と出発しようとする。
破炎魔法『火壊四肢』
クレマチスの手足が突如、発火する。
「ギャアァァァ! 何だ! これは!」
クレマチスは、もだえ苦しむ。
絶叫は、どこまでも続く通路に消える。
現在、その周辺には、人がいない。
『熱い! 痛い!』
地面にこすりつけても火は、消えない。
水魔法での鎮火を試みるが、焦りからか明後日の方向へ水球を飛ばす。
飛んで行った水球は、床に水たまりを形成する。
クレマチスは、焦りからその水たまりへ手足を擦りつける。
「クソッ! クソッ! 何故消えない!」
火は依然として燃え続けている。
「痛いですか? クレマチス」
ハチスが苦しむクレマチスに聞く。
冷酷な目で問いかける。
「貴様ッ! 早くこれを消せ!」
血走った目で怒鳴る。
「さっきまでは、演技だったのだな!」
するとハチスは、答える。
「えぇ、ですが、演技は、あなたと協力する所だけですよ」
ハチスは、告げる。
「隠し宝物庫の事も事実。神を信仰していない事も事実。そして………………」
ハチスは、見下すように言う。
「そして、告げ口しない事も事実です。クレマチス、あなたは、ここで死んでいただきます」
「貴様ッ! よくも………………」
破炎魔法『魂肉火壊』
ハチスが文句を垂れる前に魔法で焼く。
破炎は、手足から全身へ広がる。
「アアアアアアァァァァァァ!」
ハチスは、苦痛に絶叫する。
その痛みは、肉体を破壊しながら焼く、破炎の性質のためだ。
肉体は酸化せず、細胞単位で一つ一つ壊れ、それが体表から内部へ侵食していく。
声もすぐに出なくなったし、筋肉もすぐに焼き壊れ、焼死体と化す。
『アアアアアアァァァァァァ!』
それでも止まらない。
肉体を燃やし尽くした後は、魂まで焼き完全破壊する。
その痛みは、神経を直接、丁寧に破壊するような激痛だ。
魂は苦痛を受けながら消滅した。
今後一切、彼は転生することもできないだろう。
「全く、虫酸が走る」
ハチスが不快そうに吐き捨てる。
ハチスは、焼死体へ目を向ける。
それは、焼死体というよりただの灰だった。
原型をとどめていない。
破炎魔法『灰塵焼失』
その魔法は本来、相手を跡形も残さず焼失させる魔法で、灰も残さない。
ハチスは、その魔法を灰を消すために使用した。
消え去るとそこは。何も無かったかのように普段通りの通路へ戻る。
ハチスは、宝物の入った袋を取り、宝物庫へその品々を戻す。
そして何食わぬ顔でその場を後にした。
◆
テロ騒動が収拾される。
その国の歴史に残るような大事件は、甚大な破壊活動と人的被害を出した。
建造物破壊95件。
死者283件。
重症160件。
軽傷者1000件以上。
それらの被害を出した者たちは、ある冒険者パーティが各個撃破したのだ。
タイムは、忍者の逃走後、最初に向かったのは、タケの元だ。
それは単純に他の二人よりも負傷の可能性があるからだ。
その予感は、案の定、的中した。
タケは、発見された当時、毒と出血多量で気絶していた。
そして、近くには、黒ローブを羽織った集団が倒れていた。
タイムは、状況を見て、タケの応急手当をし、集団をロープで拘束し、やって来た聖騎士に後を任せた。
そして、次に中央部へ赴くと、アイリスとパキラが一緒におり、二人揃って無傷だった。
三人は、救助活動をしながら、教会へタケの様子を見に向かった。
幸い、完治に少しばかり時間がかかるだけで命に別状はなかった。
それから数日間、三人で事後処理に協力し、動けるようになったタケも加わった。
タケは、他三名に安静にしているように言われるが、それでも働こうとしたため、最終的にベットへ縛り付けられた。
サンクトゥスの復旧は、完全ではないが、ある程度の重要部分が終了した。




